2021年09月17日
(聞き手:小野口愛梨 本間遙)
連続テレビ小説「おかえりモネ」で描かれている気象予報士。実際はどんなふうに働いているのでしょうか。NHKの「ニュースウオッチ9」で気象キャスターを務める斉田季実治さんに就活生が聞きました。
斉田さんは「おかえりモネ」の気象考証をされたと伺いました。
実際にどんなことをしていたんですか?
台本を見て、そこにある気象現象が間違っていないかを確認する仕事です。
ただ、季節や時間、場所によって、起こりえることと起こりえないことがあるので、台本をつくる前の段階から取材を受けていました。
例えば、百音が東京で就職した4月だったら、どういう事例で物語が作れますかっていうような。
連続テレビ小説 おかえりモネ
宮城県気仙沼の島で育った永浦百音(清原果耶さん)が、東京から来た気象予報士との出会いをきっかけに予報士を目指す。上京し民間の気象会社で働く機会を得た百音は、個性的な先輩や同僚に鍛えられながら成長する。
実際、過去10年分の4月の天気図を見て私が提案した内容が採用されました。
物語そのものに大きく影響するんですね。
気象予報士 斉田季実治さん
NHK ニュースウオッチ9で気象コーナーのキャスターを務め、毎日の天気予報を伝える。連続テレビ小説「おかえりモネ」では、気象情報の裏付けなどを行う気象考証を担当。自身の会社を立ち上げ、天気や防災に関連するビジネスにも取り組む。
台本だと文字だけなんですけど、結局、後から天気図や予想の画面も作らなきゃいけないじゃないですか。
だから、完全に空想で作っちゃうと大変なんです。
過去の事例を参考にして、それをちょっと変えて作るほうが、気象現象はウソがないものが作れます。
なるほど。
ちなみに、ドラマに出てくるテレビ局の気象の部屋は私がふだん働いてる場所とそっくりですよ。
日本中のお天気カメラのモニターがあって見ることができたり、台風とか高気圧のマグネットがペタペタ貼ってあったりするんですよね。
へー!
ドラマでは10分後に雷雨が来ることを予想するシーンがあったんですが、本当にああいうことができるんですか?
あのシーンでは風の音を聞いたりしていましたよね。
五感で感じることもすごく大事で、雷雲、積乱雲が近づいてきた時は、雲が厚いので空が急に暗くなるんです。
はい。
あと、積乱雲ってそこだけ上昇気流が強くてどんどん雲が発達するんです。
上昇しているということはどこかで空気が下がってきています。
上空から吹き降ろしてくる冷たい風を感じた時も、積乱雲が近づいている兆しになりますね。
あとは、雷の音にも注意が必要です。
多少、離れていると感じても、音が聞こえたら危険だと思ったほうがいいですね。
なるほど。
勉強したらそういう感覚って分かるんですか。
たぶん、知ると世界が違って見えてくると思うんですよね。
世界が違って見える…。
たとえば、私はドラマにも出てきた彩雲を2、3日に1回ぐらいの頻度で見ています。
ほんとですか!どうやったら見られますか?
基本的に彩雲は太陽の近くに出るんです。
太陽を家とか電柱で隠して太陽のそばを見るとしょっちゅう出てきます。
見える日もある程度決まっていて、太陽の近くにいわゆる「ひつじ雲」や「うろこ雲」みたいな雲があれば、よく彩雲ができています。
そうなんですね、見てみます!
気象キャスターのお仕事、1日のスケジュールをいただきました。
「朝起きてまず空を見上げる」とありまして、日ごろから空を見ているんですか。
暇さえあれば見てますね。
地上の天気図、上空1500m、5000mとか、いろんな天気図を見ていて、どんな雲がどういうふうに広がるんだろうっていうのをイメージするんです。
そういうイメージをもとに天気予報をお伝えしています。
へー!
それで実際に翌日の天気がどうなっているのかを見て、検証するのが大事です。
予報のとおりなのか、違うんだったら何で違ったのかっていうのを考えますね。
予報して終わりじゃないんですね。
今、コンピューターの予測はだいぶよくなってきたんですが、こういう時は外れやすいとか、こういう時は当たるっていうのを蓄積していくことが大事です。
ただしゃべるだけだったら、気象予報士である必要はないですしね。
午後1時半からは、ニュースウオッチ9の全体ミーティング。
夜9時からの番組なのに早いなって思っちゃったんですけど、これが日常って事ですよね?
そうですね。そこで今日どういうニュースを出していくかっていうのが組まれます。
例えば台風とかで必要があれば、解説の準備もしないといけないですし、状況によって取材に行くこともあります。
取材にも!?
仙台に日帰りしたこともありましたね。
前線が北上している時で、前線の境目みたいなのを探せっていうのをやろうという話が当日立ち上がったので。
急きょ車で仙台まで行きながら色々リポートして、その後戻ってきながら通常の天気の原稿を新幹線で書きました。
ハードですね。
気象班でのブリーフィングとありますが、これって「おかえりモネ」でも出てきたシーンですよね。
実際にどんなことをしているのか教えてください。
ドラマでも描かれていますけど、最新の気象情報を自分たちで解析して、何を今日伝えるべきだろうって考えるんです。
それを当番の気象予報士が「こういうことを伝えたほうがいいんじゃないか」ってプレゼンをするんです。
それに対して、他の気象予報士も質問をしたり、付け加えたりしたりします。
NHKでは曜日ごとにプレゼンをする担当の気象予報士が決まっていて、プレゼンの内容はみんなで共有します。
1年目のキャスターは、放送より緊張するって言ってたりもしますね。
えっ、本番よりもですか!?
プレゼンをして、先輩から色々言われるのが緊張するみたいです。
私も最初はちょっと緊張しました。
でも、やっぱりNHKの気象班として24時間365日いい情報を出していくためにブリーフィングをしているということですね。
「チーム」っていう言葉がドラマでも使われていますけど。
はい。
NHKの気象班も全国各地から、いろいろな会社に所属する気象予報士が集まってきています。
私は熊本で気象キャスターをやっていたので、九州の気象にはある程度詳しいですし、大学は北海道だったので北海道の天気のことも実感として持ってます。
そういう人たちが集まっているので、みんなで話し合って「こういう見方もできるよ」っていう意見を出すのがすごく重要です。
共有することで情報性を高めていくんですね。
ブリーフィングから午後9時の放送まで、けっこう時間があると思うんですけど、天気が急に変わったりしないんですか。
もちろん、予想と実際のずれっていうのはよくありますね。
ですから、気象庁の発表が午後5時にあったとしても、その時に原稿を書いてそのとおりしゃべるかっていうと、そんなこともないです。
ニュースで使う映像も、急に1時間に50ミリの非常に激しい雨が降り始めていたら、それを入れたりとか、直前で変えることもあります。
臨機応変に対応するんですね。
災害時はパソコンをスタジオに持ち込むこともあります。
リアルタイムに土砂災害とか河川の危険度が見える画面とか、レーダーの雨雲の画面とかを出すのに使うんです。
その場で伝える情報を選ぶこともあるんですね。
今はスマホとかでリアルタイムに色んな情報を得られるようになってきます。
そういう中でのテレビの天気予報の重要性って何かっていうと、定期的に見てもらう、毎日見てもらうことだと思っているんです。
定期的に。
台風や大雨でこの地域に被害が出そうだ、というようなことが数日前からある程度、分かるようになってきました。
習慣としてテレビで毎日天気を見てもらえると、数日前にそのことを知って備えることができますよね。
そういう意味で、ネットだけで単発的に情報を得るのではなくて、毎日天気をテレビで見てもらうっていうのは重要だと思っています。
5分でも見続けることが大事っていうことですか。
そうすれば情報がキャッチできて、実際の行動につなげられるっていうことですね。
気象予報士のお仕事って、テレビとかの天気予報がほとんどなんですか。
みなさん、天気の予報ってタダだと思ってますよね。
・・・思ってます。
ニュースとかで流れる気象情報で収益を上げるのはなかなか難しいですけど、より予報の精度が高まってきているのでそれをビジネスにつなげています。
実は気象会社の社員って全員が気象予報士の資格を持ってるわけじゃないんですよ。
そうなんですか、意外です。
本当に資格を取ってなきゃいけないのは予測をする部署であって、気象情報を社会にどういうふうに生かしていくかを考える人も必要なんです。
ドラマにはスポーツ気象とかも出てきましたよね。
私も気象キャスターになる前に気象会社で働いていた時は、電力会社とか高速道路会社に情報を出したりしていましたね。
昔からコンビニの仕入れにも天気予報って使われているんです。
え!どう関係あるんですか。
暑くなるとアイスが食べたいとか、寒くなるとおでんが食べたいとか、天候や気温によって売れるものが変わるんですよ。
私たちの生活の近いところにも、天気って関係があるものが多いんですね。
気象予報士の仕事について伺ってきましたが、斉田さんが天気に興味を持ってもらうために工夫されてることはありますか。
災害が起こりうるような時、何か1つの情報だけだと実際の避難行動を取るには難しいといわれているので、テレビだけではなくSNSでも情報を発信しています。
あと今は、気象庁が発表する情報も進化しています。
漠然とした雨の量を発表するのではなくて、「災害の危険度が高まっている」、「川の危険度はどのくらい」みたいな、避難行動をとりやすい情報に変わってきているんです。
そういう新しい情報をきちんと広めるっていうのも役割だと思っています。
気象キャスターさんたちの思いも変わってきているってことですか?
そうですね、明日の天気も大事ですけど、やっぱり防災情報を社会に伝えるっていう役割は大きくなってきていますよね。
後編では斉田さんがなぜ気象予報士を目指したのか、キャリアについて聞きました。大切にしているのは「命を守る」情報を伝えることでした。
編集:加藤陽平 撮影:田嶋瑞貴
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