”ベストじゃなかったから勝てなかった”と言いたくないし、聞きたくもない

石井美樹

ビーチバレー

冬の湘南の風は容赦なく体温を奪っていく。人気の少ない砂浜で石井美樹は、ペアを組む村上めぐみと練習を続けていた。腕や腰にカイロを貼りながら…。

日本のビーチバレー女子で東京オリンピックにもっとも近いとされる2人だが、2020年3月以降、海外ツアーは中止。この冬も本来ならば、ケガのリスクが少ない温暖な海外で練習をしているはずだった。

石井が持っている、2020年のゴールドの手帳、オリンピックでの活躍を誓って選んだ色だ。そこに書き込まれていた試合予定は次々と線で消され、そして、何も書き込まれなくなっていた。

「これはもう一生捨てられない。葛藤していた当時の気持ちが詰まっているから」

新型コロナウイルスによって一変した環境。それでも石井は、村上との練習をやめない。なぜなのか。石井は、自分の決意を確かめるようにこう言った。

「ベストじゃなかったから勝てなかったっていうのは、私は言いたくないし、聞きたくもない。スポーツはそんな甘い世界じゃない。どんな状況でも、やれる事はある。ベストな状態には、自分の力で絶対持っていける」

吹き付けていた海風が少しだけ熱を帯びた。

ビーチバレー