東京・高円寺 昭和レトロな銭湯を起点に空き家再生を目指す

日本全国に846万戸あるとされる空き家。昔ながらの商店街が残る東京・高円寺エリアでもその増加が課題になっています。高円寺で進められている空き家再生の取り組みのキーワードは、地域にある「銭湯」です。

性別・年齢問わず集う銭湯は「地域の資源」

高円寺で昭和8年から営業する銭湯「小杉湯」。ここに注目して空き家再生に取り組んでいるのが建築家の加藤優一さんです。加藤さんは空き家再生などを手がける企業「銭湯ぐらし」の代表を務めています。

空き家再生に取り組む加藤さん

高円寺で開いた空き家活用の勉強会では、参加した空き家のオーナーから深刻な悩みが寄せられました。ある男性は「両親が残した4ブロックの長屋みたいな家があるが、人がいないと家がだめになってしまう」と言います。

加藤さんは年齢や性別を問わず人が集まれる場所を前面に出すことが、地域の魅力を伝えるいちばんの方法だと考えています。

空き家再生などを手がける企業の代表 加藤優一さん

「やっぱりその街に必ず地域のいい資源というのがあって、そこを起点にまちづくりをしていく手法が非常に可能性を感じている。今回それが銭湯だった」

元空き家の風呂なしアパート “入浴券付き”で人気物件に

高円寺の銭湯の隣には、加藤さんが企画したコワーキングスペースがあります。銭湯の入浴券10枚付きで月額利用料2万2000円としたところ、現在約70人の会員がいるといいます。

さらに、近くにある空き家だった風呂なしアパートを、入浴券付きの家賃5万~6万円程度で入居者を募集したところ、定員3人に対して50件近くの問い合わせが寄せられました。

入居する男性(28)は「いろいろと銭湯を巡り歩いたなかで、小杉湯がかなり“ベストオブ銭湯”に近い。(住むなら)ここしかないんじゃないか」と感じたそうです。

地域住民を交えて活用法を検討

加藤さんたちはいま、近隣にある空き家を訪れてオーナーに課題を聞き取っています。

ある2階建ての家では、男性オーナーが部屋に残る家具の処分が大変だとうったえました。一方で男性は「この家は母親が命がけで作っていたから、それを手放す、売ってしまえば簡単だがそういうわけにもいかない」とも語ります。

それに対し加藤さんたちは「絶対このまま使ったほうがいい」「(この家を)おもしろがれる人に住んでほしい」などと話していました。

課題を聞いたうえで、地域の住民たちと具体的な活用法を検討します。会合ではさまざまなアイデアが出されました。「銭湯が近いので銭湯付き住居かオフィス」、「シェアオフィスが上についていて会議もできて、もしかしたら同じ会社の人が住む可能性もある」などと活用の可能性を広げていました。

加藤さんは今後もオーナーたちと議論を重ね、銭湯を起点に空き家の解消を目指していこうと考えています。

加藤さん

「同じ悩みを共有して『街のために何かしたい』という人が出会う場があると、一気に活用が進む。使ってほしい空き家のオーナーと使いたい人が結びつく場を広げていきたい」

全国に広がる「地域の資源」生かす取り組み

銭湯を起点に人とのつながりを生もうという今回の取り組み。加藤さんはその起点を「地域の資源」と表現しています。街に残されたものを活用することが大事だということです。

加藤さんが関わるプロジェクトはほかにもあり、例えば山形県新庄市では空き家だった古民家を喫茶店兼イベントスペースに改装。佐賀市では廃校を合宿所に改装する取り組みを手がけています。

埋もれた場所を有効活用する方法を、地域の人たちを巻き込んで考えていきたいと話していました。

【2022年8月2日放送】

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