泥臭く食らいついてみせる。きれいじゃない、泥臭い自分がいてもいい

葛西紀明

スキージャンプ

49歳の葛西紀明は、冬のオリンピックで史上最多となる8回の出場を果たし、ワールドカップでは最年長勝利記録を樹立。スキージャンプ界で数々の伝説を作り続ける言わずと知れたレジェンドだ。

しかし、ここ数年は苦しい状態が続いている。2020年は日本代表から外れ30年以上出場していたワールドカップに参戦することができなかった。
その要因はただ1つ。ジャンプの踏み切りの際にスキーの板がスリップしてしまうことだった。この現象が起きるとスキーの板に力がうまく伝わらず飛距離を伸ばすことができないという。

「ジャンプだけがうまくかみ合わなかった。パワーが伝わらないのですっこ抜けてしまうというか。ただそこを直す、戻すということだけ。そこを重点的にやってきた」

国内の大会で好成績を残すことができず、厳しい状況が続く中でも来年2月の北京大会で9回目となるオリンピック出場を諦めていない。ジャンプはスランプに陥っているが、来年6月に50歳となる今も肉体に衰えを感じていないからだ。

「若い選手たちに筋力や瞬発力で劣っていない。そういう能力があるからこそ、ここまで続けてこられたという自信がある。また世界で戦えるジャンプができると思う」

“まだまだできるんだ”と年齢を重ねても理想のジャンプを追い求め続ける葛西が原動力を明かした。

「ジャンプを愛しているということ。もう好きでたまらない。そして、これだけやってきてオリンピックで金メダルがないという悔しさだ」

7年前、41歳で出場し銀メダルを獲得したソチオリンピックでの経験も意欲につながっている。みずからのジャンプがたくさんの人に夢や希望を与えられると感じたのだ。

「『感動した』『41歳でメダルを取ってすごかった』と言われたとき、自分もまだまだ頑張りたいという気持ちになった。たくさんの人が見てくれて、その期待に応えて記録と記憶に残る、そういうジャンパーになりたい」

だからこそ、逆境の中でもはい上がろうともがき続けている。

「泥臭く食らいついてみせる。きれいじゃない、泥臭い自分がいたっていい」

レジェンドはオリンピックの舞台を手にするため、なりふり構わず前に進み、4か月後の北京大会に向けて“奇跡を起こしてくれるのではないか”。葛西紀明の魅力に取りつかれた多くの人たちが期待している。

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