何度でも勝ってエースと言われるように僕はなりたい

川除大輝

パラクロスカントリースキー

北京パラリンピックのクロスカントリースキー、男子20キロクラシカルで金メダルを獲得した川除大輝。生まれた時から両手両足の一部の指がない川除は、ストックを持たず、雪の上を走るように軽快に滑る。

性格はマイペースだ。2019年の世界選手権で金メダルを獲得したあと、周囲からは“次期エース”と期待されてきたものの、その自覚を持てずにいた。

「自分は人よりすぐれたところがあるわけでも、頭がいいわけでもない。ただスキーを頑張ろうと思っているだけで先輩が多いチームの中で周りを引っ張るというのは自分にはちょっとできない」

そんな川除をもどかしい気持ちで見ていたのがパラリンピックで3つの金メダルを獲得している日本チームの絶対的エース、新田佳浩だった。川除は新田の勧めでクロスカントリースキーの道に進んだ。
北京大会を集大成にすると決めた新田が“次のエース”と指名したのが川除だった。

北京パラリンピック。川除は、新田と同じレースに出場し金メダルを獲得した。その時の顔つきや話すことばは、以前とは大きく変わっていた。

「次期エースだと言われてきたが、自分自身はそこまでの存在じゃないという思いが強かった。でも、金メダルを獲得したことでチームを引っ張っていけるだけの力がついたことが証明できたと思う。何度でも勝って“エース”と言われるように僕はなりたい」

金メダリストになったことで、エースとしての自覚が芽生えた川除。
大会中のミーティングで驚きの提案をした。

「最終日のリレーに新田さんと2人で臨みたい」

多くのチームが4人でリレーするこの種目で、新田と川除が1人2周ずつ滑るという新旧エースによるバトンリレーだ。新田もこの提案を快く受け入れた。

新田が疲労で順位を落としても川除が追い上げて7位入賞。
レースのあと新田の表情はすがすがしかった。

「川除選手はもう世界のどんなレースに出しても恥ずかしくない選手に育ってくれた。この大会で一緒に滑ることができ、成長を真横で見ることができたのは貴重な経験になった。ありがとう大輝」

川除も笑顔の中に充実感をにじませた。

「一緒に表彰台に乗ることはできなかったが、2人でバトンをつないだ入賞という結果にすごく満足している。ずっと憧れてきた選手と2人で大会を締めくくれたことをうれしく思う」

北京パラリンピックの最終日に川除が、憧れの先輩に贈ったサプライズ。
バトンを受け継いだ新エースが、ひとり立ちした瞬間だった。

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