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中国「三中全会」始まる 習近平指導部 政策方向性どう示せるか

中国共産党の長期的な経済政策などの方針を決める重要会議「三中全会」が15日から始まりました。不動産不況などを背景に景気の先行きに不透明感が広がる中、習近平指導部として今後の政策の方向性をどのように示すのかが焦点です。

景気の先行き 不透明感が広がる中で開催

「三中全会」は、5年に1度の党大会で選出されたメンバーによる中国共産党の最高指導機関「中央委員会」が開く3回目の全体会議で、長期的な経済政策の方針などを決定します。

今回の会議は、「改革の全面的な深化」と、独自の発展モデルを意味する「中国式現代化の推進」を主なテーマとしています。

会議は、厳重な警備態勢が敷かれる中、15日から首都 北京で始まりました。

中国では、不動産不況の長期化や内需の停滞などで景気の先行きに不透明感が広がっています。

こうした中、不動産不況に伴う金融面でのリスクや地方財政の悪化、不動産に代わる新たな産業の育成などについて、習近平指導部として、政策の方向性をどのように示すのかが焦点です。

このほか会議では、党の幹部人事が行われるかも注目されていて、香港メディアは、去年の夏以降相次いで失脚した秦剛前外相や李尚福前国防相らが、党の「中央委員」を解任される可能性があると伝えています。

会議は15日から18日まで非公開で行われ、最終日にはコミュニケが発表される予定になっています。

「三中全会」とは

「三中全会」は、5年に1度の党大会で選出されたメンバーによる中国共産党の最高指導機関「中央委員会」が、3回目に開く全体会議です。

慣例では、秋に開かれる党大会の直後に1回目の全体会議「一中全会」を開いて総書記など最高指導部を選出し、翌年の春に開く「二中全会」で新指導部のもとでの政府の主要人事を話し合います。

そして「三中全会」は党大会のおよそ1年後に開かれるのが慣例となっていて、新指導部の中長期的な経済政策運営の方針を決定します。

今回の「三中全会」は慣例に従って去年秋に開催されるとみられていましたが、開催の遅れが指摘されていました。

不動産不況の対策などの策定に時間がかかったのではないかという見方が出ています。

過去の「三中全会」では、1978年に改革・開放政策へと大きくかじが切られたほか、1993年には社会主義市場経済体制の確立を打ち出すなど、重大な決定が行われています。

不動産不況や厳しい雇用情勢、それに内需の停滞など、中国経済の課題が山積する中、今回の会議でどういった内容が打ち出されるのか注目されます。

会場とみられるホテルなど 厳重な警備態勢

北京では、「三中全会」の会場とみられるホテルの周辺を中心に大勢の警察官が配置されるなど、厳重な警備態勢が敷かれています。

天安門広場に通じる大通りには複数のチェックポイントが設けられ、警察官が道行く人たちに本人確認のための証明書を提示するよう求めていました。

また、主要な交差点では至る所に警察車両が配置され、軍の指揮下にある武装警察が警戒にあたるなど、ものものしい雰囲気となっています。

今回の議題と経済の注目点

今回の「三中全会」では、「改革の全面的な深化」と、独自の発展モデルを意味する「中国式現代化の推進」が議題となっています。

不動産不況などを背景に景気の先行きに不透明感が広がる中、安定的な成長を実現するための政策について話し合われる見通しです。

このうち、不動産不況やそれに伴う地方財政の悪化をめぐっては、ことし3月の全人代=全国人民代表大会の「政府活動報告」でリスクとして明示した上で、その解消に全力を挙げる姿勢を示していて、市場の健全化に向けてどこまで踏み込んだ姿勢を示すかが注目されています。

産業面では、これまで中国経済を支えてきた不動産に代わる新たな産業を技術革新などを通じてどのように育成していくかや、国有企業が優遇されているという指摘も出る中、民間企業の重視や外国企業への開放の姿勢をどこまで打ち出すかが焦点となります。

また、地方政府の間で広がる保護主義的な動きが、過剰生産の問題につながっているという指摘も出る中、全国統一市場の構築についてどう言及するかも注目点となっています。

さらに、経済政策の進め方をめぐって党の指導の強化や統制の強化をどこまで打ち出すかも焦点となります。

経済政策に期待すること 北京では

北京で経済政策に期待することについて話を聞きました。

50代の女性は「50を過ぎるとAIや若者との競争に直面することになり、国からも企業からも必要とされなくなります。私たちは上に介護が必要な親がいて、下に大学生の子どもがいるという、経済的プレッシャーが大きい世代なので、よい雇用の機会が増えることを期待しています」と話していました。

60代の男性は「経済が継続的に成長していくためのよい推進力が見当たりません。例えば新エネルギーといった従来の分野は、もはやあまり効果的ではありません。三中全会で新しい政策が発表され、経済発展に刺激がもたらされることを期待しています」と話していました。

大学に通う18歳の男子学生は「就職のことを心配しています。今や大学を出ても簡単に仕事に就ける人は少ないので、この状況を少しでも改善してほしいです」と話していました。

一方で「生活は比較的安定していて仕事も順調だ」として、現状に満足しているとする声も聞かれました。

インフラ投資にも課題が浮かび上がる

不動産不況の長期化で、中国の経済成長を支えてきたインフラ投資にも課題が浮かび上がっています。

中国政府は国有企業や地方政府と連携して、広大な国土に高速鉄道網を張り巡らせ、沿線の開発などで各地の経済成長を促してきました。

高速鉄道は去年だけで2700キロ余りの区間が開通し、総延長は去年末の時点で4万5000キロに達しています。

その一方で、採算の合わない投資も目立っています。

中国メディアによりますと、全国の高速鉄道の駅のうち、利用者数の低迷などで閉鎖されるなどした駅が少なくとも26か所にのぼっています。

このうち、遼寧省大連にある広寧寺駅は2015年に開業しましたが、利用客がほとんどおらず、4年後の2019年に閉鎖されました。

駅の周辺には地元名産のさくらんぼ畑が広がり、駅に通じる道路や連結する公共交通機関などは全く整備されていません。

当初は、駅前に物流拠点などを設けるとして、開発に向けて住民の立ち退きも行われたということですが、開発は今も手つかずのままとなっています。

駅の近くに住む男性は「高速鉄道の駅がなくなって、この村には人がほとんどいなくなり、人の流れが少なくなってしまった」と話していました。

駅の建設費用は明らかになっていませんが、中国メディアは、高速鉄道の駅の建設は中央と地方の政府が巨額の資金を投じていると伝えています。

地方財政の悪化が深刻になる中、採算度外視のインフラ投資で不動産開発を推し進め、経済の成長を押し上げる手法やモデルは限界を迎えています。

中国政府は2035年までに高速鉄道の総延長を7万キロまでのばすという目標を掲げています。

ただ、主要都市を結ぶ路線はほぼ開通し、今後は比較的規模の小さい都市間の路線となることから、これまで以上に投資の妥当性が問われることになります。

新たな産業育成へ 期待は「低空経済」

中国では不動産に代わって経済成長をけん引する新たな産業の育成が急務になっています。

こうした中、今注目されているのが、「低空経済」と呼ばれる高度1000メートル以下の空域でドローンやいわゆる「空飛ぶ車」などを活用する、新たな産業です。

中国民用航空局によりますと、市場規模は2025年までに1兆5000億人民元、日本円でおよそ33兆円、2035年にはおよそ77兆円に達する見込みで、ことし3月の全人代=全国人民代表大会の「政府活動報告」の中で、新たな成長エンジンの1つとして盛り込まれました。

このうち、ハイテク産業が集積する広東省の深※センでは、ドローンを使ったフードデリバリーが行われています。

市内に10か所以上ある配送拠点で、利用者がスマートフォンを使って注文すると、食べ物や飲み物をドローンが配達してくれる仕組みです。

注文から15分から20分程度で配達が完了し、注文した電話番号の下4桁を入力すると、配達ボックスから商品を受け取ることができます。

深※センではことし5月下旬、国際ドローン展が開かれました。

4000機を超えるドローンが展示され、出展した企業が宅配便の配送や測量、災害時の活用や空飛ぶタクシーなど、「低空経済」に関連する新たなビジネスをアピールしていました。

出展したドローン専門の保険を扱う企業は「産業がまだ十分に成熟していない今の段階で企業の問題やリスクを解決するため、支援したい。これから業界が進歩し、成熟していくのに伴って、私たちも成長することを期待している」と話していました。

※「セン」は、「土」へんに「川」

「低空経済」 農業分野で市場が急拡大

「低空経済」のうち、市場が急拡大しているのが農業分野です。

中国内陸部の雲南省の玉渓にあるみかん農家の畑では、農薬の散布などにドローンを活用しています。

かつては人力で作業していましたが、急しゅんな地形で足場が悪く、雨の日は作業ができないため、効率が悪かったといいます。

しかし、ドローンの活用によって人手もかからず、短時間で効率的に農薬を散布できるようになったということです。

みかん農家の顧天保さんは「以前は十数人で4、5日かかったが、ドローンなら半日で終わる。農薬と時間、労力を節約でき、とてもありがたい」と、話していました。

人手不足解消や農村の活性化にもつながることが期待されていて、ドローンメーカーのエンジニアの李偉さんは「農業用ドローンが農家に受け入れられ、利用されれば、農業にテクノロジーの翼を授けることができる」と、話していました。

中国南部の広東省恵州にある水田でも、ドローンで種もみをまいたり、農薬を散布したりして、農作業の省力化につなげています。

リモコンで飛行エリアやルート、高度やスピードを入力するだけで、ドローンが自動で飛行し、農薬散布を行っていました。

この地域で農業用ドローンを販売する王超さんは、「安全の観点でも、かつては農薬の噴霧器を背負わなければならず、多くの農薬にさらされる危険性があったが、今はドローンが飛んでいるのを見ているだけで、状況が改善されている」と話していました。

中国のドローンメーカー最大手のDJIによりますと、中国で農業用ドローンを導入している農家は、全体のおよそ3分の1にのぼるということです。

メーカーの企業戦略責任者の張暁楠さんは「政府の政策によって、さまざまな産業が、生産工程でドローンを使うかどうか、どのような問題を解決できるかを検討するようになる。業界発展のための新しい政策がチャンスをもたらすと考えている」と話していました。

【専門家に聞く】「三中全会」で注目する点は

15日に発表された中国のことし4月から6月までのGDP=国内総生産の内容や、15日に開会した中国共産党の長期的な経済政策などの方針を決める重要会議「三中全会」の注目点について、大和総研 経済調査部の齋藤尚登部長に聞きました。

Q. GDPの内容をどう評価する?
A. 市場予想の平均を見ると5%、あるいはもう少し上というところが多かったので、予想よりは悪かったという受け止めだと思う。
特に消費に注目していたが、小売業の売上高は、ことし1月から3月が前年同期比で4.7%のプラスで、4月から6月は2.6%のプラスと、2ポイントほど落ちていて、非常に低い数字だった。
ここが一番の押し下げ要因になったのではないかと見ている。

Q. 不動産不況についてはどう見ている?
A. ことし5月17日に中国メディアが「前例のない総合的なパッケージ」と呼ぶ対策が出て、住宅市場のてこ入れということだったが、少なくとも6月の数字を見るかぎり、その効果はほぼ感じられない。
非常に悪い状態が続いていると見ている。
特に中古の住宅価格は全国平均で7.9%のマイナスで、住宅価格の下落に歯止めがかかっていない。
こういう状況だと、住みたいという人も様子見をしてしまう。
「もっと下がるかもしれない」「下がってから買いたい」ということで、今のところ住宅市場が回復する兆しは見いだせていないという状況だ。

Q. 景気の先行きをどう見る?
A. いま、中国は製造業の設備投資を増やせという政策をとっていて、ここは若干の効果が出てきている。
ただ、いま中国経済は供給過剰、需要が足りないということで、さらに生産能力を拡張してしまうと、いずれまた過剰生産能力の問題がクローズアップされることになる。
ことしの成長率目標が5%ということなので、根本的、あるいは構造的な問題を解決するというよりは、対症療法的な政策を導入して何とか5%成長にもっていくと思う。

Q. 15日に始まった「三中全会」は、過去には改革・開放政策に大きくかじを切ったことがある。今回の会議では経済政策においてどんな成果が期待される?
A. 「改革」というと、「経済改革」を思い起こしてしまうが、習近平指導部は3期目になってから、「改革」が、社会主義制度の改善とか、ガバナンスの強化や統治の強化に偏っている気がする。
われわれが期待するような経済改革を正面から打ち出すかどうかは、疑問符がつくと思う。

Q. 不動産不況への対応は?
A. もっとも大事な点は、民営のデベロッパーをどう救っていくかということになる。
もう少し広く見ていくと、中国では「国進民退」という、政策の効果が国有企業ばかりに偏って、民間企業がかやの外に置かれる、あるいはマイナスの影響が出るという状態がある。
その一方で、GDPの6割が民間企業、雇用の8割が民間企業ということを考えると、民間企業をどう元気にしていくのか、ここに具体的な政策が出るかどうかがポイントになる。

Q. 不動産に代わる新たな産業の育成も会議の焦点だが、どういった点に注目している?
A. 新しい力というのはほぼ民間企業から生まれる。
中国は、アリババやテンセントが発展してきた時に規制を強化し、その力を抑制してしまったという苦い経験がある。
せっかく生まれた芽が大きくなった時に、こういうことが繰り返されると、中国でイノベーションが起きづらくなる。
せっかく出てきた芽を大きく育てるためにも、民間企業をどうやって育成するのか、どうやって盛り上げていくのか、そこに重心を置くべきだ。
07/15 19:09
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