“郵便投票を認めてほしい”障害のある人や選管からも対象の拡大を求める声が

統一地方選挙を前に、NHKが全国の市区町村の選挙管理委員会を対象に、障害がある人の投票への対応について尋ねるアンケート調査を行いました。

この中で法律では対象が厳しく制限されている郵便投票について、対象を広げるよう求める回答が40件あまり寄せられました。

投票所まで行くことが難しい人のために、自宅で投票用紙に記入し、郵送で投票する「郵便投票」は、6年前、総務省の有識者による研究会が「対象を広げるべきだ」という提言をまとめてますが、法律の改正にはいたっていません。

アンケートに寄せられた声には、当事者の思いが込められています。

(ネットワーク報道部記者 穐岡英治 廣岡千宇)

「郵便投票の対象拡大を」選挙管理の現場からも

NHKはことし1月から2月にかけて、全国すべての市区町村にある選挙管理委員会の事務局を対象に、障害のある人の投票についてどのような対応をとってきたかを尋ねるアンケート調査を行いました。

この中で、誰もが投票しやすい環境を作るために必要なことなどを、自由に記述してもらう形式で質問したところ、郵便投票の対象を広げるよう求める回答が、40件あまり寄せられました。

郵便投票は、移動が困難な人のために投票所に行かずに送られてきた投票用紙を自宅などで記入し、郵送することで一票を投じることができる制度です。

郵便投票の対象について詳しい解説はこちらをご覧ください。

アンケートの主な回答は

「郵便投票の利用要件が厳しく限られた人しか利用できないので、国で法改正し要件を緩和してほしい」

「条件が厳しいため、投票用紙の交付を断らざるをえないことがあり対象者の拡大を望む」

「現行は要介護5の人など非常に狭い範囲に限定されているが、要介護3まで対象を広げるよう国に呼びかけたい」

「要件が緩和されれば、投票したくても投票所に行けない障害者が、自宅にいながら投票できるようになるのではないか」

静岡県磐田市選挙管理員会 田村直人さんの話
「どうしても外出ができない人がいるのに、投票所にきてくださいという説明をせざるをえず、相談を受けるたびに非常に心苦しく思っています。選挙管理委員会としても、ひとりでも多く貴重な1票を投票してもらいたいので、郵便投票の対象について改めて検討してもらいたい」

郵便投票の対象が厳しく制限されていることについて、総務省は「過去の選挙で郵便投票を悪用した不正が起きた事例もあることから選挙の公正性を保つ目的から対象を限定している」としています。

一方で総務省の有識者による研究会は6年前、「対象を広げるべきだ」という提言をまとめています。

有識者研究会のメンバーだった選挙管理アドバイザーの小島勇人さんの話
「現場は当事者や家族から、今の制度はおかしいんじゃないかという厳しい意見を常に受けていて、アンケートの回答は当事者の悲痛な声を代弁したものだと思う。郵便投票の対象については法律が改正されないと選挙管理の現場ではどうしようもない部分もあり、政治の側はしっかりと受け止めて法改正を検討してほしい」

外出が難しくても“対象外”

「歩くのが大変になってから、郵便投票できたらという思いは強いですね」

郵便投票の対象を広げてほしいと考えている40代の美代子さん(仮名)です。3年前、脊髄小脳変性症という難病を発症しました。

病気の影響で左半身にマヒがあり、つえがないと安定して歩くことは難しくなりました。

美代子さんの話
「道を歩いているとき、気がつかないうちに右側に寄ってしまっていて車道に出そうになってしまうこともあります。以前に比べて外出する機会はほとんどなくなりました」

家の中にいても、ときおりふらついて倒れそうになることがあると言います。取材にうかがったこの日も、ベッドから起きた直後に転んでしまったそうです。

約2キロ離れた投票所まで歩いて行くのは難しく、美代子さんは郵便投票を希望しました。

ところが、自治体の担当者から帰ってきた答えは「対象外」というものでした。

美代子さんの身体障害者手帳

郵便投票ができるのは、両下肢、体幹、移動機能の障害が1級か2級などと法律で決められています。これは足の機能が失われたり、立ち上がることが困難な人たちです。

一方、それより、程度が軽いとされる3級の美代子さんは、外出が難しくても郵便投票を利用することはできないのです。

2か月に1度受けとる数万円の障害年金のほかに、美代子さんには収入がありません。自宅でできる仕事を見つけようと、この半年の間に10社以上に応募しましたが、採用にはいたっていません。

美代子さんの話
「マヒのために手もうまく動かせないので、パソコンを打つにもどうしても時間がかかってしまって。障害があってもできる仕事をなんとか見つけられるといいのですが‥」

障害のある人たちが暮らしやすい社会に近づくように、1票を投じたい。その思いがありながらも投票所まで行くことができるか不安を感じています。

美代子さんの話
「私のように投票所に行くのが難しくて大変だという人がたくさんいるように思います。もう少し郵便投票の間口を広げてもらえたらと思います」

精神障害の人たちも“対象外”

郵便投票の対象を広げてほしいと希望しているのは、身体機能に障害のある人たちだけではありません。

「どうしても外に出られず、投票もできません」

このサイト「みんなの選挙」に、福岡県内に住む20代の菜莉さん(仮名)が寄せた声です。

菜莉さんの自覚症状

菜莉さんは10代の頃、精神障害のひとつ「双極性障害」と診断されました。

心の状態の大きな浮き沈みを繰り返し、うつの症状が続くと、長期間、外出ができなくなることもめずらしくありません。

しかし精神障害のある人たちに郵便投票は認められていません。

家に閉じこもりながら、いつもニュースを眺めているという菜莉さん。

政治の動きに関心があり、できるだけ1票を投じたいと思い続けてきました。

菜莉さんの話
「政治には弱い立場におかれた人々を助ける力があると私は信じています。でも投票したくても症状が悪化してしまって、諦めたこともありました」

決められた投票の期間中に、症状がどうなっているか事前には分かりません。

「郵便投票があれば、と思います」

菜莉さんはサイトにそんなメッセージを書き込んでいました。

「みんなの選挙」には同じように精神障害のある人たちから、投票所に行くことが難しいという悩みが多く寄せられています。

サイトに寄せれられた声
「人が多くていけない」
「慣れないところにいくとパニックが起こる」
「精神障害で強い不安を感じやすい。もたもたせずに書かないと迷惑だと思い、緊張してしまい手が震える」

当たり前ができるということ

菜莉さんが投票したいという気持ちを強くしているのは、以前に投票ができたとき、社会の一員になれたと実感できたからです。

去年7月に行われた参議院選挙で、菜莉さんは薬を飲む量を調整したり、体調に気をつけたりして投票に備えました。

そして投票日に、投票所の写真とともに菜莉さんからメッセージが届きました。

菜莉さんからのメール

「みんなが普通にやっていることをやれたことが嬉しい」

投票の日、体調がよくて家族と一緒に投票に行くことができたという菜莉さん。1票を投じられる、その喜びが文面から伝わってきました。

菜莉さんが撮影した投票所

障害があって投票に行くことができない。その事情は人それぞれですが、投票を希望する人たちの思いがくみ取られる仕組みに少しずつ変わっていってくれたらと思います。

2023年3月27日放送

【動画】郵便投票の基準が厳しい その実態は
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郵便投票の対象は?手続きの課題は?

郵便投票の対象について詳しい解説はこちらをご覧ください。

郵便投票の手続きが大変だという声も上がっています。こちらの記事をご覧ください。

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