熟練の技をAIが受け継ぐ マグロの目利きや伝統工芸も効率化

ベテラン職人の「技術」や「勘」は、長い下積みや修行を経て人から人へと受け継がれてきました。しかし今、時代とともに働き方が変わったり人手が不足したりして、職人の技術や勘を継承することが難しくなってきています。そうした課題を、AIを活用して解決しようという動きが現れています。

AIがマグロを目利き 「品質にブレなし」

山形県鶴岡市のスーパー「主婦の店」。鮮魚売り場に「AIマグロ」と掲示されています。並んでいるのは、AIが品質を目利きしておいしいと判定したマグロです。

スーパー 水産課バイヤー 佐藤大介さん
「品質のブレがなく食べておいしい。クレームは、ほぼゼロです」

このAIは東京都内の広告大手「電通」が開発しました。マグロの品質は通常、尾の断面の色や、つや、脂ののり方などを人が目で見て判断します。そこで尾の断面の写真1万枚以上を集め、プロの評価とともにAIに学習させました。

マグロの尾の断面の画像。AIがプロの評価とともに学習した

その結果、わずか数秒でプロの目利きと90%以上一致する品質判定ができるようになりました。

大手広告会社 グループ・クリエーティブ・ディレクター 志村和広さん
「AIに目利きの技というものを継承してもらって、職人さんの目利きの技を保存していく。社会的にも価値があることだと思う」

職人は何を考えている? AIが言葉で蓄積

茨城県つくば市にあるベンチャー企業「LIGHTz」は、熟練の職人が考えていることをAIに蓄積する取り組みを進めています。

例えば、岩手県の伝統工芸品「南部鉄器」の鉄瓶を完成させるまでには、さまざまなノウハウが必要です。このベンチャー企業は南部鉄器の職人にヒアリングを重ね、「何を考えながら作っているのか」を言葉にしてAIに学習させました。

伝統工芸品が完成するまでには…
職人の頭の中には膨大な事柄が

その結果、それぞれの工程について、熟練の職人が何を考えて作業しているかが詳しく表示されるようになりました。

ベンチャー企業 乙部信吾 社長
「人が頭の中でどういうことを考えているか。そのものを残せる技術として開発した」

「次世代型の伝承スタイル」目指すメーカー

このAIはものづくりの現場でも活用されています。岐阜県各務原市の部品メーカー「樋口製作所」は、設計段階で部品のリスクを見抜く目を養うためAIを活用しています。

例えば、ある部品の設計図をAIに解析させてみると、部品の一部が青く表示されました。青い部分は加工する際に壊れるリスクがあり、注意が必要な部分です。

AIが解析した結果、青い部分に壊れるリスクが
そのまま作ると、部品が割れてしまう

熟練の技術者であれば設計段階でリスクに気づくことができるそうですが、技術部設計課の髙木孝洋課長は「若手に理解してもらえるか、なかなか言葉だけでは難しい」といい、このAIを使うことで、効率よくリスクを見抜く目を養えるといいます。

部品メーカー 樋口徳室 社長
「当社のノウハウは何なのかということを改めて顕在化するにはとても重要なポイント。次世代型の伝承スタイル、それを目指していきたい」

このメーカーではAI導入によって製品のロスが減り、コスト面でもメリットがあるということです。

人では難しいことをAIにうまく担わせる事例を増やしていくことが期待されます。
【2023年5月22日放送】
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