2022年05月13日
(聞き手:小野口愛梨 梶原龍)
ドムドムハンバーガーを経営する藤崎忍さん。初めて就職したのは39歳、しかも渋谷109の店員。居酒屋の“おかみ”を経て、51歳でドムドムの社員に。そして、入社9か月で社長に。異色の経営者のキャリアを後押ししたのは、常に「不安」でした。
学生
小野口
さっそくですが、社長になるまでの経緯を教えてください。
就職をしたことがなかったんですよ。
ドムドム
藤崎さん
短大を卒業してすぐに結婚して、24歳の時に母になって、それからずっと専業主婦でした。
でも、主人が体を壊して働かざるをえなくなって。
友達のお母様が経営されている渋谷109に入っている会社で働かないかってお声がけいただいて、39歳で仕事を始めました。
学生
梶原
39歳という年齢は気にしなかったですか?
やらなければいけない時だったので、ちゅうちょすることは全然なかったですね。
でも109って、ギャルのためのファッション・・・
そうそう、当時はもっとギャルが全盛のころでしたね。
働いている方も20代とかですよね。
そう、10代後半から20代の子たちと一緒に働きました。
すごく楽しく仕事ができて、今でも仲よしですよ。
年も暮らしも全然違いますよね・・・
109で出会ったお嬢さん方、たまに夜遊びしちゃったり、ルックスも派手でモリモリのネイルとか、髪の毛が赤に紫、白ってすごかった。
私は小学校から私立に行って短大を出ているので、それまでの生活の圏内になかった価値観ですよね。
けど、その子たちそれぞれが持つパーソナリティーを認めることで、自分の価値観が変わったんです。
若い子たちに学んだんですね。
その子たちのほうがどのカラーコンタクトがいいのか、どのネイルがいいのかとか、私よりよく知っている。
渋谷109のカルチャーでは、私よりもその人たちのほうが先輩じゃないですか。
リスペクトしましたし、いい関係が築けたんです。
むこうは、年上の方が来るってなったら身構えませんでしたか。
彼女たちにしてみれば、私はお母さんくらいの年なわけですよね。
よく109に来たなってまず思ったでしょうけど、そこで必死に働いてる姿はちょっと尊敬していただけたようで。
お互いの信頼が構築できていったんじゃないかなと思います。
そこではどのくらい働いたんですか。
5年ぐらい働いて、年商は倍になったんですよ。
ただ、ちょっと経営方針が変わってしまって、辞めざるをえなくなりました。
本当は109で起業したいと思ってたんですよ。
109で?
すごくうまくいっていたので、仲間たちと起業したいと思ってたんですけど、109って出店したい人がすごい並んで待っていてなかなか難しい。
それで、得意だったお料理をいかして、居酒屋さんでバイトをしていたんですが、お客様から「自分でやればいいじゃない」って言っていただいたのね。
じゃあ先に居酒屋で起業しようと思って、起業しました。
起業したいっていう気持ちは、元からあったんですか。
これも必然だったんです。
体が弱かった夫の看病の費用と、当時私立に通っていた息子の学費、それをまかなうサラリーを44歳でスキルの無い私がどこかに就職しても、もらえないと思った。
だから、起業することにしたんです。
不安はなかったですか?
私はこう見えても不安でいっぱいなんですよ。
起業した時もそう思ってたけど、その不安を補うために、一歩一歩努力をするっていうタイプなんです。
不安だけれども立ち止まりはしない。
居酒屋を起業した時はどんな不安があったんですか。
例えば、お客さんが来なかったらどうしようとか。
じゃあ、お客さんが来るためにできるかぎりのこと全部しようと思うわけです。
このお料理を極めようとか、お皿に凝って雰囲気のあるものにしたり、ビールグラスを陶器のものにしたり。
小さいことでも積み重ねて、不安を少しでも和らげていくんですね。
居酒屋はどれくらい経営されたんですか。
6年ですね。1店舗目が半年くらいで満員になるようになり、ご予約いただかないとお店に入れなくなってしまいました。
お断りをするっていう状況が続くと、お客様が来てくださらなくなるのではないかって不安になりました。
その不安をなくすために新たに事業計画書をつくって、金融機関を何件も回って2店舗目を開業したんです。
それも、不安を取り除くためだったんですね。
お店が人気になるために心がけていたことってありますか。
109でもそうだったんですけれども、やっぱり心を尽くすって事ですよね。
お客様に対してスタッフに対して、心を尽くしていく。
1つ1つしっかり見て、相手がどう思ってるんだろうってことを知りながら施策をするんです。
相手を考えるって、どうすればうまくできますか。
自分らしさを押しつけないってことですよね。
自分らしいってすごくいいことですけど、それを他者に押しつけると相手がよく見えなくなると思います。
自分の尺度じゃないですかそれって。
なるほど!
相手は相手の自分らしさがあるわけです。
109のお嬢さんたちとの間もそうで、私の価値観は髪の毛の色は黒くて、お尻が見えるようなズボンをはいちゃいけないというものでした。
けどそれは私の価値観であって、彼女たちの価値観じゃないわけだから、それを押しつける必要はないっていうことですよね。
たしかに。
話したり、プリクラ撮ったり、いっしょにディズニーランド行ったりしていく中で思いました。
相手のいいところを受け入れると、お互いの信頼関係の構築になっていくのかなと思います。
そこからドムドムにはどういう経緯で?
居酒屋のお客様の中に、ドムドムの親会社の役員がいらしたんですね。
私の味をものすごく気に入ってお客さんも連れて来てくださっていた。
その方から「ドムドムバーガーを譲り受けるので味の監修をしてくれませんか」って誘っていただいたんです。
えー!じゃあ、居酒屋がなかったらこの話はなかったんですね。
初めはアドバイザーみたいな契約だったんですけど、2か月ぐらいたった時に本腰を入れてこっちで働きませんかって言われて。
すごく悩んだんですけれど、50歳で企業にお誘いいただけるってすごくうれしいことだなと思って、感謝と喜びが芽生えたんです。
うれしいじゃないですか、50歳で!
しかも、企業で働いたことがない私を。
うれしいですよね!人とのつながりだったんですね。
はい。あと、その時の私にいいところがあったとするならば、やっぱり夢中になってやってたってことですよね。
自分が将来こういうキャリアを構築したいっていうプランは持ってないんです。
だけどその時々、必死にもがいて一生懸命やってました。
不安だからこそ一歩一歩ステップアップしていたのが、ご縁を呼び込んだんじゃないかなって思っています。
就活生だと、何か夢とか目標を持って、そこにたどり着くために頑張るみたいな・・・
目の前のことを、とりあえず頑張るというのが意外で。
たまたま、私はなかっただけで、夢とか目標とか持つのはいいと思います。
ただ、私は成功っていうことばはいいけど、失敗ってことばが好きじゃないんです。
思ったようにならない時ってあるじゃないですか、いつでも。
はい。
階段を上るにしても、上がり切れない時っていっぱいあるんです。
だけど、足を上げるだけでも努力をしてるわけですよ。
365日目に「失敗した」と思ったとしても、それまでの364日間に身についてるものがある。
そこで培ったものってほんとに大事。
だから私の人生も今パッと話すと、すごい成功して、どんどんステップアップしてと思われると思うんですが・・・
実は、そもそも私の夢はお嫁さんだったんです。
えっ!
けれど、それは夢破れているわけですよ。
夫を支えて生きていくのが夢だったけど、破れた。
けれど、その中で培った自分の毎日は次の仕事でも生きたと思っています。
お嫁さんでいたかったのに39歳で就職して、結果、皆さんに取材をいただけるような立場になったわけです。
今与えられてる環境で一生懸命生きることって大事だと思います。
後編では“絶滅危惧種”と言われたドムドムハンバーガー再建について聞きました。カニを丸ごといれるような変わり種のバーガーで話題になっていますが、決して“SNS映え”ねらいではないその理由は?
編集:加藤陽平 撮影:白賀エチエンヌ
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