もっと覚悟を持って、もっと追求しないといけない

池崎大輔

車いすラグビー

2021年8月29日、国立代々木競技場で行われた東京パラリンピック、車いすラグビーの3位決定戦。勝利を告げる試合終了のブザーが鳴ったとき、日本代表のエース池崎大輔は表情を変えず、静かに数回、手をたたいた。だが、そこに笑顔はなかった。

車いすラグビーの日本代表は5年前のリオデジャネイロパラリンピックで初のメダルとなる銅メダルを獲得。3年前の世界選手権では初優勝を果たし東京大会では初の金メダル獲得への期待が高まっていた。
エースとして長くチームを引っ張ってきた池崎自身も常々「金メダルしか欲しくない」と口にしてきた。

2020年3月東京パラリンピックの延期が決まった時にもその思いは揺るがなかった。その時、池崎は42歳。進行性の難病で手と足に障害があっても「成長できるチャンスだ」とあくまで前を向いた。
成長のために新たに始めたのが腕や足を「加圧」しながら行う特殊な筋力トレーニング。週3回およそ2時間にわたって行った。みずからの持ち味、スピードとこれまで苦手としていたパスを同時に強化しようと考えた。

パラリンピックまで1か月を切った8月上旬、再び池崎を訪ねた。試合に向けて調整に入る時期にかかわらずハードなトレーニングを続けていた。

「まだ足りない。勝つためには追い込んで、追い込んで、自信をつけて臨みたい。5年間の思いが詰まったものをたった5試合にぶつける」

大会前に胸囲は10センチ、腕周りは4センチ太くなり「競技人生で1番」と
言い切るほどまで仕上げた。

これまでにない覚悟で臨んだ東京パラリンピック、しかし、夢には届かなかった。準決勝でイギリスに敗れた直後は涙を止めることができなかった。

「いろいろなものを背負ってきてその夢が一瞬で消えてしまった。本当に悔しくて情けない」

敗戦のショックは、翌日の3位決定戦が始まる前までひきずった。それでも試合が始まれば鍛え上げた体で世界ランキング1位のオーストラリアの守備を次々に突破しトライを重ねた。

正確さを増し、力強くなったパスは味方の得点につながった。東京パラリンピック最後の試合で5年間の成長の証を見せ、そして勝利で締めくくった。

「5年間の努力は本当の努力ではなかったのかもしれない」

後悔はまだ残っている。だが、日本が誇るエースは新しい目標へ向かって走り始めようとしている。今度こそ金メダルをつかむために。

「この悔しい思いを背負って3年後のパリ大会に向けてもっと覚悟を持ってもっと車いすラグビーを追求しないといけない。パラリンピックの舞台でやられたからには同じ舞台でやり返して金メダルを取る」

車いすラグビー