新型コロナウイルスに翻弄された航空業界志望の就活生

2020年07月06日

航空業界は、いつの時代も学生から人気が高い業界のひとつでした。
ところが、新型コロナウイルスの影響で、業界全体が打撃を受けた航空業界は採用の見直しに迫られ、全日空や日本航空でさえも、新卒採用の中断という事態に追い込まれたのです。
航空業界で働くことを夢見て、努力してきた就活生はいま、どうしているのか取材しました。

【「採用中断」現実に・・・】

 

「2021年入社新卒採用については現時点では継続することが困難であると考え、やむなく『中断』とさせていただく」

全日空グループの企業から届いたメール

5月8日、就活生のもとに全日空から届いた1通のメール。採用活動の中断を知らせるものだったのです。

「あ、来たか・・・」

新型コロナで緊急事態宣言が全国で発令されるさ中に進められた今年の就活。
航空業界を志望していたこの就活生に、ついに現実となって突きつけられたのです。

【憧れの客室乗務員】

新型コロナで突然、希望の進路を断たれた学生たちは、いまどうしているのでしょうか。
客室乗務員を目指して就活をしてきた都内の大学4年生の葵さん(仮名)に話を聞きました。

葵さんにとって客室乗務員は小さなころからの憧れだったといいます。
飛行機に乗って旅行をするたび、りんとして働く姿を見て、かっこいい女性になりたいと思いは強くなったそうです。

北海道出身の葵さん。
客室乗務員になるためには東京でいろいろな経験を積みたいと、都内の大学に入学。
客室乗務員として必要な英語の勉強以外にも、経験を積もうとさまざまな接客業のアルバイトをして多くの人と関わってきました。

実家に飾っている制服姿の人形

「根が頑固なので」という葵さん。

昨年の秋、家族の心配をよそに航空業界に絞って就活をスタート。
「業界分析」は航空業界だけ、企業の合同説明会も航空会社が参加している場合にだけ足を運びました。

【コロナの足音】

年が明けて新型コロナウイルスの感染が世界に広がり始めましたが、当初は、いくらか楽観していたといいます。

「就活のスケジュールが遅れてしまうかな、というくらいに考えていました。ここまで深刻な見通しの立たない状況になるとは思わなかったです」

それでも航空業界に絞り、客室乗務員の職で7社にエントリー。
客室乗務員以外も含めると約15社の航空関連の企業にエントリーシートを送りました。

しかし4月、緊急事態宣言が出され、大手企業は在宅ワークが当たり前に。本格的に人が移動しない生活が始まってしまったのです。

「ほんとうに飛行機に乗る人がいなくなる・・・」

危機感を強めた葵さんは航空業界以外で、まだエントリーシートを受け付けている企業を探しました。不動産、銀行、証券、アパレル・・・、手当たりしだいに申し込みました。

客室乗務員の夢は諦めていなかったから、でも・・・。

【中断メール】

5月8日、業界で最も早く全日空が新卒採用の中断を発表。葵さんにもメールが届きました。

「難しいかもと思いながら、どこかで希望は捨てきれていなかったので、すごくがっかりしました。人生でいちばん落ち込みました。『中断』とは書いてあったけれど、きっと再開されないのだろうと不安が急に大きくなりました」

その後、各航空会社から相次いで「中断」の連絡が届いた。もう気持ちを切り替えるしかないと、ほかの業界の企業の試験対策を急いだそうです。

日本航空からの「採用中断」の連絡

それでも、面接も筆記試験も何も受ける機会がなかったことが悔しい。エントリーシートを提出してそれっきり。客室乗務員を目指す就活は止まってしまったのです。

「実際に受けて落ちたなら諦められるけど、挑戦する機会すらもらえないなんて・・・」

【覚悟していた】

覚悟をしたうえで、5月の「中断」連絡を受けとめた学生もいます。

航空系の専門学校に通う玲奈さん(仮名)は、客室乗務員は「責任感を持って働く、理想の女性像」と憧れ、客室乗務員になるために専門学校を選びました。

就活では、客室乗務員の職で7社にエントリー。しかし、ことし初め中国で新型コロナウイルスの感染が拡大しはじめた段階で、航空会社の採用がこれまでどおりではなくなるのではと感じていました。

すぐに学校の講師らに相談すると、SARSが感染拡大した時のことを調べたほうがいいとアドバイスを受けました。調べてみると、この時は採用をやめた航空会社がありました。今回はSARSよりも広く世界に拡大するのではと感じたそうです。

「航空会社は新卒採用をしないのではないかと、強い絶望感を覚えました」

【“既卒”でCAを目指す】

2月、航空業界以外にも目を向けようと、たくさんの企業説明会に参加。高い接客マナーが学べるはずだと、ホテル業界にもエントリーシートを送りました。いったん別の企業に就職したうえで、“既卒”で客室乗務員になる道を模索しました。

そして、航空各社からの採用中断の連絡も「やっぱりか」と、どこか落ち着いて受け止めました。

「正直、新型コロナが流行している中で客室乗務員の仕事をすれば、感染リスクがあると怖い気持ちもありました。この予期しない状況では、航空会社自体の経営も当然大変だと理解できました」

「ただ、スタートラインにすら立てなかったという悔しさは強いです。試験を受けてすらいないのは、お世話になった先生たちにも申し訳ない気持ちです」

幸い大手ホテルから内定を得ることができ、まずはホテル業界で働きながら、客室乗務員を目指すことを決めました。今は、専門学校の授業を受けながら、オンラインで英会話を習ったり、世界遺産検定の勉強をしたりしています。

「すべては客室乗務員になるため」。

【「現実的な判断を」】

客室乗務員を目指す学生を多く抱える学校は、この状況にどう対応しているのか。ある航空系の専門学校に話を聞きました。

「客室乗務員を志望する学生は進路が決まらない状況だ。専門学校は2年制なので、いったん別の企業に就職して“既卒”で客室乗務員を目指すことも、決して遠回りではないとアドバイスしている。学生にはつらいが、現実的な判断をしてほしい」
「ただ、それでも諦めきれないという学生もいるので、これまでにないことだが、『留年』や『休学』といった制度的な対応も必要ではないかと検討している」

 

【どう就職すべきか・・・】

冒頭で紹介した大学4年生の葵さんも、来年以降、“既卒”で客室乗務員を目指すことを決めました。しかし、どんな企業に就職すべきか悩んでいます。

転職を前提に勉強する時間などが取りやすい契約社員か、それとも業務が忙しくても安定した正社員か。今、地元の北海道に戻って金融機関の採用試験を受けていますが、まだ答えは出ていません。

新型コロナに翻弄された就活。

「会社も誰も悪くないのですが、なんで私が就活する時にって・・・つい考えてしまいます」

 

取材・構成:加藤陽平

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