今この瞬間を生きられなかったら未来を語る資格はない

澤村拓一

野球 #自分を奮い立たせたいとき

キャップの後ろからのぞく束ねた長髪。
そして、闘志あふれるピッチング。
3シーズンぶりにロッテに帰ってきた35歳のリリーフピッチャーに抱いていた印象は『我が道を行く』選手像だった。

しかし、そのイメージはインタビューが進むにつれて次々と投げ込まれる『まっすぐ』で『ど真ん中』なことばによって崩されていく。

「同じ方向にカメラを向けていれば同じ写真が撮れるわけじゃない。同じ目標にちゃんとピントを合わせないといけない。そういうことを、若手には伝えていきたい」

何よりプロとして”勝ちきる組織”をどのように作るのか尋ねると、その熱量は増していった。

「”はいはい”言ってるだけのイエスマンはいらない。なぜそこにいるのかとか、なぜその職業になったかを考えて動ける人間が多ければ多いほどいい組織だと思っている。監督やコーチから言われる前に”僕はこう思ってるんですけど、どう思いますか”と聞くくらいじゃないと」

そんな歯にきぬ着せぬストレートなことばの裏にはチームを思う気持ちにあふれていた。

それは、日頃から若手選手へのコミュニケーションに人一倍、気を配っている様子からも伝わってくる。

短い間隔で登板が続けば体の状態を気づかうメッセージを送る。

失点すれば「やりたいことは分かるから、ぶれずにやろう」と声を掛ける。

シーズン中、積極的に食事に誘うのは年齢や立場に関係なく対等に意見を言い合える環境作りが必要だと考えているからだ。

「彼らにとってプラスでありたいし、彼らのおかげで成長できたと思える人間関係を築きたい。みんなが『また頑張ろう』ってなるためだったら、時間やお金はどんどん使っていくつもりでいる」

こうした姿勢は大リーグで戦った2年間をもっとも身近で支えてくれた友人から学んだことでもあった。

「2年間一緒にいて。常に献身的で通訳としてだけの仕事だけでなく、愚痴なんかも全部聞いてくれた。彼のおかげでやれたし、これがプロだなと。彼にチームに対してもっと献身的であるべきだと気づかされた」

これまでの野球人生で感じたこと、学んだことをチームの勝利のためにささげる。
インタビューの間、その思いが揺らぐことは一度もなかった。

「個人的な目標は本当になくて勝ちたい、それだけです。1日1日、明日なんか見てない。その積み重ねをできない人間は優勝もできないし、とりあえずこの目の前の試合を勝つことだけを考えていこうぜと」

そして、まっすぐ前を見据えたまま、その『ことば』に力を込めた。

「今、この瞬間を生きられなかったら未来を語る資格はないと思う」

野球 #自分を奮い立たせたいとき