【全文掲載】十倉会長 “脱炭素を成長の切り札に” 経団連が政府に求めることとは

日本が2050年までにカーボンニュートラル=温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする国際目標を掲げる中、経団連は政府に対して、脱炭素に向け何をすべきか提言をまとめました。その内容について、十倉会長に神子田キャスターが聞きました。

イノベーションで脱炭素実現を

神子田

まず、今回なぜこの提言を出したのでしょうか?政府が2050年までにカーボンニュートラルを実現すると打ち出した後、これまでどういう議論が経済界で行われ、提言がまとまったのでしょう?

経団連 十倉会長
提言を出した理由は3つあります。1つは時間がないこと。2つ目は経団連が掲げる「サステナブルな資本主義」と、政府が掲げる「新しい資本主義」の根幹のテーマは一緒だと思うこと。3つ目は、グリーントランスフォーメーションは日本の成長戦略にもなることです。

まず最初の「時間がない」ということ。東大の石井菜穂子先生あたりがおっしゃっているのですが、氷河期が終わってちょうど今1万2000年ぐらいですけど、この「完新世」というのは温度がプラスマイナス1℃でずっときた、地球上の生物が生きていくにはものすごく恵まれた時期なんです。農耕文明から始まり人類文明が花開いた時期です。20世紀の初めに10億人20億人だった人類は、21世紀になって100億人近くなり、しかも2100年には超えようとしています。この間に、放っておけば温度が1.5度どころか4.5度まで上がってしまう。

時間が無いというのは、今CO2濃度が400ppmを超えているのです。「ティッピング・ポイント」(気候変動が急激に進む転換点)を越えてしまうと後戻りできなくて、不可逆的に温暖化が進んでいく。それが450ppmと言われていて、すぐそこまで来ているんです。だからCOP21とか26で、もう待てない、急いでやろうと。そして1国だけではできない、国際協調でやろうと。「プラネタリーバウンダリー」(地球環境の限界点)という言葉がありますけれども、これ以上放っておくと地球の生態系が崩壊してしまう、もう待ったなしの時に来ているというのがいちばんで、われわれ日本経済界、企業活動をする者はやっぱり共有しようということです。

それから2点目は、サステナブルな資本主義と、岸田さんの掲げる新しい資本主義。資本主義は非常にいい制度ですが行き過ぎた面があり、それで解決できない問題を解決しようというのが、メインイシューです。それは何かというと、やっぱり格差。もう1つは生態系の崩壊で、その代表がこの地球温暖化問題、気候変動問題です。これを解決しようというのは、経団連の掲げるサステナブルな資本主義、政府の掲げる新しい資本主義の根幹のテーマです。

3点目は、岸田内閣でも成長と分配と言われていますが、格差を是正するために分配をしっかりやらないといけない。そしてやっぱり成長がないとということで、このグリーントランスフォーメーション、カーボンニュートラルに向けての取り組みは、日本の成長戦略の柱になる。今までいろいろ経済政策は行われたが、円高の時だったのでわれわれ企業は投資は海外に随分いってしまったんですね。このカーボンニュートラルというのは、国内でやらなきゃ意味はありませんから。国内投資を研究開発も含めてやらなければいけない。これは成長投資になるということなんです。

この3点から、これはわれわれが、いの一番に取り組まなければいけない問題だということで、就任以来それが第一にありました。そしてこの6か月ほどかけて侃々諤々の議論をしてきました。経済界、産業界といってもいろいろな業種があります。エネルギー産業もあれば、私の出身の化学や鉄みたいにエネルギーをたくさん使う素材産業もあれば、自動車、住宅などの産業もあるので、個々のイシューではいろいろ意見がありました。

しかし小異を捨てて大同につくというか、みんな結束しました。提言レポートに書いているのは、どうやってカーボンニュートラルを減らすか、その時の視点は、どんな政策がいるか、こういうものを全会一致でまとめました。僕が就任した時に、社会性の視座を持とうと、経済界、産業界も社会全体のことを考えなきゃいけないということを言ったんですが、もう今われわれの会員企業はみんなその意識ですから、小異を捨てて大同につくということで、このレポートが出来上がったということだと思います。

神子田

あまりに早くカーボンニュートラルを進めると、それだけ過剰なコストがかかって、企業としての国際競争力がどうなるのか心配もありますが。

十倉会長
早く進んで心配なぐらいやれば、むしろいいんですが。1国だけがやるのであれば、時間もかかりますし、コストが増えるかもしれません。

しかしカーボンニュートラルというのは、1国だけではやっても意味がないんですね。地球全体を救おうという話ですから。どんどん分断の世界に入っていってますけど、これ(カーボンニュートラル)は世界でなければいけない。だからみんなやろうということで、COP21、26をやっているわけで。そういう意味では、むしろ早くやって、ルール形成とか基準とかをリードしなければいけない。

われわれ日本の産業は、国内だけでやっているのではなくて、グローバルマーケットで競争しているんですね。そことの競争になりますから、われわれだけがカーボンニュートラルをやるんであれば、その分コストが増えるかもしれない。各国やるわけで。むしろ科学技術、イノベーションでいかにそれを早く、安くやるか、これにかかっていると思います。そしてそういう技術力、イノベーションを新興国にも展開して、共有して、地球全体でやる。それは国際協調外交にもなりますし、経済戦略、経済外交戦略にもなる。ですから、遅すぎることが心配で、そのためには民間だけの力ではだめなので、パブリックの力、政府の力もいるので、そういう提言を出したというところです。

必要な投資額 400兆円

神子田

提言では、カーボンニュートラルにかかる費用が400兆円という数字が出ています。これに関し政府にどういう役割を期待していますか。

十倉会長
400兆は年間にすると14.2から14.5兆ぐらいになりますが、政府も1年間で15兆、10年間で150兆といっていて、金額の規模感はだいたい一緒です。やっぱり基本は民間活力がいると思います。民間が投資をやって、イノベーションをおこしてやるのです。ただ非常に野心的な目標ですし、時間も限られ制約があります。

例えば、ものすごく社会的なイノベーションを起こすのはリスクがあって1社だけでは背負いきれません。例えば水素のインフラとか、アンモニアとか、国全体に整備をしなければいけない広大なインフラ。こういうものはやはりパブリックセクター、政府の出番で、政府が投資していただきたい。われわれは、年間17、15兆のうち、まあ2兆円ぐらいかなとと思っています。10%ちょっと超えるとこかなと。これはヨーロッパやアメリカのグリーンディールを見ても、大体そういうところなので、そうだと思うんですね。

政府がやる意味は、さっき言ったように基本は民間活力なのですが、政府がそれをやることで、必ずやるぞというコミットメントと、途中でカーボンニュートラルやめたということでなくて、やるぞということ。それと、われわれとしては予見可能性を得るわけですね。そしてリスクが減ると。だから政府に火付け役になってほしいということで、ぜひ政府支出をお願いしたいと提言しています。

年平均2兆円 政府支援と国際ルールづくりを

神子田

今は政府も財政が苦しいですが、財源はどういうふうにしたらいいですか。

十倉会長
財源は議論すればきりがないですし、時間もかかります。まず必要なのはGXボンド。グリーントランスフォーメーションボンド。グリーンボンドと言ったりします。これはカーボンニュートラルとかグリーントランスフォーメーションに使途を限定したもので、やりましょうよと。これは将来世代が享受するメリットですから、ボンドにしてもいいんじゃないかということで、それでやろうということを提言しています。

神子田

一方で企業が、カーボンニュートラルにかかるコストをどうファイナンスしていくかという話もあります。今ESG投資も拡大していますが、企業はどうやってお金を引っ張ってくるか。

十倉会長
政府にお願いする2兆円はさっき言ったGXボンドみたいなものだと思うんですが、われわれ民間企業も今ESG資金というかそういうものが世界でどんどん膨れて、現在35兆ドルを超えていると思います。4千2、3百兆円あると思います。これをぜひ持ってくる。

そのためには、やっぱり国際ルールとか基準とかを日本がリードしなければいけない。その一番の典型が「TCFD」。気候変動に関する情報公開ですね。世界もこのTCFDを中心にして、気候変動のリスクと企業のコミットメント、そういうものを全部情報開示し、金融機関が投資しやすいようにしようということになっています。今、TCFDに賛同しているのが3200、3300社、世界にあると思います。

日本は、数が820か830あり、世界で一番です。まあ日本は同調圧力みたいなものがありますから、流行みたいなものでやったんですが。ただこのTCFDは、これからどんどんそういうルール化、基準が厳しくなって、きちっとやっていかないといけないと思います。そういう時に日本は主導権が取れるように頑張っていくべきだと思います。世界はそういう方向に向いていますから、このESG投資の資金は集められると思います。

神子田
なるほど。今たくさん企業が加盟しているけれども、温暖化対策を確実に進め、言った約束は守るという姿勢が、これから企業に問われてくるのでしょうか?

十倉会長
そうですね。透明性を持って情報を開示し、リスクもやる。もちろん、グリーントランスフォーメーション、カーボンニュートラルは成長の一大チャンスでもありますから、そういう機会とリスクを両方ちゃんと開示して、投資家に説明するということだと思います。

神子田

成長は大きなキーワードだと思います。CO2の削減というと、何かこうやらされてるような感じがあるのですけれども、これを前向きに新しい産業にしていくという意味では、どういうふうに考えますか

十倉会長
これはもう世界中やらなきゃいけませんし、現に一番先行しているのはたぶんヨーロッパだと思います。アメリカもやっている、中国と韓国もやっています。世界で競争なんですね。このカーボンニュートラル、グリーントランスフォーメーションの投資というのは、コストではなくて、まさに投資です。いかにイノベーティブな技術で早く仕上げるかということが勝負だと思っています。そういうマーケットの中でわれわれは競争しているということです。もちろん研究開発から社会リスクまで投資がいりますけれども、単なるコスト増ではないと思います。競争力の源泉になると思います。

日本は科学技術立国だというのは岸田さんも言っていますが、日本はもともと省エネの技術がすごいし、今度は省エネを超えるようなイノベーティブな技術もいりますが、やっぱりエンジニアリングとか、僕の出身の化学の技術も強いです。ぜひそれを武器に、むしろいいチャンスが来たというぐらいの気構えでわれわれはいるんですけど。危機の機は、チャンスの機でもありますから。

脱炭素への移行期 雇用などに配慮を

神子田

そうすると、カーボンニュートラルのための投資をしていった先に、新しい産業とか新しい雇用が生まれると期待していいんでしょうか。

十倉会長
これは起こります。個々の産業、個々の業種にとっては死活問題になるので大変ですが、マクロ的に言えば、新しいクリーンなエネルギーを作ったり使ったりするところに産業がシフトしていくと思うんですね。

ですから労働の移動が起こらなきゃいけないし、起こるべきだと思います。よく言われるように、日本の労働市場はあまり流動化していないんです。日本の制度は今まで一括採用、終身雇用みたいなところで来ました。それではいけないと。折しも、岸田内閣は人への投資をいの一番に掲げて、成長と学びの好循環をやろうとしていますので、まさにそういう環境的な整備がいると思います。リカレント教育とか。

それから事業を立て直すには構造転換がいります。そういうところをサポートする、ないしは税制とか(のサポート)もあるかもしれません。そういう環境制度は、ぜひ政府にやってほしい。労働移動は伸びる産業にいくと思います。これは会社が退化したということだけではないです。会社の中だって移動が起こります。例えば、エネルギー産業でもずっと石油精製をやっているところで太陽エネルギーをやろう、風力発電をやろう、総合エネルギー産業として生き残ろうという動きがもう起こっているわけです。

やっぱり人々の学びを支援するような制度をぜひ政府にはお願いしたい。そういうことで日本の産業競争力は強化されるし、ダイナミズムを取り戻すと思っています。ただ、今グリーントランスフォーメーションをやろうと思えば、ゼロエミッション電源をつくるとか、ゼロエミッション熱源をつくるとかいう話ではなくて、産業構造の転換が起こるし、経済戦略外交の話にもなるし、いろんな問題が起こるんですね。カーボンプライシングもありますし、グリーンディールの問題もあるし。

ですからわれわれが提言をまとめたのは、単に再生エネルギーをどうする、原発をどうするということじゃなくて、総合的なパッケージでやらなきゃいけない。ばらばらじゃなくて統合的にやらなきゃいけない。ぜひ政府でカーボンやグリーントランスフォーメーション実現会議みたいな組織を作ってもらって、司令塔になって方向性を示して、ロードマップを書いて引っ張っていく。時間との勝負ですから、そういうことをお願いしたいということで提言をまとめました。

神子田

だんだん明るい未来が私の頭の中ではイメージができました。一方で例えば自動車もエンジンからモーターにいく時に、部品メーカーや下請けメーカーなどで、世の中の変化についていけるだろうか、仕事はなくならないか、不安を感じる人もいると思います。どうすくい取っていったらいいですか。

十倉会長
非常によいご指摘です。われわれは、カーボンニュートラルに4つの視点がいると提言しています。

1つはイノベーションを起こさなきゃいけないということ。そのための投資をやらなきゃいけないということです。

もう1つはトランジションです。このトランジションということをしっかり考えなければいけない。石炭をやめていきなり再生エネルギーで、一気にカーボンニュートラルにいくというのではなくて、イノベーションの技術というのは時間がかかります。開発で10年、社会実装まで入れると20年近くかかるかもしれないんです。その間どうやってしのぐか。それは、ベストアベイラブルテクノロジー、これは原子力も入るでしょう。そしてやはりCO2が石炭の半分のLNGをやると。

今、ロシアのウクライナへの侵略でLNGはこれから取り合いになるかもしれません。その手当てをしっかりしなければいけないということもあります。トランジションをどう考えるかは非常に重要なポイントです。そのためにやっぱり外交の力もいるでしょう、そういうことを考えてやらなければいけない。

ただゆくゆくはやはりカーボンニュートラルの世界に行かないといけない。日本だけが鎖国して、日本国内だけのマーケットで、日本だけ相手にやる、日本が国際的に主要な地位を占めなくてもいいのであればやっていける手はあるかもしれませんけどね。それは現実的な解ではないと思います。

神子田

ウクライナ情勢を巡り、原油まで制裁措置の対象になりました。天然ガスが無ければ日本は停電になって本当に困ります。当座の化石燃料が重要な一方、化石燃料に頼らないエネルギーを目指す兼ね合いが難しい。どう進めていったらいいでしょうか?

十倉会長
ロシアのウクライナ侵略でわれわれが気づいたことは、「安全保障」という言葉です。それは国の安全保障という問題もあるし、エネルギーの安全保障、もう1つは食料です。エネルギーの安全保障では、再生エネルギー、それから原子力。これは国産ですから、自給力を高めていかなきゃいけないんですが。一挙にはできませんから。今は石油とか中東にかなり頼ってますけど。LNGはどうするかとかいうこともあります。

クリーン燃料の水素やアンモニアもどうやって調達するか。日本で太陽光発電で作った電気で電気分解してそれを作ったら、ものすごい高いコストになる。安くするのに時間がかかるんですね。「ブルー水素」、「ブルーアンモニア」、これも海外から持ってこなきゃいけない。中東とかアメリカとかオーストラリアとか。エネルギーの安全保障、安定調達というのは非常にキーになっていくんですね。

経団連は昔から、エネルギーを考えるときのキーワードは「S+3E」です。Sは「セーフティー」、Eは「エコノミー」、「エコロジー」、「エネルギーセキュリティー」のEです。やっぱり基本はそこに戻るんだと思います。そうやっても、最後にまだ化石燃料は残ると思います。それをどうするかと言ったら、やっぱりカーボンネガティブなんですね。それこそ科学の力で逆にカーボンネガティブにする。それで相殺してカーボンニュートラルにする。カーボンニュートラルはよくできた言葉で、「炭素平衡」「炭素中立」です。プラスマイナスある程度ゼロにする。もっと緑を増やすとか、空気中の二酸化炭素をダイレクト吸収して地中に埋めるとかそういう技術を開発して、排出量をチャラにするというかゼロにする。エネルギーの問題は「S+3E」を基軸にしながら、トランジションのことも考えながらやっていかなければいけない。より難しい課題だと思います。

脱炭素 採算に乗せるためには

神子田

十倉会長は、素材産業、化学メーカーの出身です。CO2削減は技術的にクリアできる青写真があっても実用化にはハードルがあるし、技術ができても採算に乗せなければなりません。そういう難しさをどう乗り切っていこうと考えますか。

十倉会長
これも1つのトランジションです。苦しい時はCO2を減らす意味でもベストアベイラブルテクノロジー。コスト競争力というのも組み合わせなければいけない。

これから議論になるだろう原子力も非常に重要なテーマになると思います。日本では第6次エネルギー基本計画、これは2030年に温室効果ガス排出量を46%下げるベースになるエネルギーミックスですけど、その時は再生エネルギーを36から38%。原子力を20から22%ですね。原子力で20%をやろう思ったら、27基の原子力発電がいるんです、30年までに。

今許可されたのは10基で、しかも動いてるのは4基です。ですからいかにこれでもハードルがあるか。たださっき言ったエネルギー問題、安く安定的にエネルギーセキュリティー上の問題も考えながらやってたら、やっぱり再生エネルギーと原子力をやっていくしかないと思う。日本の置かれている位置をまず基本的によく理解するところから始めるべきです。

日本は島国ですから、ヨーロッパのように電力のグリッドもありません。ドイツが困ったらフランスから原子力、きれいなクリーンエネルギーをもらうっていうのがいかないんですね。太陽光発電も、国土面積当たりでは1位が日本です。どうやってこれから増やしていくか。マンションの壁や窓に貼ってやるとか、そういうのも大事ですけど。どうやって再生エネルギーを増やしていくか、いろいろやらなければいけないと思うんです。まずはわれわれは、自分たちが置かれている立ち位置をよく理解しなきゃいけない。

一時的にはそのコスト負担が企業も消費者もあるかもしれないけれど、国際的に日本がある地位を占めて、本当に世界と一緒にカーボンニュートラルを実現するのであれば、耐えなければいけない時期があると思うんですね。そういう時には不都合な真実も含めてよく理解して、そのうえでどうやっていこうかと。トランジションもよく考えながらいかなきゃいけない。ある時期には負担も増えるかもしれませんが、ゆくゆくは下がるよと。それを国際競争力の中でやっていく必要があるんですね。

質問に戻れば、日本はもう科学技術力でやっていくしかないです。外交力ももちろんですけど。科学技術でやらなきゃいけない。僕はよく言うのですが、原子力発電の次は核融合、これはバックエンド、核のゴミをそんなに気にしなくていい。核エネルギーが使えるんです。これなんか昔はもう日本の技術が占めていたんですね。だから日本はそういうエンジニアリングの技術というのは強いんです。

それから手前みそですがケミストリー・化学の力もドイツと並んで強いです。そういう広い意味での科学技術の力でこれをやっていくしかない。

日本の科学技術力が落ちているんじゃないかと悲観的に言う人もいるのですが、かつての日本をいろいろ思い出してもらったら、日本がすごい技術力を持った時代があり、日本はチャンスさえあればちゃんとそれをものにする力は十分今でも持っています。ただ時間との競争なので負けないようにやることだと思います。

神子田

日本は原発事故を経験し、カーボンニュートラルに向けても原発は除いて考えるという人も多いです。そこは全くのゼロベースで考えていくということですか。

十倉会長
僕はやっぱり将来は核融合を、これを言うと怒られるんですけど、地に太陽をつくる、核融合のところまでいかないと、人類は2050年にカーボンニュートラルを達成してもすぐできなくなってしまうから。将来、孫や子どものことを考えると、そこまで行くべきだと思います。

やはりどうしても再生エネルギーは天候に左右されてしまうんですね。晴耕雨読になるのか、雨読の逆になるか。晴れている時は電気使ってやるけど、雨が降ったらもうお布団入って寝ちゃいますと。そういう世界にはできないですよね。ですからそういう変動電源を補うベースロードになる電源。原子力発電なんかがそうです。その組み合わせでやらなければいけないですね。それでも再生エネルギーはもう目いっぱい増やさなきゃいけませんけれども。それだけでは、それ100%でいけるなんてことは、まずありえないんで。

そういうことも含めて、科学的で論理的で、定量的な議論をやらなければいけない。安全と安心は別なのでそれはまたしっかりそこでやらなければいけないんですが。経団連はそれに基づいていろんな情報発信、意見、提言を政府とか出して、国民の議論を喚起していかなければいけないと思います。いろいろな取り組み、例えばわれわれはカーボンニュートラル行動計画、これを自主計画でやってますし、ゼロエミッションも計画もやっています。そういう主体的なことも通じてカーボンニュートラルに挑戦していきたいと思います。ただ、これは一時期コスト負担になる時期もあると思います。それと非常にエネルギーミックスで苦しむ時期もあると思います。

日本の行動様式、労働移動の問題、産業転換の問題。それから苦しい日本の財政状態、これをどう乗り切るか。いろんな問題がすべて解決しなければいけないです。本当に政府の出番で、グリーントランスフォーメーション実現会議、新しい資本主義実現計画まできているんですけど。実現会議を開いて、首相が座長になっていただいて全国の英知を集めて、ロードマップを示して、方向性を示してやっていくということだと思います。ただ時間がないと思います。“緑の船”がそこまで来ています。日本人の底力というか、反発力をぜひ期待したいと思います。

【2022年5月27日放送】

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