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防衛白書 日本として防衛力の強化を進めていく必要性を強調

ことしの防衛白書は、中国が軍事活動を活発化させ、台湾との間で軍事的緊張が高まる可能性も否定できないとしているほか、北朝鮮は質的な意味での核・ミサイル能力の向上に注力しているとしたうえで、日本として防衛力の強化を進めていく必要性を強調しています。

防衛白書は、12日の閣議で報告されました。

この中で中国については、日本列島から沖縄、そしてフィリピンを結ぶいわゆる「第一列島線」を越えて、伊豆諸島から小笠原諸島、グアムなどを結ぶ「第二列島線」まで活動を活発化させ、ロシアとの連携強化の動きを一層強めているとしています。

また、台湾周辺での軍事活動を活発化させ、中国軍が常態的に活動している既成事実化を図るとともに、実戦能力の向上を企図しているとみられ、台湾との間で軍事的緊張が高まる可能性も否定できないとしています。

一方、北朝鮮については、固体燃料式のICBM=大陸間弾道ミサイル級の発射や、衛星打ち上げを目的とする弾道ミサイル技術を使用した発射などを実施し、装備体系の多様化や情報収集といった質的な意味での核・ミサイル能力の向上に注力しているとしています。

そして、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境の中、日本として防衛力の抜本的な強化を進めていく必要があるとして、相手のミサイル発射基地などを攻撃できる「反撃能力」に活用する国産のミサイルやアメリカの巡航ミサイル「トマホーク」を、2025年度から配備していくとしています。

中国・北朝鮮・ロシア・韓国の動向については

▽中国については、沖縄県の尖閣諸島周辺を含む日本の周辺海空域における活動を拡大・活発化させており、行動を一方的にエスカレートさせる事案もみられるなど、強く懸念される状況になっているとしています。

そして、日本と国際社会の深刻な懸念事項であり、日本の平和と安全や、法の支配に基づく国際秩序を強化するうえで、これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、同盟国・同志国などとの協力・連携により対応すべきものとしています。

また台湾をめぐっては、周辺での軍事活動を活発化させており、一連の活動を通じ、中国軍が常態的に活動している状況の既成事実化を図るとともに、実戦能力の向上を企図しているとみられ、いっそう緊張感を持って注視していく必要があるとしています。

▽北朝鮮については、わが国の安全保障にとって従前よりもいっそう重大かつ差し迫った脅威となっており、地域と国際社会の平和と安全を著しく損なうものだとしています。

また、大量破壊兵器などの不拡散の観点からも、国際社会全体にとって深刻な課題となっているとしています。

ロシアとの関係をめぐっては、アメリカや韓国と協力して情報収集・分析を進めた結果、北朝鮮からロシアへの軍事装備品や弾薬の供与が行われたと信じるに足る情報が確認されているとしています。

▽ロシアについては、ウクライナ侵攻を容認すれば、アジアを含む他の地域においても力による一方的な現状変更が認められるとの誤った含意を与えかねず、日本を含む国際社会として決して許すべきでないとしたうえで、今後の展開については予断を許さない状況にあるが、日本としては重大な懸念を持って関連動向を注視していく必要があるとしています。

また、中国との関係については、依然として緊密な軍事協力を進めているとし、日本海などでの両国によるたび重なる爆撃機の共同飛行や艦艇の共同航行は、日本に対する示威活動を明確に意図したものであり、安全保障上、重大な懸念だとしています。

▽韓国については、6月に行われた防衛相会談で、自衛隊機へのレーダー照射問題をめぐり再発防止および部隊の安全確保が図られたと判断しており、さまざまな分野で協力・交流を推進しつつ、日韓・日米韓の安全保障協力を強化していくとしています。

一方、島根県の竹島については、わが国固有の領土であり、領土問題が依然として未解決のまま存在しているとしています。

“政府一体となった取り組みを強化”

ことしの白書では、防衛省以外の省庁が中心となっている取り組みを紹介する項目を初めて設けました。

この中では、政府一体となった取り組みを強化していくため、政府内の縦割りを打破していくことが不可欠だとしています。

そしてその一環として、防衛力の抜本的強化を補完し、不可分一体のものとして、総合的な防衛体制の強化を進めており、
1「研究開発」
2「公共インフラ整備」
3「サイバー安全保障」
4「わが国と同志国の抑止力の向上などのための国際協力」
の4つの分野での取り組みを関係省庁で推進しているとしています。

▽このうち「研究開発」では、関係省庁の民生利用目的の研究の中で、総合的な防衛体制の強化に資するものとして推進していくものを整理した重要技術課題を踏まえ、2024年度に実施するマッチング事業が認定されたとし、防衛省の研究開発に結びつく可能性が高いものを効率的に発掘・育成していくとしています。

▽「公共インフラ整備」は、自衛隊や海上保安庁が平素において必要な空港や港湾を円滑に利用できるよう、関係省庁とインフラ管理者の間で「円滑な利用に関する枠組み」を設け、その枠組みが設けられた空港・港湾を「特定利用空港・港湾」としているとしています。

それらについては民生利用を主としつつ、必要な整備や既存事業の促進を図るとしています。

▽「サイバー安全保障」は、複数の幹部職員の新たな配置と指揮命令系統の強化によって内閣サイバーセキュリティセンターの抜本的強化を図ることや能動的サイバー防御の実施に関する事業について、関連する法整備の検討状況を踏まえつつ、実施すべき事業の精査を行うとしています。

▽「わが国と同志国の抑止力の向上などのための国際協力」は、政府開発援助とは別に、外務省が、新たな無償による資金協力の枠組みである政府安全保障能力強化支援(OSA)を創設し、フィリピン・バングラデシュ・マレーシア・フィジーの4か国の軍に対し、警戒監視能力の向上などに資する機材を供与することを決定したとしています。

“自衛隊のなり手不足が深刻” 人的基盤を強化へ

自衛隊のなり手不足が深刻な状況となっていることから、ことしの白書では、人的基盤を強化するための取り組みを紹介するページを増やしています。

巻頭では特集コーナーを設け、防衛省・自衛隊が各種任務を適切に遂行し、わが国の防衛力を持続的に発揮するためには、優秀な人材を安定的に確保しなければならないとし、処遇の向上や生活・勤務環境の改善を含めた勤務の魅力向上に取り組むことで人材を確保し、人的基盤の強化を進めていくとしています。

具体的な施策の例として、護衛艦や潜水艦などの乗組員の手当の引き上げのほか、隊舎や庁舎の建て替え・改修を進めていることや、艦艇でも隊員個人の携帯電話が利用できるよう通信環境の整備に取り組んでいることなどを写真付きで紹介しています。

このほかハラスメント防止対策として、組織風土の改革や教育の見直しにより、ハラスメントを一切許容しない環境を構築するとしています。

中国「強く不満 断固として反対」

日本政府がことしの防衛白書で中国が軍事活動を活発化させ、台湾との間で軍事的緊張が高まる可能性も否定できないとしていることについて、中国外務省の林剣報道官は12日の記者会見で「乱暴に中国の内政に干渉し、いわゆる『中国の脅威』を騒ぎ立て、地域情勢の緊張を誇張している。中国は強く不満であり、断固として反対する」と強調しました。

そのうえで「日本が歴史上の罪と責任を深く反省するとともに、平和的な発展の道を堅持し、みずからの軍備拡張の言い訳を探すことをやめるよう求める」と述べ、日本をけん制しました。
07/12 18:53
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