自分が変われば、周りの環境も変わってくる

桃田賢斗

バドミントン

バドミントンの男子シングルスで世界ランキング1位を独走し、東京オリンピックの金メダル有力候補だった桃田賢斗にとって、2020年は試練の年となった。

1月にマレーシアで行われた国際大会を優勝した直後、交通事故に巻き込まれ、右目の周りを骨折。シャトルが二重に見えるなど視力が低下し、選手生命も危ぶまれた。

リハビリを続けるさなか、今度は新型ウイルスの影響でオリンピッが延期。国際大会もすべて中断となり、実戦の機会を失った。 しかし、日本のエースは度重なる試練にも下を向くことなく、正面から向き合っていた。

「先が見えない中で自分に厳しくするのは、すごく難しいことだと思う。でもそういった時でも逃げずにしっかりと向き合って自分を追い込こむことや、挑戦していくことは今のところできていると思っている。
自分が練習に取り組む姿勢は、何も変わっていないし、時間を無駄にせずに毎日の一日一日を全力で過ごしている。だから気持ちの部分はすごく成長できたと思う」

脳裏に浮かんだのは2016年、リオデジャネイロオリンピック前の苦い挫折だ。 メダル候補と目されながら大会の4か月前に、違法賭博問題が発覚して処分を受け、出場の機会を逃した。この4年間、最も苦しい時に自分を支えてくれた人たちや処分からの復帰を喜んでくれたファンたちの支えを力に変えて、ひたむきに競技と自分に向き合って、恩返しのつもりで一つ一つの結果を積み上げてきた。

その姿勢が広く受け入れられ、1月の事故のあとは、回復を願う温かい励ましがSNSを中心に大きな輪となった。

「リオデジャネイロオリンピックの前は、自分のせいで本当にいろんな方に迷惑をかけて、本当にどん底を見ました。這い上がれないのではないかというところまで落ちたんですけれど、それでも、もう一回、頑張るチャンスをもらった。一回失敗した人でもやり直せるし、自分が変われば、周りの環境も変わってくる」

事故による手術からのリハビリに取り組んでいた3月。記者会見に臨んだ桃田は、それまであえて口にしてこなかった東京オリンピックの金メダル獲得の目標を公の場で初めてみずから口にした。

「いろんな人に迷惑をかけたり心配をかけたりしている分、そういう人たちに恩返しというか、一つの形として自分も全力で頂点を目指したいと思って初めて言いました。銀じゃだめだと思っています。金メダルだからこそ意味があるのかなと思います。オリンピックは1年延期になりましたけど、そこの気持ちは一切ぶれていません」

開催を懸念する声も聞かれる2021年の東京オリンピック。しかし、桃田ははっきりと大会に臨む自分の役割を見出している。

「自分の取り組む姿勢や絶対に諦めない姿を人に見てもらい、何かを伝えられるような大会になればいいと思う。そして、これまで支えてくれた人たちに感謝の気持ちを伝えるためにも、東京オリンピックでは成長した自分を見せて『ありがとう』という気持ちをコートの中で表現して頂点に立てる大会にしたい」

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