中国 過熱するメタバース

「メタバース」とはインターネット上の“仮想空間”のこと。「アバター」と呼ばれる“自分の分身”のようなものを操り、離れた場所にいる人と交流することもできます。中国ではこのメタバースをめぐるビジネスが急速に拡大する一方、当局が警戒感も強めています。

“宇宙の家”で暮らす男性

中国・上海に住む胡乾豪さん(28)。装着したゴーグルに映るのは、メタバースの世界の中にある胡さんの家です。宇宙に浮かんでいる設定で、内装を自分好みにしています。

胡さんが手を動かすと、仮想空間の中で胡さんのアバターも同じ動きをします。ほかの人のアバターと握手することもできます。

胡さんはほぼ毎日、仮想空間を訪れているといいます。

胡乾豪さん

「メタバースはユーザーに、豊富で多彩な新たな世界を提供してくれると思う」 

企業が続々参入 市場規模は11兆円超とも

こうしたメタバースのニーズを取り込もうと、企業も次々と参入しています。

北京にある従業員500人のゲーム会社「MetaApp」は、エンジニアの多くをメタバースで遊べるゲームの開発にあてています。

ゲーム会社 胡森CEO

「中国国内でトップの地位を保ちつつ、今後は海外市場にも出て私たちの技術などを提供していきたい」

ネット検索最大手「バイドゥ」は2021年12月、自社で開発したメタバースのサービスを公開。同時に10万人が参加できることをアピールしました。

大手IT企業の「アリババグループ」や「テンセント」なども事業に乗り出していて、メタバース関連の商標登録の申請はすでに1万件に達すると伝えられています。

中国のメタバース市場は、2025年には日本円で11兆円を超えるという予測もあります。

メタバース物件に「投機的価格」と警鐘

ただ、こうしたメタバースの過熱ぶりに当局は警戒感を強めています。

中国共産党機関紙の「人民日報」は21年12月「仮想空間の不動産に投機的な価格がつけられている」と警鐘を鳴らしました。

仮想空間であっても不動産の取り引きがあります。例えば、仮想空間上の海に面した別荘は日本円で約12万円。実物に比べれば安いものの、現実には存在しない物件にもかかわらずこの価格がついています。中には約100万円で売りに出される物件もあるといいます。

中国当局の規制が今後を左右か

専門家は、各企業はネットの規制に力を入れてきた当局の動きをにらみながら事業の拡大を模索していくことになると指摘しています。

野村総合研究所 上級コンサルタント 李智慧さん

「状況によって(行われる)中国政府の規制が、この産業の今後の発展を大きく左右する」

メタバースでは国境を越えてさまざまな国の人と自由に交流できるということで、中国政府はイノベーションを促しつつも、欧米の価値観の浸透などに目を光らせ、規制・管理するのではとみられます。

(上海支局長 柳原章人)

【2022年1月27日放送】