2023年10月24日
(聞き手:堀祐理 幕内琴美)
コロナ禍を乗り越え、メイクアップにとどまらない次の段階へと大きく飛躍しようとしている化粧品業界。“美”の力を通して、すべての人の心身ともに充実した生き方に貢献する、その展望について、2022年に創業150年を迎えた資生堂の人事担当者に聞きました。
コロナ禍では、化粧する機会が大幅に減ったと言われていましたが、アフターコロナの今、なにか変化はありましたか?
最近はまた外出の機会や、仕事でも対面の会議なども増えてきていて、特に弊社でもメイクアップ分野の売上がまた上がってきていると感じます。
お化粧をする機会をさらに作り出そうということで、コスメの体験イベントなども積極的に行っています。
メイクアップ商品以外でも何か変化はありましたか?
今は世代や性別問わず、スキンケアへの興味を持ってくださるお客さんが増えていると感じています。
例えば、弊社では男性の皮膚などについても研究を行っており、男性の肌悩みにあわせたスキンケア商品も展開しています。
日本の化粧水などは、海外でも人気だと聞きました。
そうですね、弊社でもメイドインジャパンの高品質な製品を、グローバルに安定的に提供する体制を整えています。
日本だけでなく、世界の各地域でも生産を行っていて、地域ごとのニーズに迅速に対応できるようにしています。
1つ目のキーワード、パーソナライズとは何でしょうか。
「これが流行っています」というふうに画一的にモノやサービスを提供するのではなく、多様化したニーズにあわせて1人1人に最適な提案をしていくという考え方です。
弊社でいえば、お客さま1人1人で肌の悩みや求めるものも違うので、そういったことにこちらから合わせて、最適な商品を提案していくということになります。
化粧品は、個々の体質や好みなども千差万別のため、ニーズが細分化されやすいカテゴリーだと感じます。
ニーズが以前から変化しているということですか。
最近では働き方も多様化するなどライフスタイルなども変化していて、ニーズはさらに細分化していると感じます。
あとはSNSや配信サービスなどが普及したことで、個人のインフルエンサーさんなども多くなり、10人が10人違う方をリスペクトしているような時代です。
これまでのような「乾燥肌を治したい」などだけでなく、「このインフルエンサーさんみたいになりたい」というようなご相談も増えてきました。
そのような漠然としたニーズに対応するのは難しそうです。
やはり、直接話をするのが、もっとも最適な提案ができる方法だと思っています。
店頭での販売の話をすると、弊社ではもともとBC(ビューティーコンサルタント)と呼ばれる美容部員たちが、カウンセリングなどを行って販売していました。
最近では、さらにパーソナライズの考え方を受けて、PBP(パーソナルビューティーパートナー)と名前を変え、より細分化したニーズに対応できるよう研修方法を変えました。
先ほどのような「この人みたいなイメージになりたい」など、1人1人違ったお客さまのお悩みやニーズにも応じられるためのトレーニングを積んでいます。
私も最初は、何を買えばいいか全くわからなくて、カウンターで相談してわかったという経験もあります。
そうですね、自分ではわからないニーズも掘り起こせると思います。
やっぱり店頭に買いに行くのは恥ずかしいという人もいると思います…
最近はテクノロジーの進化にコロナ禍もあいまって、オンラインでのカウンセリングもかなり普及してきています。
仕事や家事などで日中買い物に行けない人や、コスメカウンターに行きづらいと感じる人もいると思います。
そういった人にオンラインサービスの存在が人気で、利用者も増えていますし、私たちもさらに幅広い層の方に接触することができています。
あとは、対面で話すということ以外でも、ニーズを掘り起こす方法はいろいろと模索されていて。
今年、新たに弊社で始めたのは、唾液からDNAを採取して、肌の特性を分析できるというサービスです。
自分は知らなかった持って生まれた肌の特性がわかり、化粧品のケアだけでなく、食事、睡眠、運動などの総合的な、よりパーソナルなアドバイスができます。
サービスの提供の仕方も、多様化しているんですね。
2つめに、女性の活躍をあげていただきましたが、これがなぜいまニュースなのでしょうか。
女性活躍の指針のひとつとして、企業の管理職に占める女性の割合を国などが調査しています。
この割合が、日本ではまだまだ国際的にみても低いと言われているんです。
男女の働き方について厚生労働省が行った調査で、企業の課長級以上の管理職に占める女性の割合は昨年度12.7%で、前の年に比べて0.4ポイントの上昇にとどまった。
厚生労働省は「女性管理職の割合は国際的に見ればG7では最下位で低い水準。今後も長期的な取り組みが必要だ」としている。
ちなみに資生堂ではどのくらいですか。
日本国内の事業所で言うと、現在は37.6%(2023年1月時点)です。
2030年までに国内で50%まで上げようというのを、会社の目標として掲げています。
なぜ女性の管理職比率を高めることができたのでしょうか?
弊社は特に女性が多い会社でもありますし、管理職の前に、そもそも「全ての女性が働きやすい会社」をつくることから始まっています。
特に女性のキャリアアップの上で、出産や育児などがひとつのハードルになることが多いと思うので、そこへのサポートはとても重要です。
弊社は男性も含めた育休の取得徹底や、事業所内保育所の設置、さらに多様な働き方に合わせた柔軟な保育を実現するため、シッターサービスを中心とした総合的な保育サービスの提供も開始しました。
育児と仕事の両立が可能な環境を整えてから、次のステージである管理職の増加へとつなげられると思います。
実際、育児しながら仕事をできるようになっていても、そこから管理職になりたいとまで思うのって、勇気がいりませんか。
まさにそこで、管理職になりたいと女性たちが思うこと自体が大切で、そこに至るための意識改革が必要なんです。
男性の管理職が多い中だと、どうしても強いリーダーシップをイメージする人が多いのですが、実際は管理職としてはいろいろな部下の支え方があるはずで、その考え方のバイアスを取り除くことが必要です。
意識改革のために、具体的に何を行っていますか。
2017年から、女性リーダーを増やすための特別なプログラムを行っています。
女性社員がマネジメントや経営のスキルを学びながら、自分らしいリーダーシップスタイルを見つけるというものです。
実際に、受講した女性社員のおよそ半分が、昇格を遂げました。
目標である女性管理職比率50%に引き上げるために、経営幹部候補向けなどプログラムを拡大し、次世代のリーダーの育成強化につなげています。
また、役員と女性社員によるメンタリングプログラムも行っていて、女性役員の生の声をきくことができます。
そういった取り組みを通じて「自分でもなれるかも」「自分ならこんなリーダーになりたい」とイメージをふくらませていきます。
そもそも、なぜ女性の管理職比率を高めるべきなのでしょうか。
管理職や役員の多様化をはかることで、さまざまな立場からの多様な意見を交えながら、より良い意思決定をすることができます。
役員が多様化することで、中長期的に見ると、企業の業績自体が上がっていくというデータもあるんです。
多様性を生かせば、新たなアイデアも生まれやすく、企業価値も向上しやすいと言えると思います。
女性が働きやすく発言しやすい企業は、女性のためだけじゃなく、あらゆるジェンダー・人種なども含めたすべてのひとが働きやすい企業につながります。
そのような風潮を日本の他の会社、社会に広めていくためには何が大切だと思われますか?
自社での取り組みをお互いに共有しあうことで、日本社会全体をよくしようという意識の経営者の人は増えてきています。
そういう環境作りを、1つの会社だけではなくて協調しあってやっていくというのも大切だと思います。
少子化もあって働く人口が減っている中で、人材の確保のためにも女性の活躍が不可欠ですし、多様な意見でイノベーションを起こせる会社こそが、生き残れる会社になるはずです。
そして、そういった会社が増えることで、持続可能な日本の社会が実現できると思います。
「外見ケア」って初めて聞きましたが、何でしょうか。
肌に深いお悩みを持った方、例えばがん治療の副作用などによる外見上の変化に対し、化粧の力で支援する活動をしています。
もし気にしている方がいれば、少しでも自信を持ってほしい、前向きになっていただきたい、ということを思って、行っております。
この取り組みというのは、昔から行われていたのでしょうか。
古くは戦後、やけどのあとで悩まれている方に対して資生堂が何かできないか、ということから始まって、がんなどの外見ケアに広まり、今に続いています。
ただ、これまでは入院してがんを治療する方も多かったのですが、最近では医療技術が進歩してきて、家で暮らしながら、働きながら、通院ベースでがんの治療を目指していくという方も多くなってきています。
そういう中で、こういったケアのニーズは高まっているかなと思います。
外見の変化と向き合いながら社会生活を送る人たちに対して、お化粧を通してサポートしていくということですね。
どういうアプローチで商品を販売しているのですか。
商品は全国の取扱店で購入できるのですが、主に医療現場で、患者さん・医療従事者向けのセミナーを行うなど、外見ケア活動自体の認知をより広めていく活動もしています。
あとは、自社で専用のセンターも設けていて、プライバシーを守りながら肌悩みの相談を受けたり、適切な化粧品の使い方をレクチャーするなどしています。
よく知られる化粧品メーカーがやることで、安心感を与えられるという意義もあると感じています。
そういった活動に資生堂が力を入れているのは、どういう思いがあるのでしょうか。
最近、ウェルビーイングという言葉をよく耳にしますが、心身ともに幸せで充実している生き方、弊社はそれを“美”を通して叶えられると考えています。
SDGsの考え方の広まりもあり、これからは、社会にとって本当に意義がある会社なのかが問われる時代です。
自分たちの強みをいかした社会貢献を通じて、存在感を高めていくことが、これからの企業にとって大事なことだと思っています。
資生堂の求める人物像というのを教えていただきたいです。
弊社は「PEOPLE FIRST」というものを経営理念として掲げています。人こそがビジネスを行う上での最大の資源だという考え方です。
一方でそれは、しっかり人に投資して、その分報いてもらうという健全な関係を目指しているので、働く側としても、しっかり成長意識をもってほしいとは思っています。
資生堂という舞台を使って自分でこういうことをやりたい、化粧品だけでなく“美”を通してこういうことをしたい、そのイメージを持ってもらいたいです。
就活生にアドバイスはありますか。
まず自分ってどんなことが好きなんだっけとか、大学時代より前の経験も含め、言語化されていない価値観って絶対にあると思うので、そういうことをしっかり明確にすること。
そのうえで、自分にフィットする会社がないかなという風に見つけていくのがよいかなと思います。
自分を偽ることなく伝えて、それで内定が出たところは、入ってからも違和感なく働き続けて活躍できると思うので、自身の大事にしているものを変えたりすることはしないでほしいですね。
ありがとうございました。
撮影・編集:脇本彩香
あわせてごらんください
人事が選ぶマストニュース
ユニ・チャーム 人事担当者に聞く 家庭ゴミの8分の1! 使い捨てはもうやめよう
2021年11月24日
人事が選ぶマストニュース
ライオン 人事担当者に聞く “脱プラ”でスクラム?!生活用品業界最前線
2021年03月12日
人事が選ぶマストニュース
富士フイルム 人事担当者に聞く 激動の時代!「変われる企業」の見分け方とは?
2020年01月16日