2023年02月14日
(聞き手:佐藤巴南 梶原龍)
SDGsは、それぞれの国が責任をもって取り組む国際的な目標です。もし取り組まなかったらどんな影響がある?企業や個人に関わることは何?具体的な例を1からわかりやすく解説します。
「持続可能な社会」というとずいぶん大きな目標だと感じますが、個人の努力に意味がありますか?
とても意味は大きいと思います。
教えてくれるのは土屋敏之解説委員。科学・環境分野が担当で地球温暖化や脱炭素社会、生物多様性などに詳しい。科学番組のディレクターとして「NHKスペシャル」「クローズアップ現代」「ためしてガッテン」「サイエンスZERO」などの番組を制作してきた。
というよりも、気候変動対策については個々人、各家庭の取り組みがかなり期待されています。
日本は、温室効果ガス(CO2)の削減について2030年までに2013年に比べてマイナス46%にするという目標を宣言しています。
産業部門、業務部門、家庭部門など各分野ごとに削減目標が示されているのですが、一番大きく削減しないといけないのが、家庭部門なんです。
家庭部門は2030年までに66%削減、という目標になっています。
えー!そんなに!?
相当な負担を強いる目標だと思います。
私たちがこうしたことに取り組まなかったら、どういう影響がありますか?
災害のリスクが高まるということがあります。
ヨーロッパでは去年イギリスで40度を超えるような過去最悪の熱波が来ましたが、科学者のグループの分析では、すでに気候変動によってその発生率が大幅に高まっているとされています。
産業革命前に比べ1.5度以上気温が上昇すると、さらに一気に激甚災害のリスクが増えるとされています。
WHOなどを含んだ研究グループによれば、デング熱やマラリアなど熱帯性の病気もすでに増加しています。
気候変動はある意味、自分や身近な人の命をも脅かすものになっているんです。
そういわれると、取り組まないといけない気がしてきます。
何かやったらいいことはありますか?
今日あすでできることというと、ペットボトルをやめて水筒にするとか、マイバックにしてレジ袋を貰わないとか。
とにかくごみになるものはエネルギーの無駄なので、ごみを減らすのはSDGs的に言えばとてもプラスです。
食べ物だと、食品ロスを減らすとか。
あと地産地消でしょうね。やっぱり輸送ってエネルギーコストがかかるので。
なるほど。
やって絶対損がないのは、省エネと節約です。家計にやさしくて、かつエコですから。
使ってない電気をこまめに消すとか、暖房の設定温度を上げすぎないとか、そういうことですか。
そういうことも大切だと思います。
でも、それだけで66%も削減できなくないですか…?
そうですね。
そもそも家庭で使う電力がCO2を排出しているわけです。
電力会社そのものが化石燃料の利用を減らして脱炭素化を進めて、電力そのもののCO2排出量を下げないと、個人が電力使用量を減らすだけで達成するのは厳しいものがあります。
個人で目標を達成しようとなると、自宅に太陽光パネルを張って車をEVなどにするといった方法に限られるかもしれません。
それ、みんながするのは難しくないですか?
かなり大変なのは確かです。
そういう削減目標を出したなら、国が「具体的にこうすればできます」ということを啓発していかなければいけないと思います。
それに、それを後押しする補助制度などもさらに拡充する必要があります。
EUの欧州委員会は、2022年5月に域内すべての新築住宅に太陽光パネル設置を義務化をすべきという提言を出しました。
義務化ですか。
これは日本でも始まりつつあります。
2022年12月に全国で初めて、東京都が2025年度以降に新築する住宅に太陽光パネルなどの設置を義務化する条例を作りました。
これは大手住宅メーカー、つまり家を建てるメーカー側に義務を負わせる制度です。
太陽光パネル普及の課題は設置に100万円程度のコストがかかることですが、東京都ではそのハードルを下げるために補助金を出しています。
また、住宅メーカーを支援する費用などとして約300億円の補正予算案を発表しました。
全国でも取り組めば良いですよね?
今のところ、東京に隣接する神奈川県川崎市が同様の制度化を検討しています。
一方で、雪が多い地域は屋根にパネルをつけても、効率がよくないのではないかという指摘もあります。
設置コストなどを住民に負わせられるのかという問題や、2040年ごろには大量廃棄問題も起こる恐れがあると指摘もされていて、寿命を迎えたパネルの処分の仕組み作りなどまだ整理すべき課題は多いと思います。
SDGsは、いろんな企業のHPで紹介されていたりして、企業が積極的に取り組んでいる印象です。
そうですね。
例えばコーヒー業界では、開発途上国で貧困地域にコーヒー栽培の技術を持ち込んで、そこでコーヒー産業を育成しています。
それが従来のプランテーションのように途上国の環境を悪化させたりするのではなく、持続可能な発展につなげようという動きが進み始めています。
同時に教育のインフラにも投資して、途上国の人に労働力として安い賃金で働いてもらうだけにならないよう、教育水準をあげるための支援もするなどです。
化学工業などの分野だと、脱炭素技術を開発して気候変動対策に貢献するだけでなく、製品を作るときに使うエネルギーを再生可能エネルギーにしたり、製造過程で出る廃棄物を環境への負担が少なくなるよう配慮していくとか。
一つの目標だけでなく、それぞれの目標がつながっていることをしっかり理解した上で、持続可能な社会のために包括的に対策を進めている企業が増えています。
へぇー。
ただ、企業のSDGsで気をつけなければいけないことがひとつあります。「グリーンウォッシュ」という言葉を聞いたことありますか?
グリーンウォッシュ
うわべだけ環境保護に熱心にみせること。「グリーン(=環境に配慮した)」と「ホワイトウォッシング(=ごまかす、うわべを取り繕う)」を合わせた造語で、主に企業の広告や企業活動などに対して使われる。
形だけ“やるやるエコ”みたいな感じでうたって、今、問題になっています。
2022年11月のCOP27では、国連がグリーンウォッシュを防ぐ目的で、温室効果ガス排出量の「ネット(実質)ゼロ」を掲げる際の基準を示しました。
まずは2025年までにこれだけ減らすという削減目標を出しなさいとか、実際の進捗状況を毎年公表しましょうとか、様々な条件を出しています。
うわべだけにならないようにってことですね。
アメリカのいわゆるGAFAみたいなところとか、ヨーロッパの大手企業とかは、かなり早くからネットゼロ宣言をしています。
そしてそれを、製品の生産や販売に関わる企業にも要求するようになってきています。
すると世界中の関連企業が脱炭素に取り組む必要が出てくるので、影響はとても大きくなります。
そうですね。
やはり、企業活動が変わらないと目標を達成できないので、こうした動きはその責任感の現れだと思います。
私たちと企業の関係でもうひとつ言うと、私たちは消費行動によって企業を変え、SDGsに貢献することができます。
例えば、生分解性プラスチックって聞いたことがありますか?
なんですか?
生分解性プラスチックは、自然界に存在する微生物の働きで最終的にCO2と水に完全に分解され、自然に帰るプラスチックです。
生分解性プラスチックを使った商品には、「生分解プラ」っていうマークがついています。
多少値段が高くても、再生可能な素材でできているかとか、そういうエコな商品を消費者が選ぶようになれば、企業が変わっていきます。
そんなマークがあるんですね。
自分がSDGs的なものにどれだけお金を払ったり、気にするかということが消費者に問われるんだと思います。
バブルの頃から、消費することが善というか、それが経済活動を盛んにすると考えられていた時代がありました。
短期的にはそういう面もあるけど、それだけだと持続可能ではないとだんだんわかってきたことがあると思います。
私たちより下の世代の子どもたちを見ていると、持続可能っていう意識が自然に身についている気もします。
そうかもしれないですね。ある意味、一巡してきたのかもしれないです。
我々よりもっと上の世代で言うと、“もったいない”という意識が当たり前でした。
そもそもペットボトルってひと世代前にはないものですからね。
えー、そうなんですか!
プラスチックって50年前にはほとんど使われていない素材です。
今はありとあらゆるものに使われていますよね。
第2次大戦後の高度経済成長期に世界的にも石油化学産業が発達して、一気に普及したんです。
昔は、卵もパックに入ってなかったんですよ。
うちなんか卵を買うときは、近所の卵屋さんに行って古新聞に包んでもらって、持って帰って来ていました。
よく転んで落としては割って、親に叱られたりしましたけど(笑)
牛乳だって、昔はガラス瓶に入れた牛乳瓶を牛乳屋さんが配達してくれていました。
使い捨てのものがすごく少なかった時代が、50年前にはあったんです。
ここ50年で急激に変わったんですね。
今、ヨーロッパなどでは、量り売りをするお店に瓶などを持っていって食品などを買って、使い捨て容器を減らそうという動きも出て来ています。
ガラス瓶に入っている方がおしゃれに感じられたりして、若い人には人気です。
そうですね。そういったカルチャーは一度、失われてしまったけれど、また変えられると思うんです。
そんな風におしゃれとしてやっていることが、実はSDGsにつながるといいですね。
そう思います。
食品価格の高騰や電力不足、気候変動に伴う猛暑や災害など、SDGsはくらしに深く関わっています。
だからこそ、省エネや、ごみになる買い物を減らす、食材はなるべく地産地消を心がけるとか。
あるいは選挙に行くことも、経済や環境についてどんな政策を選ぶのかという意味でSDGsに深く関わってくるので、大切に考えてほしいです。
できることから取り組んでいくことが家計やくらしを守ることに加えて、世界全体のSDGs=持続可能な社会につながっていくと思います。
ありがとうございました。
撮影:堀 祐理 編集:石黒 志織
SDGsについてNHKの番組やイベントの情報はこちらからも
未来へ17action https://www.nhk.or.jp/campaign/mirai17/index.html
長濱ねるのSDGs日記 (※NHKサイトを離れます)
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