2022年07月15日
(聞き手:小野口愛梨 芹川美侑 本間遥)
ネットでテレビでライブで、若い世代に人気のお笑いコンビ、ラランド。メンバーのサーヤさんは実は芸人でありながら広告代理店に勤務し、さらには個人事務所の社長も務めています。ほかにはない独自のキャリアを選んだのはなぜ?
さっそくですが、なぜお笑い芸人になったんですか。
それ以外思いつかなかったんです。
自分が何かかしこまって仕事してるイメージがつかないし、すぐクビになる感じがするので。
きっかけはあるんですか?
家庭環境もあって、小さい時は家でお笑い以外のテレビを見てるとすごい注意されたんです。
ドラマ見てたら「何でこんなくだらないの見てるの」とか。
逆じゃないですか、ふつう。
確かに笑
ラランド サーヤさん
2014年に上智大学のお笑いサークルでニシダさんとラランドを結成。ボケを担当。大学卒業後、お笑い芸人をしながら広告代理店に務め、現在も会社員を続ける。2021年には個人事務所を設立。サーヤさんが社長、マネージャーが副社長、ニシダさんは平社員。
その影響で、幼稚園ぐらいからダウンタウンさんが当時やっていたコント番組のDVDを借りてきて、そればっかり見てたんです。
だから何かこう必然的というか、興味がそっちにしか向かなかった。
あと当時、子役をしていたので、出演する仕事に興味はずっとあったんです。
そうだったんですね。
けど、小学校上がると同時に親に「義務教育をしっかり受けろ」って言われて、子役をやめたんですよ。
がっつり勉強しなさいって言うので、中学高校もちょっと厳しめの学校に行ったせいで、高校生の漫才の大会とかも出られない。
それで、「高校を卒業したら養成所に入ろうかな」って親に言ったら笑われた。
え、そこは理解はなかったんですか。
「ここまで勉強して大学行かないのはもったいない」って急に冷静に言われて。
まあ、たしかにって思って大学に入りました。
そうだったんですね。
けど、大学に入学して親からの制限がかからなくなったんで、お笑いサークルに入って大会とかどんどん出るようになったんです。
好きだったお笑いを実際に仕事にしたいって思い始めたのはいつからですか。
仕事にしたい…。
サークル活動っていう感じで始まったんですけど、大会でちょっとずつ結果が出るようになって、いろんな賞をもらったり、プロのライブに混ぜてもらったりして、迷うようになったんです。
「あー、こっちの道もありだな」って思いました。
結果が出て。
で、最後の年に大会で優勝できて、スカウトマンみたいな方が来て名刺交換させてもらって。
卒業までにいろんな事務所の方と会ったんですけど、家庭環境的に会社員にならないとっていうか正社員になりたかったんです。
そうだったんですね。
けど事務所に入ると、平日はライブに出てほしいとかあって。
これはご迷惑をお掛けするかなって思って事務所に入らずに、会社員として勤めながらフリーでやってみようって思いました。
大学での実績があったから「いけるかもしれない」っていう自信と、けど「事務所入れない」っていう葛藤みたいなものはすごかったです。
そういった進路に親御さんや周囲の反応はどうだったんですか?
誰にも「ノー」と言わせない策だなと思って。
会社に入ってお金も家に入れる、で土日は自分で身を削ってお笑いのライブに出る。
それの何がいけないのってことで、誰も反対してこなかったんですよ。
なるほど!
けど、就活生はつい安定を求めてしまいがちだと思うんですけど、芸人さんというお仕事に不安はなかったんですか?
だからこそ会社に入って、そこはクリアしましたね。
で、社会人になったとたんすぐにコロナが広がって、周りの芸人さんがみんな仕事ない、ライブに立てない、バイトも入れてもらえないという状態でした。
けど、そんな時に「あーよかった固定給あって」って、なんか若手なのに落ち着いてました笑
じゃあ、就活もされたってことですよね。
しました、しました。
お笑いサークルってなんだか大企業に就職する傾向があって。
お笑いで実績を残したっていうのが就活だとレアなんですよ。
そうなんですか?
テニサーとか同じようなサークルの人が来る中で「お笑いサークルです」っていうと、「んっ?」ってなる。
だからつかみとしては抜群で、先輩や知り合いが大きい広告代理店に入るのを見ていて楽しそうだなって、代理店を志望しました。
広告代理店を目指されたんですね。
はい、それ以外は受けませんでした。
絞ったんですか!
自分が興味ない分野でエントリーシートとか書いてる時間がちょっともったいなくなっちゃって。
それに基本的にはベンチャーに行きたいなっていうのがあって。
どうしてですか?
就活生の当時はネームバリュー的に大企業を選ぶと思うんですよ。
周りにマウントできるから行きたくなっちゃうんです笑
そうかもしれません笑
でも、大企業って大企業にするまでに支えてきた人たちが上のほうにいる。
だからその人たちが軸になって、その人たちを立て続けるっていうスタイルになると思うんですよ。
そうじゃなくて、ベンチャーのほうが歳の近い人がいっぱいいて、自分発信でやることをよしとする風土みたいなものがあると思って、話が通じるかなって。
自分が芸人の仕事もやりたかったので、わりと最近生まれた副業の価値観を理解できる人が多いかなと。
副業が前提だったんですよね。
はい、だから積極的に面接の時にどっちもやりたいんですよって言ってましたね。
ちゃんとアピールしたほうが身のためだなっていうか、あとでばらしたら失礼だし。
ついつい内定がほしくて相手の求めていることとか、これ言ったら嬉しいだろうなっていうことを言いそうで・・・
わがままに「私どっちもやりたいんです!」って言うんじゃなくて、週末にお笑いの活動をしたくて、その活動が広告にどう生きるって話をして説得した感じです。
広告っていう裏方で人の前に立たない仕事を平日にして、週末は実際に人の目に触れるとこに立つからどっちも生きてくるって。
なるほど!
お笑い芸人をするにも、広告代理店に入ることが重要だったんですか?
そうなんです!広告代理店だとどのタイミングでどういう人を呼んでどうイベントするかとか、考え方がちょっと近いというかエンタメっぽい気がして。
業界がそこまで離れていないのかなって思いました。
芸人さんのお仕事に広告代理店で働かれている経験が生きているんですか。
そうですね、それがなかったらずっと地下にいたかもしれない。
自分のことを商品として見られた瞬間に楽になった。
え、楽になったんですか。
そう、こういう見られ方してるんだろうなとか客観視できるようになったんです。
代理店として自分のコンビを俯瞰して仕事したいかって言ったら、絶対仕事したくないなって思った瞬間があって。
扱いづらいっていうかやれることも限られてるし、これじゃ仕事の幅を狭めるのかなっていうのに気付けました。
幅も必要だったっていうことですよね。
多分そのままだったら今やってる仕事とか出会えなかったと思います。
最初は本当に知る人だけ知るみたいな芸人でもいいと思ってたんですよ。
はい。
芸人ってコアな好かれ方というか、アングラな好かれ方がかっこいいと思ってる節があって、私もそっち側だったんです。
けど、「好かれる人にだけ好かれとけばいい」みたいなのが自分たちには合わないなってなってきたんです。
それって早いタイミングで気付いたんですか?
そうですね。社会人2年目ぐらいかな。
その年にM-1の準決勝まで初めて行けたんです。
すごい!
そこでネタの内容もめっちゃコアなボケとかじゃなくて、誰の前でやってもわりとウケるような形にパッと変えてやって評価を受けたんで、「あ、こっちも大事だな」みたいな。
アングラな世界もすごい素敵だしリスペクトもあるんですけど、ちょっと視野を広げるのもここからは大事かなと思いましたね。
さらに事務所をご自身でつくっていて、スタートアップのようなイメージなのですが。
(個人事務所の)レモンジャムのことですよね。
そうだと思いますね、だいたい今個人事務所をやられている方も元は大手事務所にいてフリーになる人が多いので。
私たちの場合は最初からフリーで事務所立ち上げたので、そういうタイプは周りにいないですね。
早い段階で個人事務所をやろうっていうのは怖くなかったんですか?
いや、フリーで始めててずっと怖かったんで、もうどうでもいいというか笑
会社ができただけでもちょっと安心かなって感じです。
実際に社長としては何をされてるんですか?
どういう仕事を受けるかとか、どのタイミングでどういうイベントするかとか。
多分事務所に入ってたら、チーフの人とか社長がこいつに次こういう仕事をやらせようって決めると思うんです。
私は自分でそれを決めてるんです。
それって大変じゃないですか?決めてくって。
でも感覚です全部、これおもしろそうとか。
あと自分にやってほしいっていう熱意と金額です笑
なるほど 笑
どっちかに出るんで、相手の意志って。
どうしてもこの人にやらせたいと思ったら企画書がすごいことなってるし、絶対に決めたかったら金額も上がってるはずなので。
向こうの人と温度感が一緒のほうがいい仕事ができるんです。
そういうことは1人で全部決められているんですか?
そうですね、うちの会社はニシダ以外が決定権を持っているんですよ。
一応、彼にも「次は大きなイベントやって、次はツアー回って」とか確認はするんですけど。
こういう流れでいこうと思うんだけどって言ったら、「おうっ」みたいな感じで、「いいね!」みたいな笑
笑
けど、相方のニシダさんのいかし方というか、プロデュースもすごくされていますよね。
広告を貼ったバッグを背負わせたり、小説を書いてもらったり。
なんかニシダってバズりやすいんですよ。
みんなニシダならいいやという感覚があるんで、広告背負って街歩いてたら、知り合いからも写真来るんですよ。
そういう素質というか、フリー素材のとしての魅力というか。
フリー素材笑
本人も死ぬこと以外何もNGじゃないって言ってるんで、「全部やります!」って笑
サーヤさんのお話を伺ってるとすごい芯があって、自分を貫いてキャリアを歩まれてるなって憧れます。
いやいやいやいや、わがままなんです。
これをやりたいって感覚があるので、直感をめちゃくちゃ大事にしてるんです。
あと運の流れがある感じがするので、そこに乗るまで努力しなきゃいけないって。
そうなんですね。
あと、芸人さんの世界って、まだまだ男性社会かなという印象があるんですけど、その中でも女性として存在感があるなって思っています。
うーん、「女芸人」っていうワードがいまだに使われてるのが怖いんです、私的には。
看護婦が看護師になったり、カメラマンがフォトグラファーになったり、ほかの業界だと変化が起きてる中でかたくなに「女芸人」って言うんですよテレビって。
色物として、ちょっとした飛び道具みたいに扱う。
そうなんですね・・・
だから、女芸人特集とかは不自然だなって感じることがあります。
今までの見方にあんまり流されないようにしたいなっていうのはありますね。
芸人さんとして、これからどうしていこうとかあるんですか?
昔は多分「テレビで冠番組を持つ」がゴールだった気がするんですよ。
もちろん、どれだけテレビ離れしているといっても影響力は一番あると思うんです。
けど今ってめっちゃコンテンツありますよね。
たしかに。
今はNetflixもYouTubeもあって、SNSもTikTok、Twitter、Instagramがあって。
どこかだけじゃない、全ジャンルでちゃんとおもしろいことしてるのが一番いいと思ってます。
最後にサーヤさんにとって仕事とは何ですか?
「生きる資金」。
その心を教えてください。
「お金じゃないよ」みたいなこと言われるのすごく違和感あって。
そうは言ってもお金あったほうが絶対できることって多いから。
あんまり裕福じゃなかったんで、今自分でお金を手にしてみたらいろいろ勉強もできたし経験も増えたし、自分で稼いだらお金の回り方も分かった。
いろんな仕事して、人生のために使う資金をためていく作業がおもしろいですね。
本日はありがとうございました!
編集・撮影:加藤陽平
サーヤさんはNHKの「沼にハマってきいてみた」のMCも務めています。
10代のみんなが好きすぎること=「沼」を調査して共有する番組です。
Eテレ 毎週月曜・火曜 午後7:30放送
公式twitterでも奥深い沼の世界を紹介中
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