
100%以上、絶対出す
2019年11月、スポーツクライミングの東京オリンピック出場権の解釈をめぐり、日本の競技団体が国際競技団体をスポーツ仲裁裁判所に訴えるという異例の事態が起きた。
解決の見通しがたたないまま3か月経った2020年2月、代表選考レースがどうなるかわからない不安に駆られる選手たちの声を代弁するように、ひとりのクライマーが断言した。
「もう、最悪ですよね。
不満はたくさんありますけど、どこにぶつけるかといったら、練習にぶつけています」
気持ちをダイレクトに表現するのが、野中生萌の魅力だ。
東京生まれ、東京育ち。地元で迎えるオリンピックでスポーツクライミングの初代女王を目指す。
そのために掲げる信念に、野中らしい熱い思いがにじむ。
「100%以上、絶対に出す。
それの積み重ねで、大会でも何でもその先につながると思う。
100%じゃだめなんです、100%以上」
物事に“100%以上”は、実際はありえない。
常に全力を尽くすことを忘れまいと自分で考えた言葉だ。
スポーツクライミングの種目の1つ、スピードの壁が国内に少なく練習ができないとなれば、クラウドファンディングで資金を集めてみずから壁を近所に造った。
2020年2月、ボルダリングのジャパンカップでは、決勝の最初のコースを単純なミスによって完登できず、2連覇が遠のいた。
それでも、「応援してくれる観客は、私が諦めたような登りは期待していない」。
最終のコースも集中力を切らさず鮮やかに1回で登ってみせた。
「人生をクライミングに捧げている。大会は私の存在を証明する場所」
オリンピックで“100%以上”を貫くことができれば、かつてないほど大きな達成感を得られるはずだ。