2023年9月15日
リビア 災害 アフリカ

リビア洪水で8000人死亡 いったい何が?なぜ被害拡大?

「濁流が通った2、3キロにわたって建物がすべて流された」

北アフリカのリビア東部を襲った洪水で母親と兄が行方不明となっている男性が、現地の状況をこう、語ってくれました。

地元の市長が14日、明らかにした死者の数はおよそ8000人。いったい何が起きたのか。なぜ、ここまで被害が拡大したのでしょうか。

(ドバイ支局長 スレイマン・アーデル/国際部記者 小島明/社会部記者 宮原豪一)

そもそもリビアってどこにある?

北アフリカに位置するリビアは人口680万あまり。エジプトの隣国で、面積は日本のおよそ4.6倍あります。

国土の大半が砂漠で、人口のほとんどが地中海に面した北部に集中しています。

洪水で8000人死亡?何が起きたの?

10日に降り始めた雨が次第に激しくなり、11日に入って東部の各地で洪水が起きました。

中でも大きな被害が出たのが、人口およそ12万の東部の都市デルナです。大雨の影響で上流の2つのダムが相次いで決壊し、大量の水が市街地に流れ込みました。

衛星画像で洪水発生前と後を比較してみると、海沿いにあった道路は寸断されているのがわかります。

別の画像では、洪水前、橋がかかり、周りに多くの建物がありましたが、洪水のあとはほとんどが土砂で覆われてしまっています。


国連は、デルナでは2200棟あまりが浸水、その範囲は決壊したダムから市の中心部まで330ヘクタールに及んでいると分析。

デルナの市長は14日、NHKの取材に対し「これまでにおよそ8000人が死亡した」と明らかにした上で「被害地域の規模などから犠牲者の数は2万人以上に上るおそれがある」とも話しています。

ただ、通信状況が悪く、道路も寸断されていることなどから、被害の全容は依然として分かっていません。

九死に一生 地元住民の証言

デルナに住むナデル・ガザワニさん(41歳)はNHKの電話インタビューに応じ、当時の切迫した状況を語ってくれました。

ナデル・ガザワニさん

7階建てのマンションの3階に住んでいたガザワニさん。

雨は11日未明に急激に強まり、水が3階にまで流れ込んできたため屋上に逃げましたが、さらに水かさが増してきた上、建物自体が揺れ始めたといいます。

このため、危険だと判断してほかの住民たちとともに隣にたっていた同じ高さのマンションの屋上に飛び移りました。

そして、午前3時ごろ。

ダムの決壊で生じたとみられる濁流が市街地を襲ったといいます。夜が明けてあたりを見渡すと自宅があるマンションは流され、跡形もなくなっていたということです。

市内の別の場所にあった実家も流され、母親と兄とはいまも連絡が取れていません。

ガザワニさんのマンションがあった場所

ナデル・ガザワニさん
「デルナでは濁流が通った2、3キロにわたって建物がすべて流され、洪水で生まれ育った町並みは跡形もなく変わってしまいました。多くの人が亡くなり、個別の埋葬が追いつかず、連日、数百人を集団埋葬しています」


また、デルナで消防団として大雨の対応にあたったオマル・ガザリさん(55歳)は「雨が激しくなる前、地元の消防団は市内の住宅や商店に水が入らないよう土のうを積み、大雨に備えていましたが、全く意味をなしませんでした。最後まで住民に避難を呼びかけていた多くの仲間が命を落としました」と涙ながらに話していました。

洪水原因は「メディケーン」?

今回リビアで甚大な被害をもたらした洪水について、WMO=世界気象機関は「メディケーン」と呼ばれる、台風のような低気圧によってもたらされた大雨が原因だとしています。

「メディケーン」は、英語で地中海を意味する「メディタレーニアン」と「ハリケーン」を組み合わせた言葉で、今回は「ストーム・ダニエル」と名付けられています。

WMOによると、「ストーム・ダニエル」はギリシャで発生し、9月5日から6日にかけてギリシャ中部で24時間に750ミリという、年間降水量の1.5倍にあたる大雨を降らせました。

ギリシャでは少なくとも15人が死亡したと伝えられていて、その後さらに勢力を強めてリビアに上陸したということです。

なぜここまで被害が拡大?

専門家は、乾燥地帯特有の干上がった川に大量の雨水が集中し、短い時間で氾濫に至る「フラッシュフラッド」という現象が発生した可能性があると指摘しています。

京都大学 角哲也教授

角哲也教授
「乾燥地帯特有の干上がった川はアラビア語で『ワジ』と呼ばれています。『ワジ』は雨が降ったときに川になりますが、岩が多いため水が地中にあまりしみこまず急激に水位が上昇します。
今回、公開されているデータを見ると、わずか1日で年間の降水量に匹敵するかそれを上回る量の雨が降り、『フラッシュフラッド』が発生したとみられます。
ふだん水が流れていないので川沿いには家が建っていたり道路が走ったりしていて、いったん洪水になると大きな被害が出るのです」

長引く国の混乱も一因?

リビアでは2011年、民主化運動「アラブの春」をきっかけに40年以上続いた独裁的なカダフィ政権が崩壊。

その後、国は東西で分裂し、西部の首都トリポリを拠点とする暫定政府と東部の軍事組織との間で内戦状態となりました。

2020年に国連などの仲介で停戦が実現したものの、東西で違う議会、首相が選出されるなど、分裂状態は解消されずに混乱が続いています。

今回、被害が拡大した要因の1つとして指摘されているダムの決壊。

決壊したダム

大きな被害がでているデルナなどは東部を統治する勢力の支配下にある地域ですが、長引く国の混乱によりインフラの整備が行われてこなかったことも、ダム決壊の一因ではないかという見方が出ています。

また、WMO=世界気象機関も「リビアの不安定な情勢が災害の備えに影響していた」としています。

「気象サービスが正常に機能していれば警報が発令され、住民を避難させることで多大な人的被害を避けられたかもしれない。
リビアでの気象観測システムについて支援しようとしてきたが、国の治安状況が非常に困難であるため現地に赴いて改善することが難しかった」

「もう一度立ち上がるための力を」

被災した地域に向けてリビア国内や周辺のアラブ諸国などから医療物資や支援物資などが送られていますが、地元メディアによりますと、デルナなどでは道路が寸断されていて、物資を行き渡らせることも難しい状態だということです。

電話取材に応じてくれた、消防団のオマル・ガザリさんは最後にこう訴えました。

オマル・ガザリさん
「私たちは家族も、友人も、家も、住み慣れた街もすべてを失いました。
わずかな支援でもいいですし、無事を祈ってくれるだけでもいい。もう一度立ち上がるために皆さんの力を貸してください」

国際ニュース

国際ニュースランキング

    世界がわかるQ&A一覧へ戻る
    トップページへ戻る