2022年11月10日
ロシア スーダン アフリカ

ゴールドラッシュに沸くスーダン 背後にロシアの影?

灼熱の太陽が照りつける中、金の採掘に集まる男たち。

アフリカ有数の金の産地スーダンは、いまゴールドラッシュに沸いています。

しかし、その背後ではロシアの企業が違法に金を買いあさっているとの情報が。

いったいどういうことなのか?金の行方を追いました。

(カイロ支局記者 スレイマン・アーデル)

砂漠地帯に集まる男たち

アフリカとアラブ諸国を結ぶ要衝に位置する、スーダン。紅海に面し、国土は日本の約5倍あり、天然資源が豊富な国です。

もともと、アフリカ有数の金の産地として知られていて、近年は新たにたくさんの金脈が見つかり、金鉱がある町は、ゴールドラッシュに沸いています。

首都ハルツームから北に車を走らせること6時間。

訪れたのはナイル川州・アベディヤ、ナイル川沿いの町ですが、広がるのは砂漠のみ。

この砂漠地帯の町は、ゴールドラッシュに沸く町の1つで、いまスーダン中から大勢の男たちが一獲千金を夢見て、集まっているというのです。

金の採掘が行われる現場は?

砂漠地帯を歩いてみると、いくつもの穴があることに気付きます。それは金の採掘を行うために掘られた穴でした。

その1つをのぞいてみると、深さ70メートル以上もある穴に、男たちが入れ代わり立ち代わり出入りしています。

作業は、ハンマーやミノを使った手作業。穴の内側を地道に削って、金鉱石を集めていました。

穴のそばには、灼熱の太陽を遮るためのテントが設けられていました。テントの中に入ってみると、砂にまみれた男たちが休憩していました。全員が、家族を地元に残し、単身で出稼ぎに来ているのだといいます。

しかし、こうした採掘の多くは当局の許可を得ずに行われている「違法操業」。このためスーダンでは、年間にどれくらいの金が生産されているのかを、正確に把握することはできていません。

背後に潜むロシア企業?

ここで採掘された金鉱石は、トラックに積まれて地元の粉砕工場に運び込まれていました。

金鉱石は、直径約3メートルの粉砕器具に入れられて、水と水銀を加えながら細かく砕かれていきます。すると、軽い土は上に浮き、重たい金は底に沈み、底にたまった金が砂金として採取されるのです。

金鉱石を砕く粉砕器具

ただ、この方法は昔から行われてきた古典的な採取方法で、採取できる金は、金鉱石が含む金の30%ほど。残りの70%の金は、細かく砕かれた土の中に残ったままです。

この残土は「カルタ」と呼ばれていて、スーダンの法律では、水銀などを含むことから、産業廃棄物として処分するか、スーダンの金製錬企業にしか売ることができません。

しかし、このカルタについて、取材で訪れた粉砕工場の責任者は、興味深いことを話していました。

粉砕工場の責任者

「ロシア企業がカルタを買っていくんだ。彼らは一番羽振りよくカネを払っていくよ」

その工場ではロシアの企業にカルタは売っていないと言っていましたが、本来は売ることができないカルタが、なぜロシア企業の手に渡っているのでしょうか。

ロシア企業とは何者なのか?

取材を進めると、徐々に実態が見えてきました。

そのロシア企業の名前は「メロエ・ゴールド」。2017年にスーダンでの地質調査を名目に進出し、金鉱がある町アベディヤに巨大な工場を作りました。

メロエ・ゴールドの工場

しかし、この「メロエ・ゴールド」、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」(※)とのつながりがあるなどとして、2020年、アメリカ政府の制裁対象となっていました。

そんなロシア企業がなぜ、カルタを違法に購入できるのか。ワグネルやロシア政府とはどういう関係にあるのか。いろんな疑問が沸き、直接話を聞こうと取材を申し込みましたが、返答は得られませんでした。

※ワグネル
ロシア政府とのつながりが指摘され、シリアなどで残虐行為をした疑いがある民間軍事会社。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐっては、イギリス国防省の分析で、ロシア軍の兵員不足を補う形でワグネルの傭兵ようへいが最前線に投入されたとされる。一方、ロシア政府は、関係を否定。

“カルタブローカー”に接触

「メロエ・ゴールド」からの返答が一向にない中、「メロエ・ゴールド」にカルタを密売しているというブローカーに接触することに成功。

そのブローカーは、匿名を条件に取材に応じました。

取材に応じたブローカー

「商人として高いカネを払ってくれるところに売るのは当たり前のことだ。そして『メロエ・ゴールド』というロシア企業が最もカルタを高く、多く買ってくれる」

ブローカーが開口一番話したのは、「メロエ・ゴールド」のカネ払いの良さでした。カルタを購入する際は、すべて現金だということです。

そして、ブローカーの方は、複数の粉砕工場から大量のカルタを買い付け、違法に転売しているのだといいます。

カルタの入手方法を絵に描いて説明するブローカー

ブローカーによると、「メロエ・ゴールド」が買っているカルタの量からすると、毎月100キロの金を生産することが可能で、年間では1トン以上になるということです。

1トンの金の市場価格は、日本円にすると75億円以上に上ります。(1キロ=5万2338ドル、1ドル144円換算。9月27日時点)

さらにブローカーは、アメリカ政府が関係性を指摘した「メロエ・ゴールド」と「ワグネル」とのつながりについても証言しました。

「彼らは自分たちで工場の警備を行っている。工場に入ることができるのは取り引きを行うときだけ。入り口には無線を付け軍服を着た人間がたくさんいる」

この軍服を着た人が「ワグネル」の傭兵ようへいだというのです。

「メロエ・ゴールド」の狙いは?

カルタを違法に買っている「メロエ・ゴールド」の狙いはいったい何なのか?

ブローカーや専門家の取材を続けると、その背景にはロシアが周辺の国への影響力を強めようとしている意図が透けて見えてきました。

「メロエ・ゴールド」はスーダンで生産した金を「ワグネル」を通じて、ロシアが軍事関係を深めている中央アフリカに運び出したり、ロシアに直接密輸したりしているとみられるというのです。

ただ、スーダン政府に取材をすると、担当者は、ロシア企業の存在すら否定しました。

イーサ・ビンイーサ鉱物省・金生産企業統括部長

「確かに以前、『メロエ・ゴールド』という企業がスーダンで事業を行っていた。ただ、今はスーダンの企業に所有権が移っていて、代表もスーダン人だし、書類上もそうなっている。カルタを処理している外国企業はない」(イーサ・ビンイーサ鉱物省・金生産企業統括部長)

しかし、専門家はロシア企業がスーダンで違法な金の生産を行っているのは間違いなく、ロシアがほかのアフリカ諸国でも存在感を強めつつあると指摘しました。

「スーダンや中央アフリカなどでは、すでに新たな地政学的な争いが始まっている。従来とは異なり、もっとスピード感のある資源を直接奪い取る争いだ。今スーダンは、“ロシアの新たな金庫”になってしまっている」

アフリカ各国と関係強化を進めるロシア

スーダンにおける金の生産をめぐっては、2019年、当時の軍民共同統治の政府が、民政への移管を目指す中、国の重要な資源の金を有効活用するため、違法採掘や取り引きに関するルール作りを進めていました。

しかし、2021年、スーダンでクーデターが起き、軍事政権が誕生すると、すべては白紙に。

スーダンの軍事政権は、ロシアからの武器の供与が期待できるとして、ロシアとの結びつきを強め、違法な資源開発を事実上黙認しているというのです。

また、ウクライナへの侵攻直後、欧米からの経済制裁を受けているロシアでは、一時ルーブルが急落しました。

専門家は、ロシアはこうした事態を少しでも回避できるよう、スーダンで違法に生産した金をロシアに持ち込み、国内の金の保有量を増やすことで、通貨ルーブルの価値を支えようという狙いもあると指摘します。

スーダンの金鉱

ロシアは、ここ数年アフリカの権威主義的な政権との関係を強化していて、そのスピードは、ウクライナへの侵攻以降、いっそう加速しています。

2022年3月、国連総会でロシアを非難し、ウクライナからの軍の即時撤退などを求める決議案の採決が行われた際、欧米や日本など141か国が賛成した一方、5か国が反対、35の国が棄権しました。

棄権した国のうちアフリカの国々は17で、半数近くを占めました。スーダンも、その国の1つです。

スーダンでは今もクーデターに反発し、民主化を求める若者のデモが連日行われています。

本来はこうした若者やスーダンの未来のために使われるべき金が、軍事政権の下で違法な開発が黙認され、それらはロシアなどに流出している実態が明らかになってきました。

ロシアはいまスーダンなど権威主義的な国々を踏み台にして、アフリカでの影響力をさらに拡大しようとしているように見えます。

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