2023年02月28日
(聞き手:梶原龍 藤原こと子)
そういえば、節電の要請って増えたような。電力会社は電気を売っているのに、最近は省エネや節電をお願いをしています。
相次ぐ自然災害や燃料費の高騰、さらに電力自由化などによって経営環境が激変していく中、電力業界の「いま」と「これから」について、東京電力ホールディングスの採用担当者に聞きました。
電気って暮らしに欠かせなくて身近なんですけど、電力会社の仕事って「電気をつくる、送る」以外にイメージがわかなくて・・・
電気はためられないので基本的につくった瞬間にすぐ消費しないといけないものなんです。
でも、需要と供給のバランスが崩れてしまうと予測不能な大規模な停電を招く可能性があります。
だから、いつもどのくらいの量の電気が必要なのか、先を見越してつくることがとても大事で、それが仕事の難しさでもあり、醍醐味のひとつでもあります。
なるほど
また、人々の生活の礎になれるのはこの仕事の非常に大きな魅力じゃないかと思います。
電気を通じて社会の仕組みを抜本から変えることができるかもしれないと、やりがいを感じている社員も多いです。
最近、料金の値上げを申請したというニュースをみました。
ウクライナ情勢などによる国際的な燃料不足や円安の影響もあって、電気の調達費用が大きく増加しています。
電力会社の経営環境は厳しい状況が続いていて、このままでは「電力の安定供給」にも支障をきたすおそれがあります。
そのため、お客さまにご負担をおかけするのは本意ではないんですが料金の値上げの申請という苦渋の決断にいたりました。
これからの電気料金はどうなりそうですか。
電気は生活に欠かせないインフラなので、極端に値上がりしてしまうとお客さまの暮らしに大きな影響が出てしまいます。
国や東京都の補助事業に参画したり、お客さまの省エネ・節電を補助する施策を充実させることで、お客さまのご負担軽減に努めています。
ひとつ目のニュースはその「省エネ・節電」ですね。なぜ選ばれたんでしょうか。
今、CMで「電気を大切にね!」というキャッチフレーズでおなじみの「でんこちゃん」が登場しているのですが、みなさんご覧になりましたでしょうか。
親がテレビCMで「でんこちゃん」を久しぶりに見たと懐かしんでいました。
実はテレビCMでは約10年ぶりの登場です。
10年ぶりの登場、どうしてですか?
この冬は安定供給が確保できる見通しですが、今後、発電機の計画外の停止などによる電気の供給力の変化によっては、電力の安定供給が厳しい状況となることもあります。
7年ぶりに政府が節電要請を行っているなかで、当社としても効果的な省エネや節電方法をより多くの人に知っていただきたいということで、「でんこちゃん」に久しぶりに登場してもらい、節電を呼びかけています。
そもそもなぜ、電力が不足しているのでしょうか。
昨年3月に起きた福島県沖を震源とする地震では多くの火力発電所が停止し、復旧に時間を要しました。
この時は、ちょうど首都圏で季節外れの寒さとなって暖房需要が増えたことで、供給に余裕がなくなってしまったんです。
このように、災害などで電力の需要と供給のバランスが崩れると、大規模な停電が起こる可能性があるんです。
天候や災害ってコントロールできないと思うので、必要な電気をいつも届け続けるってあらためて難しいんですね。
ちなみに身近でできる節電ってどんなことがありますか。
これは、具体的な省エネ・節電方法が分からないというお声で作成したチェックシートです。皆さんに無理のない範囲で、引き続き省エネ・節電をお願いできればと思います。
電気を売るのが仕事なのに、「電気を使わないで」とお願いするというのは、複雑ですね。
仰る通りですが、継続した省エネ・節電により、当社としても電気の調達費用を抑えることになりますし、お客さまの電気料金の実質的な負担軽減策となります。
また、省エネや節電による効率的な電気の使用は、中長期的にはカーボンニュートラルの実現にもつながります。
まさに次のニュースが、カーボンニュートラルですね。
現在、日本の発電量の約7割が火力発電によって生み出されています。
2050年までにカーボンニュートラルを達成するという世界的な目標が掲げられる中で、CO2を多く排出する火力発電から脱却しなければいけません。
そこで注目されているのが再生可能エネルギーです。
太陽光とか風力、水力とかですか。
そうです。今では再生可能エネルギーで発電する電力が日本全体の約2割を占めています。
特に太陽光発電の導入容量では、中国、アメリカに続き、日本は世界で3番目に多くなっています。
再生可能エネルギーは、太陽光発電のように、住宅の屋根といった比較的狭い場所でも設備が設置できる特徴があります。
このような特性を活かして「電気の地産地消」という取り組みも進めています。
電気の地産地消ですか!?
地域で発電した電気を、その地域で使うという考え方です。
電気をつくる場所と使う場所はなるべく近くにあったほうが、送配電ロスが少なく経済的です。
※送配電ロス=送配電線の抵抗により、一部の電気エネルギーが熱として失われること
再生可能エネルギーが増えてくれば、ある程度、自分たちの地域で使う電気を、その地域でまかなうことも可能になります。
こうした電気の地産地消が進むとコスト面以外でもメリットがあるのですが、何か分かりますか?
なんでしょう。ぱっと思いつきません。
答えは、災害への備えにもつながるということです。
大きな災害が起きたとき、発電設備や送電設備が被災する場合があります。
過去には台風の被害で停電が長時間続いたことがありました。
地域で発電設備を持っていれば、使用する送電設備が短いため、停電するエリアが少なくなり、災害の被害を最小限にとどめられる可能性があります。
また、海辺や山間部の街では風力発電設備を作るなど、地域の特性に応じた「まちづくり」を通じて、地域全体のカーボンニュートラルと防災を実現していきたいと考えています。
3つ目のニュース、プロフェッショナル人財について、あげられた理由を教えてください。
電力会社にとって最も大事な使命は何だと思いますか。
安定して電力を届けることでしょうか。
そうです。ただ、安定供給を守るだけのビジネスモデルからは脱却しないといけないと思っています。
新しい事業にどんどん挑戦していくためには、これまでの価値観や、従来のやり方にとらわれない、プロフェッショナルな人材を育てていく必要があります。
それはなぜですか。
電気について、お客さまから求められる価値が変化していると感じているからです。
2016年の電力の小売全面自由化も大きな転換点でした。
電気をどの会社から買うか、自由に選べるようになりましたね。
その通りです。
ある会社から買った電気が、ほかの会社の電気と比べて、商品の質に何か違いがあるかというとそうではありませんよね。その場合、どのような基準で会社を選びますか?
やっぱり料金ですかね。
そうですよね、なるべく安いところで買いたいと思いますよね。
一方で、電力会社としては、価格競争の激化で疲弊してしまい、電力の安定供給にも影響を及ぼしかねません。
だからこそ、価格競争ではなく、いかに付加価値をつけて電気を売っていくかに挑戦しています。
だからプロフェッショナルな人材が必要だと。
その通りです。そのため、様々な場面で社員が挑戦する機会を設けています。
例えば、研修では、将来の経営を担うリーダーやDXに強い人材の育成など、一人ひとりが個々の能力を最大限伸ばせるようにしています。
なかには、研修をきっかけに、会社を立ち上げて社長になった方もいます。
研修を受けただけで社長ですか!?
次世代のリーダーを育てていくための研修を受けた社員が、研修で与えられた課題において、事業プランを提示しました。
そのプランが経営層にとても評価されて事業化されることになり、その社員は社長として事業に取り組むことになりました。
天候などの影響を受けやすい再生可能エネルギーによる発電は、コントロールが難しいため、電力が余ってしまうことがあります。この余った電力を有効に活用するためのシステムを提案したんです。
研修での提案が会社の設立につながるんですね。
電力事業とひと言でいっても、そのフィールドは幅広く、事業を開拓できる余地がまだまだあります。それは国内のみならず、海外という大きなフィールドにおいても同様です。
え?社名から海外での事業はちょっと想像つかないです。
私たちは首都圏の多くのお客さまに電気を送り届け続けてきた実績がありますので、その技術力や知見を海外でも活かすことができると考えています。
例えば最近では、イギリスの洋上風力発電所で、送電線の保守・運営事業に関わる優先交渉権を取得しました。
当社が日本で培った知見を活かし、現地の送電・変電設備の事業運営を23年間にわたって行う予定です。
最後に、電力業界に求める人物像について教えてください。
私たちの事業が未来を切り拓きお客さまの期待を超える価値をお届けするための原動力は、社員一人ひとりが持つエネルギーと考えています。
お客さまや社会のために自分がどのように貢献できるかを「自律的」に考え、「多様」な価値観を持つ人と議論をしながらお互いに高め合い、「情熱」をもって挑戦し続ける人材を求めています。
ありがとうございました!
撮影:西條千春
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