“クラフトサケ”にかける思い 日本酒業界に新たな風を

「クラフトビール」は聞いたことがあると思いますが、「クラフトサケ」は日本酒の製造工程を活用した新しいジャンルのお酒です。この酒に熱い思いを込める若手醸造家が、酒どころ・秋田にいます。

新ジャンル「クラフトサケ」とは?

6月、東京都内で各地の「クラフトサケ」を集めた試飲イベントが開かれました。クラフトサケはお米から日本酒を造る工程の途中で、お茶の葉や果物などの副原料を混ぜて発酵させることで造られるお酒で、醸造家たちが名付けました。

日本酒にはない味わいや香りがあるとして、いま注目されています。試飲してみると、ワインのようなフルーティーな味わいで、かつ深さもあります。

秋田の若手醸造家が生み出す新しい味わい

<「クラフトサケ」を製造している岡住修兵さん>

秋田県男鹿市でクラフトサケを製造している酒蔵「稲とアガベ」の岡住修兵さんは、大学卒業後の7年間、日本酒造りを学びました。

岡住さんの酒蔵では、ホップやアガベという植物から作られたシロップなどを副原料に新しい味わいの酒を造り出すことに成功しました。

ホップを加えて発酵させたところ、マスカットのような味わいになったといいます。

岡住修兵さん
「新たなフレーバーや新たな味わいを清酒の根底の技術に加えることによって、圧倒的に清酒よりうまいものをつくれる可能性はある」

新規参入が難しい日本酒業界

実はこのクラフトサケは、日本酒の製造に必要な専用の免許が事実上得られない中で、苦肉の策として生まれました。

日本酒の免許はこの70年間、1件も新たに交付されていません。国税庁酒税課によると、国内での日本酒の消費が落ち込む中で新規参入が増えると、需要と供給のバランスがとれなくなるからだそうです。

岡住さんも免許を取得できずにいる1人です。

クラフトサケは副原料を入れて発酵させることで、法律上は「日本酒」ではなく「その他の醸造酒」として扱われるため、日本酒の製造免許がなくても造れるということです。

クラフトサケの団体結成

岡住さんをはじめクラフトサケを造る全国6つの酒蔵は6月、団体を結成しました。新たにクラフトサケ造りに参入した酒蔵の支援や、普及のためのイベントを開催していくことになりました。

岡住さんは、クラフトサケの人気を足がかりに日本酒の市場のすそ野を広げて、日本酒造りに新規参入できる環境をつくっていきたいと考えています。

岡住さん
「ファンをつくることが、僕がもともとやりたい日本酒の盛り上げにつながると思っている。コツコツ人を動かして人を巻き込んで、必ず僕は日本酒が造れる世の中をつくれると思って頑張っている」

ビールは定義を拡大 日本酒はどうなる

日本酒の市場が広がれば、新規参入する人たちが免許を取れるようになるのでしょうか。ビールの場合2020年秋に定義が改正され、副原料に使える材料について果実やコリアンダーといった香料も使えるようになりました。

その結果、新たな製品開発の余地が広がり、さまざまなクラフトビールの製品が出てくるようになりました。

日本酒も、ヨーロッパなどでも人気が高まっていることから、クラフトサケを飲んだ人が日本酒に興味を持つようになって国内外の市場が大きく拡大すれば、いずれは新規参入が認められるようになるかもしれません。
(秋田局 記者 丹治亮介)
【2022年7月29日放送】

あわせて読みたい