2020年08月24日
(聞き手:伊藤七海 佐々木快)
就任からまもなく4年となるアメリカのトランプ大統領。
就任以来、過激な発言でメディアとも対立していた印象もあるけど、実際どうなの?
11月に大統領選挙を控え、日本でも露出がさらに多くなりそうなトランプ大統領。
ワシントン支局トランプ担当記者に、1から聞きました。
きょうはよろしくお願いします。
さっそくですが、トランプ大統領ってアメリカではどんな人だと思われているんですか?
トランプ大統領ってもともと売れっ子のテレビ番組の司会者として知られてきた人なんです。
その番組がまたおもしろくて、ビジネスの才能がない人を「クビだ!」ってばっさり切るという、結構痛快なショーで。その痛快にぶった切るっていうのが、トランプ大統領の役目だったんです。
目に浮かびます(笑)
で、その歯切れのいい司会者というキャラクターを大統領になった今でもやっているっていう印象ですね。
うんうん、イメージ通りですね。
それで、好かれているのか、嫌われているのか、というとそれは当たり前だけど、人によっても違うんですよね。
話を聞いたのはNHKワシントン支局の栗原岳史記者。
初任地は、岡山局。政治部記者を経て2018年からワシントンでトランプ大統領を間近で取材する“トランプ番記者”です。
栗原さんは、トランプ大統領の記者会見にも出席されるんですか?
そうですね。いまは、新型コロナウイルス対策で基本的にはアメリカメディアしか入れないんですが、3月ごろまでは、会見場で取材していましたよ。
記者会見のトランプ大統領はどんな雰囲気なんですか?
トランプ大統領って、とにかくしゃべりまくる人なんですよ。メディア大好きだし、自分が目立つことが大好き。
じゃあ、記者会見も多いんですか?
記者会見という形式を取るかどうかは別としては、たいてい毎日1回はメディアの前に出てきますね。
(ニュースゼミの取材の)つい、1時間か2時間ぐらい前にも出てきていて、私も見ていました。ほぼ毎日だから、出てこないと「今日どうしちゃったんだろう」って感じになります。
どんな感じなんですか?
その時メディアがどういうものを求めているかで違うんですけど、時には、自分のしゃべりたいことだけしゃべって、質問を受けずに去っていく時もありますし、「おっなんだ?」って応じる時もありますし、対応はさまざまなんです。
1日に複数回、メディアの前に出てくる日もあるんですか?
もちろん、午前1回、午後2回みたいな日もあります。
で、午前言ったことを「あれは違うよ。こういう意味だよ」とかって午後ひっくり返したり。
これまでの大統領と比べて多いんですか?
多いと思いますよ。
もうすぐ大統領選挙ですけど、トランプさんが出てきたら、ニュースになる。
毎回、ニュースになるんですか?
もちろん、話の内容によってバリューは変わるけど、やっぱり、おもしろいから、微妙な話とかでも結局取り上げられてニュースなっちゃうんですよ。
トランプさん、やっぱり話も上手なんですか?
トランプ大統領の話の特徴は、誰にでも、例えば中学生にでもわかるような言葉で話すんですよ。
よくオバマ前大統領と比べられるんだけど、2016年にオバマ前大統領が広島訪問したことは知っているかな?
はい、よく覚えています。
その時、私も取材していたんですが、広島の慰霊碑の前で歴史的な演説を行ったんですよね。
そのことは今でも覚えてるんですけど、散文の詩を聞いているような印象なんですよ。
散文の詩?
例えば、アメリカが原爆を落としたとは言わずに、「空から死が降ってきた」と。
トランプ大統領だったら、そんな表現、絶対しないですよね。
そうですね。
ただ、政治や政策ってもともと分かりにくいものじゃないですか。
それをわかりやすくしてくれるってことで、トランプ大統領を評価する人たちがいるのは間違いないです。
一方で、政治や外交を単純化しちゃいけないって人もいて、そういう人たちはトランプ大統領に反発している、って構図ですね。
トランプ大統領といえば、いつも“フェイクニュースだ”って言っている印象が…。実際どのくらい(の頻度で)言ってるんですか?
“フェイクニュース”はほぼ常套句みたいになっていますね。口を開けば、言うみたいな(笑)
そんなに(笑)
例えばね・・・、そうだな、トランプ大統領って日本でいうと、東京ドームみたいな、すごく大きな会場を貸しきって支持者集会を開くんです。
そこで、開始10分か20分ぐらいで必ずあるのが、私たちのいる記者席を指さして、「そこにいるフェイクニュースを見ろ」って。
そういうことを確実にやるんですよ。もうそれこそ、お約束の鉄板芸みたいな感じですね。
なんで、そんなに“フェイクニュース”っていうんですか?
メディアに不満を感じている人っていっぱいいるんですよ。そういう人たちの受け皿になろうというトランプ大統領の戦略的な発言なのかなと思うんですよね。
メディアに不満を感じている人の支持を集めたいと。
メディアが本当のことを伝えていないって批判ってよくありますよね。
はい。
今は、ネットでいろいろ公開されているので、ニュースになる元の情報も調べようと思えば誰でも調べられることがあります。それをみて、メディアが本当のことを伝えていないという批判はあるんです。
ただ、メディアというのは100あることを100伝えているわけではないんですよ。それぞれの編集方針だったり、記者が大事だと感じたりしたことを手短にまとめているので。
だから、そういう批判に共感できる人も一定数いるのは事実だろうし、そういう人たちの不満の受け皿になろうというある意味賢い戦略なのかなっていう気はします。
トランプ大統領は過激な印象がありますが、取材する記者と言い争いとかけんかになることもあるんですか?
もちろんありますよ。象徴的なのは、記者会見でのCNNテレビの記者との対立かな。
CNNはトランプ大統領に、批判的な姿勢なんだけど、2018年に記者会見の場で、トランプ大統領と口論になって。
それをきっかけに、ホワイトハウスはそのCNN記者を出入り禁止にしたんですよね。
その会見を私は、別のところから生で見ていて「ああ、またやってる、やってる」っていう感じで。
えっ、よくあることなんですか?
結構よくあるんですよね。トランプ大統領、敵を作って、自分の存在を高めるという手法をよくやるんですよ。
ちょっと語弊があるかもしれないけど「プロレス」的って言われています。
「プロレス」ですか?
自分に批判的な記者をわざわざ指して、質問させている、ある意味、自分から仕向けているんですよ。
記者側も、大統領に発言、質問する機会があったら、厳しい姿勢で向かっていかなきゃいけない。
それをわかっているトランプ大統領も、リングのそばで腕をぶん回して待っているわけですよ。
そうなったら、やっぱり記者も突っ込んでいって派手に倒れざるを得ない。職業人の性として。
そう言う意味で、「プロレス」っぽいなという気もするんですよね。
意図的に記者をあおっているって事ですか?
そうですね。記者会見やるにしてもいろんなサプライズを用意してたりとかね。
そしてその記者会見がうまくいかなかったら、別のサプライズをツイッターであとから出すこともあるんです。
どういうことですか?
CNNといざこざになった記者会見の時も、直後に打ち消すために、当時の司法長官を「クビにします」ってツイッターで発信したんですよね。
ええ~。
なかなかメディアの存在をうまく計算しながらやっているなという印象はあります。
あわせてごらんください。
▽1からわかる!(2)親トランプ?反トランプ?アメリカメディアの構図はこちらから
▽1からわかる!(3)“ツイッター大統領のねらいは”はこちらから
▽1からわかる!(4)選挙活動はSNSで?はこちらから
▽トランプ大統領の支持率やバイデン候補との政策比較などアメリカ大統領選挙を詳しく知りたい方はこちらの特設サイトをごらんください。
編集 吉川那奈