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笑い飯 哲夫さん「子どもが賢くなるのが儲け」塾経営のわけは

人気お笑いコンビ「笑い飯」の哲夫さん。

漫才師としてお笑いの第一線で活躍を続けるかたわら、実は10年前から子ども向けの「学習塾」を“密かに”経営してきました。

ただ、「ええことしている感が出たらやばい」と、最近まで公にしてきませんでした。

哲夫さんはなぜ塾を経営しているのか?
教育にかける思いを聞きました。

(大阪放送局 ディレクター 鍋田勇輔)

M-1の優勝賞金 元手に“塾”開校

「笑い飯」は2010年の「M‐1グランプリ」のチャンピオン。

哲夫さんと相方の西田幸治さんが交互に連続してボケあう「Wボケ」というスタイルが人気で、「奈良県立歴史民俗博物館」や「鳥人」という独創的なネタは、お笑いファンの間で今でも語り草となっています。

そんな哲夫さんが2014年から経営する大阪・淀川区の学習塾を訪ねました。

開校資金には「M-1」の優勝賞金を充てたといいます。

塾を始めるきっかけには、ちょっとした“気付き”がありました。

哲夫さん
「(事務所の)社員さんとしゃべってて、その方のお子さんが行っている塾が『6万円かかんねん』っていう話をしはって、『めっちゃ今、塾高いねんな』と思ったんですよ。自分が学生時代、塾に行ったときはそんな高くなかったし、6万円もしたら相当、お金持ちの子しか習いに行かれへんのかなと思って。ちょうどそんな時に、塾講師やっていた友だちが『仕事なんか紹介してや〜』って言ってきたんで、『ちょっと激安塾やらへん?』って、最初はそんな感じだったんですよ」

実際、塾を始めるにあたっては所属する事務所にも内緒にしたそうです。

その訳を聞くと…

哲夫さん
「始めた当時、芸人の飲食店みたいなものがあって、その時に『会社と相談しながら何割か売り上げを入れると、会社も宣伝してくれるよ』みたいな、そんなんがあったんですよね。なんですけれど、もしばれて『宣伝とか手伝いますよ』ってなったら、吉本、僕大好きなんでね、所属させてもらっていますけど、いかんせん月謝吊り上げられそうな気がして。『ちょっと5000円は無理でしょ。月謝3万円にしましょうか』って言われたら、なんか断れなさそうやったんで。でも、今こうやって大っぴらになっても、何か言うてくるとかも一切ないですけどね。うれしいことにこうやって仕事につなげてくれて」

講師たちも…

そうして始めた塾。

小学3年生から中学生を対象としていて、今は80人を超える子どもたちが通っています。

家計の負担を少しでも抑えようと、小学生は3500円から、中学生は毎日、通っても最大で2万円となっています。

ここでは特定の教科の授業を行うのではなく、子どもたちが自ら勉強し、分からないところを講師が教える「補習塾」というスタイルをとっています。

そして、最大の特徴は講師たちにあります。

哲夫さんと共に塾を運営する、講師のがっき〜さんも…

実は哲夫さんの後輩のお笑い芸人。

この塾では、大卒レベルの学力があり、これからブレイクを目指す若手お笑い芸人たちが講師を務めているのです。

お笑い芸人が講師を務めることで、子どもたちにも芸人たちにもメリットがあるといいます。


哲夫さん
「子どもらにとっても、面白おかしく言うてくれる、教えてくれる大人の方が入ってきやすいと思うんで。芸人は芸人でやっぱり子どもっていうのは、なかなか笑かすのって難しい相手やと思うんですけれども、そういう難しい相手をなんとか笑かしてっていうのでね、話芸の上達につながるんじゃないかなっていう。だから子どもも先生もウィンウィンの関係になれるんじゃないかなっていうので、なんかすごい最高のシステムを思いついたなって」

がっき〜さん、この日は「喜」という漢字の覚え方についてわかりやすく説明していました。


(がっき〜さん)
「士(さむらい)の口から牙が生えて」

(子ども)
「怖いこと言ってる」

(がっき〜さん)
「閉じてまたその下に口があったら喜ぶってこと」


がっき〜さん
「やっぱり大人って緊張すると思うので、極力変なことをして『この人は大丈夫な人なんだ』と『声をかけても怒ったりしないんだ』という雰囲気から作っていって、関係性を構築しながら勉強を教えるっていうのを心がけています。笑い飯の哲夫さんが作った塾であるんですけども、この施設に関していえば、ぼくの方が面白いはずです」

哲夫さんも、ごくたまに仕事と仕事の間で時間があるときは、塾で教えることもあるそうです。

哲夫さん
「僕はね、ここが分からないってなったら、それの一個手前の問題を手書きで作るんですよ。『これ解いてみて』って。それでも分からないってなったら、その一個手前の問題、また作って。で、あかんてなったら、また手前で。解けたら解けたで、一個前進した問題をもう一回出して、またもう一個前進した問題出してってやっていったら、一番つまずいたところっていうのが解けるようになっているっていう。それから抜群に面白い表現で教えるということですかね。『何好き?』とかは聞きますね。『プリン』って言ったら、『プリンが10個あるとするでしょ』とかっていうね。この前もうまいこと俺、教えているわって思いましたね」

実際に通っている子どもたちはこの塾についてどう感じているのでしょうか。


小学6年生
「先生の教え方も分かりやすくて、たまに面白いこと言ってくれたりとか、情報が入りやすいので、学びやすいです」


Q. 勉強に対する考え方って変わりましたか?

中学2年生
「はい…。よくなりました」

がっき〜
「嘘ついたな、お前。盛ろうとしたな今(笑)」


子どもを塾に通わせている父親
「先生も芸人さんなんで、やっぱり、子どもと話すときのコミュニケーションとか、そういうのをすごく上手で、楽しく通っているかなというふうに思っています」

子どもが賢くなるのが“儲け”

もともと教員志望だったという哲夫さん。

子どもたちに託したい未来があるといいます。

哲夫さん
「すごい地球の温暖化っていうのに僕、子どもの時から関心があってね。もう絶対嫌なんですよ、地球が熱くなって農作物も育たない、人間も住みづらくなっていく。自分が子どもだったときの環境なんかに戻してほしいんですよ。そういう(地球を正常に)戻す装置を作れる世代、たぶん子どもたちの世代やと思うんですよ。だからそういう世代への投資って思ったらね。全然高くないんちゃうって思いますよね。子どもが賢くなっていってくれるのが僕は本当に儲けやと思っています」

「もう人生も半分きたやろうから、(塾のことも)バレてもいいかと思ってね。ちょろっとちょい出しした結果、すごい大漏れになっちゃって。こうやってね表でとりあげてくれるようになって、『同じような塾をやりたい』ってね、言ってくる方が電話とかいただくんですよ。そういうのもありがたいですし、同じようなちょっと安い塾。こういう子どもが来やすいようなのをやってみようかなという人が全国あちこちに増えるのがいいんじゃないかなと思うんですよ。全然、『みんなパクって』って思いますね」

(6月27日「ほっと関西」で放送)

07/12 16:12
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