2022年5月25日
経済 習近平国家主席 中国 中国・台湾 注目の人物

「共同富裕」って何なの?習近平政権のねらいは?

中国の習近平国家主席は2021年8月、「共同富裕」というスローガンを大々的に打ち出し、注目を集めました。
この「共同富裕」とはいったい何なのか?
中国経済への影響は?
習近平政権のねらいは?

国際部の建畠一勇記者がわかりやすく解説します。

※この記事は2021年11月8日に公開したものです

「共同富裕」って何なの?

ひと言で言うと、格差是正のことです。

実際、中国共産党はスローガンで「貧富の格差を是正し、すべての人が豊かになることを目指す」としています。

もともとは、今の中国で「建国の父」とされる毛沢東が唱えたものですが、習主席は従来よりも一歩踏み込む形で「高すぎる所得を合理的に調節し、高所得層と企業が社会にさらに多くを還元することを奨励する」と述べ、所得の高い人や大手企業に寄付などを促しました。

どうして今、「共同富裕」なの?

背景には、中国の経済成長にともなう貧富の格差拡大があります。

中国は「豊かになれるものから先に豊かになる」という「先富論(せんぷろん)」を掲げながら市場経済化を進め、世界2位の経済大国になりました。

しかし、国が豊かになるとともに所得の格差も拡大し、スイスの金融大手「クレディ・スイス」は、2020年の時点で中国の上位1%の富裕層が中国全体の資産の30.6%を保有しているとして、富裕層に富が集中していると指摘しています。

李克強首相も2020年5月「毎月の収入が1000人民元程度(日本円で1万7000円程度)の人がまだ6億人いる」と述べるなど、中国政府も収入が低い人が依然として多い実態を認めています。

習指導部の思惑は?

習指導部としては、格差の是正に取り組む姿勢をアピールすることで国民の不満を和らげ、政権の求心力向上につなげたい思惑があるとみられます。

また、中国の情勢に詳しい神田外語大学の興梠一郎教授は「習主席にとっては、来年の党大会で総書記(党トップ)として、異例の3期目入りが実現できるかどうかが1番の優先課題となっている。『習主席に引き続きやってもらわねば』という党内外の世論が重要になるので、来年の党大会を視野に入れた動きではないか」と指摘しています。

中国企業はどう受け止めているの?

中国企業の間では、大手IT企業を中心に巨額の資金の拠出を表明する動きが相次ぎ、「共同富裕」の方針に追従する動きを見せています。

ネット通販最大手の「アリババグループ」は、「共同富裕」の理念を体現するモデル地区建設の支援などを掲げ、2025年までに日本円で1兆7000億円を投入するとしています。

IT大手の「テンセント」は、低所得者の支援や農村部振興などのために日本円で8500億円の資金を拠出するとしています。

出前代行サービスなどを展開するIT大手の「美団」なども、「共同富裕」に貢献する姿勢をアピールしています。

なぜ、大手IT企業がこぞって追従しているの?

2020年から2021年にかけて相次いだ中国政府による「IT企業叩き」が関係しているのではないかとの見方があります。

「アリババ」は2021年4月、独占禁止法違反の疑いで日本円でおよそ3000億円に上る巨額の罰金を科されました。

「テンセント」は、収益の柱の1つとなっているオンラインゲームが、未成年の使用を制限する政府の規制の対象となりました。

こうしたことから、IT企業側としては、さらなる圧力を避けるためにも、「共同富裕」に追従したほうが得策だと判断した可能性があります。

興梠教授は「中国共産党は国家が統制できない、統制外の民間の組織を嫌う。あまりにも強大になった民間企業は、共産党や国有企業にとって脅威であるという発想だ」と指摘します。

いろんな思惑がある中で、「共同富裕」ってうまくいきそうなの?

習指導部としては、急成長した大手IT企業からの資金の拠出などを通じて、富の再分配を進めたい考えとみられます。

しかし、一方で、相続税や固定資産税の導入など、共産党幹部の既得権益に踏み込むような抜本的な税制の改革案は現時点では示されておらず、「共同富裕」という形での富の再分配については、効果を疑問視する指摘も出ています。

ちなみに2021年10月、習近平指導部は日本の固定資産税にあたる「不動産税」を一部の都市で試験的に導入することを決定。

ただ、反発も予想されるなど、全国的な導入にはまだ課題もありそうです。

中国経済への悪影響はないの?

大手IT企業などへの締めつけ強化は、企業活動を萎縮させて技術革新などが生まれにくくなるほか、株価の下落にもつながり、企業の資金調達が難しくなることから、結果的に中国の経済成長の妨げになるおそれも指摘されています。

中国共産党は2021年11月8日から、重要方針を決める会議「6中全会」を開く予定で、「共同富裕」をめぐってどのような話し合いが行われるのか注目されます。

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