【体験記】
妊婦がワクチン接種を受けるまで

2021年9月24日

新型コロナウイルスの第5波では、妊婦の感染も多く報告されました。

2021年8月には、千葉県で新型コロナに感染した妊婦が、入院調整で受け入れ先が見つからず、自宅で早産となり、赤ちゃんが亡くなるという痛ましいケースがありました。

こうした状況を受けて、「妊婦もワクチン接種を」というメッセージが学会などから出されていて、国も妊婦がワクチン接種できる機会の確保を進めています。

とはいえ、妊婦の皆さんの中にはワクチンを接種してもいいのか不安を感じる人も多いのではないでしょうか。

現在、妊娠中のNHKの女性記者の1人も、ワクチンを接種するべきか何度も迷いながら、学会の見解や専門家が発信している情報を読み込んだり、かかりつけ医の意見を聞いたりしながら、自分なりに判断して接種を受けました。

ワクチン接種に悩んでいる妊婦の皆さんの参考になればということで、1つのケースとして、この女性記者の体験記をご紹介します。

妊婦中期でのワクチン接種、頭をよぎる不安

自治体からワクチンの接種券が届いたのは7月上旬でした。

このとき私は妊娠中期。

新型コロナのワクチンは「妊婦でも接種できる」ことは知っていましたが、自分が接種する立場になると不安が頭をよぎりました。

赤ちゃんへの影響はないのか。

このまま感染せずに出産まで終えることはできないだろうか。

だけど、感染してしまったら赤ちゃんと自分はどうなるのだろう。

ワクチンについての根拠のない情報も飛び交っていました。

いろいろな思いが頭の中を駆け巡る中、まずは正確な情報集めから始めることにしました。

産科系の学会の見解は?

まず、参考にしたのは日本産科婦人科学会と日本産婦人科感染症学会などが公表している見解です。

2021年5月に出されていた内容(現在は、新たな見解が出されていて、内容も変わっています)では、今回のワクチンについて▽短い期間にワクチン開発が行われたために、まだ長期間にわたる有効性や安全性に関するデータの蓄積はないこと、▽中・長期的な副反応については今後も情報収集が必要なことなどが紹介されていました。

その上で両学会の当時の判断としては次の通りでした。

▽妊婦に対しても短期的な安全性を示す情報は出つつあり、現時点では接種のメリットがリスクを上回ると考えられる。

▽感染者が多い地域や重症化リスクが高い基礎疾患がある場合などでは、積極的に妊婦や妊娠を希望する女性への接種を考慮する。

一方で、胎児異常はワクチンとは関係なく一定の割合で起こります。

こうしたワクチンと関係のない異常と区別するのが難しい場合、混乱するおそれがあることから、この時点では妊娠12週までは接種を避けるなどとされていました。

ちなみに、この見解はその後、6月に改訂され、海外の情報では「妊娠初期を含め妊婦さんとおなかの赤ちゃん双方を守るとされている」として、「日本においても希望する妊婦さんはワクチンを接種することができます。」とされました。

学会の情報はどんどん更新されているようで、少し不安が薄れた気がしました。

最新情報が反映されていると信頼感が高まると感じます。

(学会の見解は、8月14日付けでさらに更新され、「わが国においても、妊婦さんは時期を問わずワクチンを接種することをおすすめします。」「妊婦の夫またはパートナーの方は、ワクチンを接種することをお願いします。」などとされています。)

情報発信している医療者グループのサイトでは?

もうひとつ参考にしたのが、ワクチンについて科学的根拠に基づいた情報を発信している医療者によるプロジェクト、「CoVーNaviこびナビ」のHPでした。

そこでは、▽アメリカではすでに13万人以上の妊婦がワクチンを接種していること(7月7日時点)、▽妊娠を完了した827人の調査の結果、胎児や出産への影響はなかったことなど、具体的なデータや出典が記載されていました。

こうした情報を読み進めるうちに、ワクチンは早く接種した方がいいという思いが大きくなっていきました。

かかりつけ医にも相談

そこで早速、検診の際にかかりつけの病院で産婦人科医に接種の相談をしました。

ところが、医師から言われた言葉に動揺することになります。

▽短期的な安全性は問題はないと思うが、長期的にどんなことが起こるのかは証明されていない。

▽その上で、家族としっかり相談して、自分で判断する必要があると念を押されたのです。

未知のリスクを考慮した上での意見だったと思います。

新しく開発されたワクチンですから、特に長期的な影響についてのデータが少ないのは当然です。

そうしたことはきちんと理解していたつもりでした。

しかし、改めてそう言われると、私の中で接種を「自己責任」で決めるということの重圧と「本当に大丈夫なのか」という不安が再び大きくなってきました。

そこで、いったん判断を保留し、再度、情報を調べることにしました。

ワクチンの安全性、どうやって判断すればいいのか

科学的に検証を受けた国内外の報告や論文などは、データの信頼性は高いとされていますが、新しいワクチンということもあって、その数は限られています。

だからといって、科学的な信頼性の低いデータを集めるのは本末転倒な気がします。

そもそも長期的なリスクは「すぐには分からない」から、「長期的なリスク」なのであって、いまの時点で「長期的にも確実に安全である証拠」を求めても難しいのかもしれません。

ではどうやって判断すればいいのでしょうか。

小児科や周産期医療の専門病院「国立成育医療研究センター」には妊娠中、授乳中の薬に関する相談を行っている「妊娠と薬情報センター」が設置されています。

私が最終的に接種を決めた際に参考になったのは、そのウェブページに書かれたひと言でした。

「“安全性”と“効果”のバランスで考えます」

それはFAQの冒頭に書かれた「接種すべきかどうかは安全性と効果のバランスで考えます。」ということばです。

これまでもワクチンを接種するかどうかは、「リスクとベネフィット」を比較して判断する必要があると多くの専門家から聞いていました。

私自身が接種するかどうか迷っていたのは、この「安全性と効果」を比べることの具体的なイメージが持てていなかったせいかもしれないと改めて感じたのです。

ワクチンの「安全性」と「効果」 それぞれどんなものか

自分と赤ちゃんにとって、ワクチンの「安全性と効果」は一体どんなものなのか。

これまで調べた限りは、接種した妊婦や赤ちゃんに直接的なリスクがあったという科学的に信頼性の高いデータは見つかりませんでした。

長期的なリスクについて、「ワクチンの成分や仕組みから考えてリスクはなさそうだ」という見解はありましたが、新しいワクチンのため実際の長期的なデータはまだ不足しています。

この時点では、目を向けていたのはこの「安全性」についての情報ばかりでした。

むしろ、「効果」もしっかり認識する必要があると感じたのです。

ここでは、かかりつけの病院で改めて接種の相談をした際の医師の話が参考になりました。

前回とは違う医師でしたが、次のように説明してくれました。

妊婦が感染すると妊娠していない女性より重症化するリスクが高い
→私の気持ち:「ワクチンを接種することで重症化のリスクを下げることができそう」

妊婦は仮に新型コロナに感染して症状が重くなった場合でも使えない薬が多い
→私の気持ち:「やっぱり感染、重症化のリスクを少しでも避けることが大切」

医師からは接種するのであれば出産の直前よりも早めに終えた方がよいということで、念のため接種の前後1週間にそれぞれ超音波検査を行うと伝えられました。

また、発熱などの副反応に備えて妊婦でも使える解熱剤を処方してくれるということでした。

かかりつけの医師からのこうした丁寧な説明やフォローは個人的にとても安心できるものだと感じました。

ワクチンを接種することによる、自分や赤ちゃんに対する「リスク」を心配するのは当然ですが、同時に感染してしまった際のリスク(ワクチンによって避けられるリスク)も考慮して判断することは大事な視点だと思います。

新型コロナが終息しない限り、どんなに気をつけていても感染する可能性はゼロにはなりません。

もちろん、もし感染してしまった場合でも、多くの人は比較的軽く回復するのかもしれません。

ただ、妊娠していると症状が重くなるリスクは、わずかではあっても高くなるとされています。

仮に重症化してしまった場合、赤ちゃんへの影響を気にしながら治療を受けざるを得ません。

医師からは感染すると早産になるリスクが上がるという話も聞きました。

こうした情報を総合した結果、感染状況や変異ウイルスの状況を考えると、ワクチンを接種することで感染、発症、重症化のリスクを下げることができる方が自分にとってはメリットが大きいと感じるようになりました。

私はかかりつけの病院で接種を申し込みました。

ワクチン接種 体験談 副反応は

ここからは私がワクチンを受けた際の体験談になります。

(すべての妊娠している女性に当てはまるわけではないと思いますのでご注意下さい。)

7月半ばに私は1回目の接種を受けました。

打ったのはファイザー社製のワクチン。

気になる副反応ですが、私の場合、打った方の腕が何かにふれると痛みを感じる時があったり、首筋が少し重たい感じがしたりしましたが、それ以外はほとんど何も変化は感じられず、日常生活にも支障はありませんでした。

接種当日、胎動があまり感じられないような気がして、少し心配になりましたが、翌日はいつも通り元気に動いていて、1週間が経過したあとの超音波検査でも元気な様子が確認できました。

2回目の接種後の副反応は

2回目の接種を受けたのは1回目の接種から3週間後、都内では感染者数が急増していたころでした。

結論からいうと副反応は軽い方だったのかもしれませんが、1回目と比べるとやはり副反応は強く出ました。

接種当日
接種が終わって帰宅。夕方から体がだるくなりはじめ食欲がなくなりました。

接種後2日目
昼前から37度2分の発熱。熱自体はそれほど高くないものの首筋を中心に上半身に熱がこもった感じで、暑くてたまりませんでした。ベッドに横になりながら胎動があるか確認していましたが、体調が悪くてよく分かりません。保冷剤で首筋をひたすら冷やして熱が下がるのを待ちました。

接種後3日目
平熱に戻りました!ただ、体のだるさはまだ残っていました。午後からはおなかが張ってしまったので、さらにもう1日、安静に過ごすことにしました。正直、おなかが張ると不安になることもありましたが、時々、胎動が感じられていたので、それだけが安心材料だったように思います。

接種後4日目
体調は通常に戻りました。生活も通常通りで大丈夫です。接種から1週間後の超音波検査でも赤ちゃんが元気なことが確認できました。

ワクチン接種を終えて、少し軽くなった心の負担

2回の接種を終えた今、マスクを着け、人混みを避ける生活は変わってはいませんが、心にかかっていた負担は少しだけ軽くなったように思います。

特に1回目の接種後、7月下旬からは全国的な感染者数が急増し第5波と呼ばれる状況になりました。

2回目の接種を終えて2週間たつまでの不安は今より大きかったのです。

もちろんワクチンを打っただけでは感染を完全に防ぐことはできませんが、思っていた以上に安心を得られたように感じました。

接種を決めるまで、さまざまな情報を耳にしてどの情報を重視すればいいのか迷う場面が多く、判断は難しかったと感じています。

たどり着くまでに大変だった情報も多く、誰もが確度の高い情報に自然とアクセスするのを手助けする仕組みがあれば、本人が納得できる判断をしやすくなるように思います。

接種前後の検査やかかりつけの医師からの説明など妊婦をサポートする体制が整っていることが不安の解消には重要だと感じました。

(当然、ワクチンを受けたくても受けられない人、接種を見合わせた人にも十分なサポートが必要ですし、感染した場合の医療体制の確保も重要です。)

新型コロナウイルスのワクチンはまだ分かっていないことがあるのは事実だと思います。

私自身、今後も学会や専門家が発信する情報を定期的にチェックしていこうと思います。