2021年04月30日
(聞き手:田嶋あいか 堤啓太)
ビジネスの世界で「デザイン」が注目されているって知っていますか? 就活の中で「デザイン思考テスト」といったものを受けた人もいるかもしれません。デザイン会社、グッドパッチの土屋尚史社長は「デザインは本質を見抜くもの」だといいます。就活生が聞きました。
よろしくお願いします!
よろしくお願いします。
そもそもなのですが、デザインの会社ということで、実際どんなお仕事をされているんですか?
日本に昔からあるデザイン会社って、広告とかプロダクト(製品)をデザインする会社が多いんです。
けど、グッドパッチはデジタルでの「ユーザーインターフェース(利用者との接点)」と「ユーザーエクスペリエンス(利用者の体験)」という領域、UI/UXの領域をデザインしています。
グッドパッチ CEO 土屋尚史さん(37)
長野県生まれ。日本でのWEBディレクター、サンフランシスコのデザイン会社でのインターンを経て、2011年にグッドパッチを創業。2020年、デザイン会社として初めて東京証券取引所に株式上場した。
会社をつくった時点ではUI/UXにフォーカスした会社というのは1社もなかったんです。
そうなんですね。
アウトプットはウェブのプロダクトやアプリなんですが、アプローチは必ず企業の経営者と一緒に、その企業をさらに伸ばしていくにはどうしたらいいかを考えるんです。
特に今の時代、デジタル領域で新たなビジネスを作っていくことが社会的に求められているんですね。
デジタル領域でどういう事業をつくっていけばいいかというところから、最終的なサービスに落としていくところまでお手伝いをしています。
関わる範囲がすごく広いんですよね。
デザインというといわゆる「装飾」のイメージが強かったんですけど、事業から考えるというのがすごく意外でした。
経営とかマーケティングに詳しい方も多数いらっしゃるんですか?
もともと経営やマーケティングに詳しかった人っていうのはそんなに多くはないです。
デザイナーのいいところって、知らないことでも「自分ごと」にできることなんです。
共感して相手の視点を取り入れながら新たなアイデアを出すことをスキルとして高めているので、必ずしも経営の知識とかが必須ではないんですよね。
なるほど。
そうしますと、デザインとは何か教えてください。
物事の本質を見抜く手法です。
そして本質的な価値を最大化する手法ですね。
見抜くというのは?
経営とかマーケティングを専門的にやっている人は、専門性をいつのまにか、自分の武器でもあり盾にしてしまっている。
経営の話で経営者に敵うことはなくて、マーケティングの話でマーケターに敵うってことはないわけです。
だから、ある種、思考が凝り固まってるっていうケース(=バイアス)がある。
このバイアスに気づき取り除いて本質的なことを見抜く、「本質的な価値ってこういうことじゃないですか」って提案するのがデザインだったりするんですよ。
クライアントと伴走するようなイメージなんですね。
そうですね。今までの人たちはそれをデザインと思わなかったっていうことなんです。
けど、実は物事の本質を捉えて本質的な価値をちゃんと形にして人々に届けるっていうことが、古くから定義されている「デザイン」なんです。
皆さんが思っているような「絵を描く仕事」ではないので、イラストレーターやフォトショップが使えるってことはデザイナーであるってことと直結しないんですよ。
でも、なぜか表層のところだけ「見た目を整える」っていうことになってしまった。
私は本質に立ち返って、デザインってもっと可能性のあるプロセスなんじゃないかって世の中に提案しています。
ちなみに、民泊仲介サイトのエアビーアンドビーはデザイナーがつくった会社なんですよ。
そうなんですか!知らなかったです。
そう、創業者が3人いるんですけど、3人中2人がデザイナーです。
僕は10年前にサンフランシスコに行ってデザイン会社でインターンをしたことが起業のきっかけなんですけど。
サンフランシスコのスタートアップは、けっこう創業者の中にデザイナーがいたんですよ。
じゃあもうアメリカではデザインなしではやっていけないというか。
そうですね。向こうだと起業する時にデザイナーがいないっていうのは「え、成功するつもりあるの?」みたいな感じなんですよ。
それくらいデザイナーが必要とされているし、ユーザーの体験すべてをちゃんとデザインするということが重要だと最初から理解していました。
見た目のデザインじゃないっていうことを理解しているんですね。
日本はそうでもなかったんですか?
日本は全然違ったんです。
人によるかもしれないけど、僕はめちゃくちゃ不便に感じた。
それは見た目の話じゃなくて、使ってたら「えっ、何でここに?」みたいなことがたくさんあったんです。
実際、今日本ではデザインって注目されているんですか?
注目されてきています。
経済産業省や特許庁も「経営にもデザインが重要である」という指針、「デザイン経営宣言」を2018年に発表しています。
デザイン経営宣言
2018年、経済産業省と特許庁が企業の競争力を上げるために、デザインを活用した経営手法「デザイン経営」の推進を宣言した。定義や役割、政策提言などを盛り込んだ資料を公表した。
国が出したんですね。
はい。あとは、企業のデザインに対する投資が、明らかに年々金額が上がっていますね。
アメリカに10年くらい遅れて日本もようやくデザインの重要性に気付きだしたってことですか。
そうですね、気付きだしたというくらい。
もちろん、もっと早くから気付いていた会社もあるんですけれども、全体で言うと遅れてはいます。
デザインに力を入れようという動きが出て、実際に企業でもデザイン人材をどんどん入れていこうっていう流れなんですよね。
グッドパッチのように外部から企業に助言することの付加価値が小さくなってしまわないんですか?
たしかに、昔と比べて企業が内製化するデザイナーの数ってすごく増えているんですよ。
でも、今はそれでもお仕事があり余るって状況になってます。
え、そんなにデザイナーって足りていないんですね。
マーケットのニーズに対して供給が全然追いついていないんですよ。
今求められているのは、新しいタイプのデザイナー像です。
デジタル領域で経営や事業の上流から入るっていうデザインをやれること。
急激に増えたニーズに対して、そういうデザイナーの数が圧倒的に足りてないっていう状況になっているんです。
就活のとき、デザインに注力しているかという基準で判断する必要はあるのでしょうか?
仕事は自分のやりたいことを中心に考えればいいと思いますよ。
ただ、本質的なデザインの重要性を分かっている会社って、ちゃんとユーザー体験とか人の感情に対して気を遣うっていうことをやろうとする会社なんですよ。
なので、従業員の「働く体験」っていうところも、ちゃんと気を遣える会社である可能性は高いと思いますね。
なるほど。
あと、デザインに投資するって必ずしも合理的な意思決定じゃないケースが多いわけです。
なぜなら、数値化できないから。
経営者にとって、数値化できないところに投資する意思決定ができるのは重要です。
「証拠は?」って、データや数値がないと信じられない経営者もいますが、データとか数値っていうのは残念ながら過去なんですよ。
そうですね。
もちろん過去の延長線上に未来があるので(数値は)大事なんですけど、非連続な成長をする会社は時にロジックと合理性を超えた意思決定をするものです。
ちなみに、数値を使わずに新しいことを生み出していけるような力ってどうやったら身につけられますか?
やっぱり興味と好奇心、これがすごく大事ですね。
学生もそうですし、若い子たちって自分に自信がなかったりするので「自分はこうだ」って決めつけてたりするんですよ。
確かに。
就活でも自己分析をして自分自身を知るってことは大事なんですけど、決めつけるとそれがロックになっちゃうんです。
あー。
人って変わるんですよ。
時間の経過とかいろんな情報を受け入れるなかで、価値観ってアップデートされます。
昔は毛嫌いしてたことでも、時間が経つとすごくいいじゃんって思うようなことってめちゃくちゃたくさんあるんですよ。
なので、自分をこうだと規定しないってことが大事だと思います。
後編では、土屋さんの起業ストーリーを聞きました。大学を中退し企業に務めていたところに「空から550万円が降ってきた」のが、きっかけだと言いますが・・・。
編集:加藤陽平 撮影:勝島杏奈
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