2020年09月30日
(聞き手:伊藤七海 佐々木快)
新型コロナウイルスの影響で、“異例”だらけの選挙になりそうなアメリカ大統領選挙。何万人という大集会の開催が難しい中、選挙活動はどうやって行うの?トランプ大統領の再選はあるの?ワシントン支局トランプ担当記者に1から聞きました。
トランプさんの行動ってやっぱり選挙に重きが置かれているんですか?
そうですね。「自分が再選するためにはなんでもする」っていうか。結構、露骨な事もするし。
その露骨なことって例えばどんなことですか?
ちょっと前になりますが、アメリカの一部で新型コロナウイルスがまた第2波っぽくなってきていたときに、そのひとつの南部のオクラホマ州で、何千人も集まる支持者集会をやったんですよね。
え~!
自分で打開して「選挙活動を元どおりに戻すぞ」っていうメッセージを伝えたかったんだと思うんですけども、すごくいろんな批判を浴びました。
話を聞いたのはNHKワシントン支局の栗原岳史記者。2018年からワシントンで大統領を間近で取材する“トランプ番記者”です。写真は2019年にフロリダ州で行われた大統領の集会を取材したときのもの。
こういう状況だと、ソーシャルメディアでの戦いが重要ですか?
まさにその通りだと思います。
やっぱりバーチャルな戦いが重要だと思うんですよね。
相手の民主党のバイデンさんもソーシャルメディアをやっているんですか?
バイデンさんも、自分の家の地下室にスタジオをつくって、そこで動画を撮って配信しているんですよ。
自宅にスタジオですか!
動画をやり始めた時、私も見ていたんですよ。
ただ、「大きな会場で集会するのは慣れているけど、カメラに向かって話すのは慣れていないんですよね」とかブツブツ言っていて…大丈夫かな?って、正直思ってしまいましたね。
そういう意味では、トランプさんにプラスがあるんですか?
ソーシャルメディア、インターネットでの発信1つを取れば、トランプ大統領にはこれまでの歴史がある分、一日の長はあると思いますね。
ずっとやってきたトランプ大統領と始めてまもないバイデンさんですから。
そうですよね。
難しいと思うんですが、トランプ大統領とバイデンさんどっちが有利ですか。
去年の段階だったら、トランプ大統領が優位だったのかなという気はします。
根拠もあって、アメリカ大統領選挙のこれまでの歴史からみても、現職大統領はめったに負けないんです。
ただ、いまは新型コロナウイルスも経済も思い通りにいかなくて、状況は変わってきたのかな、と。
だから、バイデンさんにも勝ち目はある。世論調査でも3月から、ずっとバイデンさんがトランプ大統領を上回っている。
バイデンさんがリードしているんだ!
大統領選挙で、ポイントになる州がいくつかあって。
重要となるウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州。
前回、トランプ大統領が勝利できたのは、この3州で勝ったからだとも言われているんですけど…。
ミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州は、「ラストベルト=さびついた工業地帯」と呼ばれる地域にある。前回の大統領選挙で、白人労働者層が製造業の復活を掲げたトランプ大統領の支持に回り選挙結果に大きな影響を与えたとされている。
いずれも、世論調査でバイデンさんがリードしている。
トランプ大統領ピンチですね。
さらには、伝統的に共和党が強いとされてきたジョージア州、アイオワ州までも「ちょっとトランプさん大丈夫ですか」という数字が出ている。
去年と比べると、バイデンさんが有利な状況になってきていると思います。
バイデンさんにだいぶ風が吹いているようですが。
ただバイデンさんにも弱点はあって、口を開くたびに失言してしまうところがあるんですよ。
それとやっぱり、トランプ大統領はしゃべりの天才なんですよね。
直接対決の討論会では、トランプ大統領に勝てる相手は、なかなかいないですよ。
確かにトランプさん討論会強そうですよね…。
こうした状況を考えるとまだ分からない、どっちが勝っているかという予測はやっぱり難しいですね。
これから大統領選挙に向けて、どこに注目すべきですか?トランプ大統領に新たなスキャンダルとかはなさそうですか?
トランプ大統領は常に疑惑にさらされて続けてきたようなところはありますよね。
ただ、トランプ大統領のすごいところは、あらゆる種類のスキャンダルをくぐり抜けてきたわけですよ。
結構際どい場面もあったんですけども。
だからそういう意味では、このあと、トランプ大統領に何かが出てきても、あまり打撃にならないのかな、とは思います。
なぜ打撃にならないんですか?
トランプ大統領、もともと「テフロン・ドン」ってあだ名がつけられていたんですけど。
テフロン・ドン……?
「テフロン」は、フライパンのテフロン加工で使うテフロンと同じ意味で、なにが来てもツルンって避けられるようなイメージ。
ドンは、ドナルド・トランプの「ドン」で「テフロン・ドン」。
そういう意味なんですね。
そんなあだ名がつけられるぐらい、なにが来ても平気、あらゆる種類のスキャンダルをやり過ごしたわけですよ。
何でも批判を受け流す力は、相当なものだなと思います。
メディアの立ち位置によってもいろいろな情報がある中で、アメリカ大統領選に関する情報って、どう受け止めたらいいんですか?
日本のメディアの伝え方は、そんなに変わらないとは思うんですけど、関心があるならアメリカのメディアも見るといいですよ。
ただし、自分なりのメディアリテラシーを持って。
メディアそれぞれの立ち位置とかですね。
そう。「こういう立ち位置で報じているんだな」とか、「こういう見方もあるんだな」っていう、自分なりの尺度を持ってみるとすごく面白いと思いますね。
森羅万象、いろんな見方があるんだ、という意味でね。
いろんなメディアの情報を見たうえで、自分なりに解釈する必要がある、と。
インターネットは非常に便利なツールで、これまで私たちが接してきたメディアの何百倍・何千倍の潜在力があると思うんです。
ただ、使えば使うほど、自分の見たい記事や自分の調べてきた事に関連した情報が表示されるようになってくる。ここに注意しなければいけないと思いますね。
普段、調べないような記事も積極的に調べていく必要があるんですね。
そうですね。ほかの人はどういう見方しているのかとか、ふだん接していないメディアはどういうスタンスをとっているのかということを心がけて、インターネットを活用してほしいと思っています。
ありがとうございました。
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