2020年03月03日
(聞き手:伊藤七海 鈴木マクシミリアン貴大 )
トランプ政権がさらにあと4年続くのか、それとも別の人が大統領になるのか。11月に迫るアメリカの大統領選挙は日本の行く末にも大きな影響を与えます。アメリカのある現象が勝敗を左右する…?!これを読めば勝敗のキーポイントが1からわかります!
国際部でワシントン特派員などを歴任した“アメリカウオッチャー” 髙橋祐介解説委員に聞きました。
学生
鈴木
米中貿易摩擦とか、トランプ大統領になってから出てきた問題って結構あると思うんですけど、選挙には影響しないんですか?
米中の今のせめぎ合いは、貿易問題に限らず安全保障でもそうだけど、20年、30年スパンの覇権争いの話。トランプさんがどうしようとそんな簡単に答えが出る話でもないと思うんだ。
髙橋
解説委員
そうなんですか。
アメリカが中国に対して求めているのは構造改革。中国共産党による一党支配が自由な経済活動を歪めているのではないかと。
でも国の構造を変えろと言われても、そんなに簡単に応じられるものではないでしょう。
20年30年スパンの話だと言ったのはそういうことで、簡単に結論が出るものではないよね。
そもそもアメリカ国民はトランプ外交は成功していると見ているんですか?
うーん。アメリカ国民って、基本的にあんまり外交に興味がないのかなと思うんだけど。
え、興味ないんですか。
外交は選挙であまり票にならないと言われているよね。
学生
伊藤
何でですか?
たとえば北朝鮮について、アメリカ国民がどれぐらい知っているかというと、詳しく知っている人って少ないと思うよ。
彼らのDNAとしてね、一般的によその国のことってそんなに興味がないんだ。だって野球の試合もアメリカシリーズではなくてワールドシリーズと名づける国民だよ(笑)
ああ(笑)確かに。
自分たちこそが世界、ワールドだと思っている、発想としてね。ヨーロッパとの間で互いに干渉しあいませんという孤立主義がかつては主流だった歴史的な経緯もあってそういうスタンス。
でも理屈としては合っていてさ、アメリカってほかに頼らなくても自分で生きていける国でしょう。
そうですね。あれだけ大きい国なんだから。
北朝鮮問題にしても、極論すれば「ミサイル?うちに飛んでこなければいいんじゃないの」ぐらいの受け止め。
同盟国の日本が困ると言われても、アメリカ国民の実利に影響がない限り、それで投票行動が左右されることはないと思うな。
自分たちに直接的な害がなければという…。
アメリカ人が何をもって投票に行くかというと、やっぱり自分たちの生活に直接関わってくる経済が大事なんだと思うな。だから外交は経済ほどには票にならない。
大統領選について考える上で覚えておいてほしいことがあるんだけど、アメリカって日本と違って人口がどんどん動いているんです。
人口が動く、移住…ということですか?
その通り。アメリカ国民は北から南、東から西に移動していくと言われているのね。南のほうが温暖で税金も安い…南部のテキサス州なんて州の所得税が0だからね。
そうなんですか。
サンフランシスコからテキサスに移住した友人がいるんだけど、サンフランシスコって不動産価格が高くて、大卒でまじめに働いても手ごろに住める家が見つからない場合もあるぐらいで。
でもテキサスは、景気が良くて仕事もいっぱいあって、税金も安くて暮らしやすい。天国のようなところだと言っていました。
へえ~。
サンフランシスコだけじゃなくてロサンゼルス、シカゴ、ニューヨーク…そういう大都市で住みづらさを感じて移住する人が増えている。で、移住先で今一番人口が増えているのがテキサスなんです。
このテキサスを含む北緯37度以南の地域は、温暖な気候から「サンベルト」と呼ばれていて、この「サンベルト」にアメリカ人は緩やかに移動していると言われている。
この前、テキサス州のオースティンという街に行ってきたんだけど、ハイテク企業の移転などで仕事がいっぱいあるからどんどん人が入ってきていてね。
1日に200人のペースで増えているって。100日で2万人だよ。
すごい!
すごいでしょう。トヨタも北米本社をカリフォルニアからテキサスのダラス郊外に移したしね。
でも人口が増えるということは、政治的に見れば色が変わるかもしれないということなんです。テキサスは今、共和党の地盤。カラーで言うと共和党は赤だから、赤い州なんです。
でも都市部ってリベラル、民主党支持者が多いとされていて、そういう人たちはテキサスに行っても、リベラルのままなんだよね。
だから今、テキサスは共和党の赤と民主党カラーの青の中間色、パープルになりつつあると言われている。
将来的には民主党の地盤の青い州、ブルーステイトになるかもしれないんです。
それだけリベラルな人が移動してきていると。
そうそうそう。今後の選挙を占う上でポイントとなるのは、こういう「変化」。
アメリカは常に変化している。人が動いている。「人が動けば政治的地殻変動が起きる」かもしれないということを覚えておいてください。
それからあともうひとつ大きな変化があって、それが有権者の世代交代。
世代交代ですか。
日本の団塊の世代ってわかります?
はい。
この団塊の世代に近いものでアメリカにはベビーブーマー世代というのがあるんです。
定義は色々あるんだけど、第2次世界大戦が終わってから大体1964年ぐらいまでに生まれた人がベビーブーマー世代と言われていて、主力は今70代。トランプ大統領もこの世代。
このベビーブーマー世代とそれ以前の世代が、今までは有権者の過半数を占めていた。
だから、この世代の意見が政治に反映されることが多かったんだけど、高齢化が進んでだんだんと構図が変わりつつあるんだ。
若い世代が増えているということですか?
そう。前回2016年の大統領選の時点ですでにベビーブーマー以前、以後の世代がほぼ拮抗していた。
2020年の大統領選ではさらに進んで、21世紀になって成人したミレニアル世代以降が、有権者の4割を占めるかもしれないと言われている。ミレニアル世代って一番上が37歳とか38歳ぐらい。
男女平等、多様性の時代に育ってきた若いミレニアル世代は、女性・マイノリティ・若者といった民主党よりのリベラルな人たちが多くて、白人至上主義、女性蔑視みたいな古い考え方をすごく嫌う。
それに対してトランプさんの岩盤支持層は白人労働者、高齢化が進んでいて、若者や女性が少ないのが課題と言われている。
実際、おととしの議会の中間選挙で、トランプさんの共和党は下院で負けたんだけど、都市郊外の女性たちの多くが民主党に投票したのが敗因だと分析されている。
もし同じ現象が次の大統領選でも起きたら…トランプさんは決して安泰ではないだろうと言われています。
なるほど。
トランプ大統領は60%の確率で再選するんじゃないかと言いましたけど、残りの40%はこういう有権者の「変化」がどこまで進むかが鍵かな。
まあ、若者は政治意識が高くても投票に行かない傾向もあったりして、そこがイマイチ読み切れないんだけどね。だから40%ぐらいかなというところにしているんだ。
次の大統領選は接戦になりそうなんですか?
そうだね。構造的に共和党支持者と民主党支持者って数が拮抗しているから、誰が候補者になっても接戦になるのは間違いないよ。
選挙の争点になりそうなことというのは?
当たり前だけど“トランプさんにあと4年大統領をやらせるかどうか”は争点になるだろうね。
それ以外も色々あるけど、どれが争点になっていくかはまだ明確には見えてこない。
ただ、環境問題にはちょっと注目しておいたほうがいいとは思っていて。
環境問題ですか。アメリカの人たちは自分の国以外のことにあまり関心がないというお話だったと思うんですけど。
ミレニアル世代以降の若い人たちって環境問題にすごく熱心なんだよね。国連で演説したスウェーデンの…。
グレタさん。
私は30年後の2050年なんてもう生きていないかもしれない。私たちの世代は、こう言っちゃ悪いけど次の世代の話でしょうと感じてしまいがちなんですよ。
でもお二人の世代だと2050年ってまだ50歳ぐらい。その時に地球が破滅的な気候になっていたら実害を受けるわけだから危機感が違う。
確かにそうですね。
アメリカでもそうで、環境問題って世代によって受け止め方が全然違うわけ。
若者の支持者が多い民主党は環境問題に熱心で、化石燃料を近い将来ゼロにしよう、石油も石炭もやめて再生可能エネルギーに変えていこうと訴えている。
なかなか地域的な広がりにはなっていかないんだけどね。
なぜ広がらないんですか?
トランプさんを支持しているラストベルトの人たちは製造業でしょう。このラストベルトの奪還を目指すなら石油や石炭をやめましょうなんて言えない。
あと、レッドステート(共和党支持)からパープル(共和党・民主党が拮抗)になる可能性があるテキサスも石油で潤っている地域だからね。
民主党にとって環境問題って、自分たちの支持基盤である若者の票を集める武器にはなるんだけど、あまり言い過ぎるとラストベルトは奪還できないし、テキサスの奪取も遠ざけるリスクになりかねない。
確かにそうですね。
そういう意味でも、環境問題は潜在的な争点として見ていったほうがいいと思います。