2023年10月06日
(聞き手:豊田俊斗、西條千春、吉田遥希)
CO2を減らすには木を切らない方がいい!かと思いきや、国内では切って使って植えることが脱炭素につながっていくんだそう。
「木」をめぐる最新のニュースを、川上の「森林経営」から川下の「住宅・不動産」まで幅広く、住友林業の採用担当者に聞きました。
「住友林業」という社名ですが、林業から始まった会社なのでしょうか。
原点は1691年、330年以上前ですが、「住友家」が愛媛県の別子銅山を開き、銅を採掘して幕府に収めた江戸時代に遡ります。
銅を製錬する際に熱するための燃料として、さらにそこで働く人たちの家を建てる材料として木を調達するところから始まっています。
そんな昔から…
その後、200年ほど銅を採っていましたが、木を切りすぎてしまい、周りの森林がなくなってきてしまったんです。そこから植林の事業を始めました。
その後、木材の販売なども行うようになり、今は住宅メーカーのイメージが強いかもしれませんが、住宅の事業を始めたのは50年前くらいです。
住宅事業は日本だけでなく、今ではアメリカやオーストラリアを中心にグローバルに展開しています。
こうした事業を通じて、脱炭素社会の実現に貢献していくことを、今後の大きな目標に掲げています。
どのように脱炭素に貢献していくんですか?
いま、日本政府が「2050年カーボンニュートラル」を掲げています。
これは2050年までにCO2=二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出を実質ゼロにしましょうという目標です。
ただ、温室効果ガスを減らしてゼロにするといっても、電気を使わない、車に乗らないような暮らし方はさすがに無理ですよね。
ですので、吸収量を増やすことで、実質、プラスマイナス0を目指していくんです。
そこで弊社として、植林や森林管理など、森林による吸収量をいかに増やせるかに力を入れているんです。
テーマの1つ目が「国産材の利用拡大」ですが、今の話だと、木を切るとCO2を吸収してくれる森林が減ってしまうのではないでしょうか。
そう思いますよね。確かに、海外で過剰な森林伐採が問題になっている地域ではそうなのですが、日本では木を切ることが脱炭素につながっていくんです。
どういうことですか?
順に説明していきます。日本は国土の7割が森林ですが、戦後、植林して森林を増やしてきました。
今では植林した人工林の半分以上は植えてから50年を超えています。
ただ、木は成長すると二酸化炭素を吸収する力が弱まるんです。下のグラフを見てもらうと分かると思います。
ですから、今の日本の森林で何が起きているかというと、CO2をたくさん吸った高齢の木がたくさんあるという状態なんです。
そういう木は伐採して使い、そこに新しく木を植える。すると、CO2をより吸収してくれます。
なので、切るべき木を見極めて、きちんと植え直していくことが必要なんです。
なるほど。新しい木を植えるためにも、古い木は切って使うことが必要なんですね。
国も国産材の活用を推進しています。ただ、日本の木材の自給率は40%余り。アメリカは約90%なので、低いのが現状です。
なぜですか?
理由の1つは、日本の山は急斜面が多く、切った木を運ぶ道が十分に整備されてないことです。
木を切ったり、加工したりする工場の規模も小さくなるので、海外に比べてコストがかかってしまうんです。
加えて、林業を営む人が少ないことも要因です。
こうしたことが重なって、価格競争力が高い海外の木材が使われがちなんです。
木も高齢化していくので、時間がたつほど問題が深刻化していきますよね。
どうすれば、日本の木がもっと使われやすくなるんでしょうか。
1つは、少しでもコストを下げて、価格競争に勝てるようにしないといけません。
弊社では、「木材コンビナート」を作ろうとしています。
「木材コンビナート」とは、どんなものでしょうか?
切った木を置いておく丸太置き場や、木を加工したり、製品化したりする工場。さらに、使えなかった端材を燃料とするバイオマス発電所も設けることで、木を余すことなく利用できる施設です。現在、鹿児島県志布志市での工場建設を検討しています。
今はそうした施設がバラバラな場所にあるので、積み降ろしや運搬にかかる手間もコストを減らしていく狙いです。
大規模な施設なので投資も必要になりますが、こうしたことで、「ウッドサイクル」を回していくことにつなげたいと思っています。
「木」を軸にしたバリューチェーンを表していて、木を植えて、育て、木材を製造・流通させ、木材を使って建築する。
その廃材を木質バイオマス発電に無駄なく使い、また木を植えていくというサイクルを回していきたいと考えています。
2つ目のテーマに移ります。「住宅」を木造でということならわかりますが、「ビル」も木造でつくるんですか?
中高層ビルといえば、鉄筋コンクリートや鉄骨を構造材に使うのが、建築業界では常識でした。
ですが、最近、日本でも多くの会社が木造ビルの建設に取り組んでいるんです。
弊社でも実際に建築を進めていて、オーストラリアのメルボルンでは15階建てのオフィスビルを開発しています。
鉄筋コンクリートとの組み合わせで、6階以上が木造です。
このほかにアメリカ・テキサス州ダラスでも7階建てのオフィスビルを建設中です。
国内では上智大学の校舎を建設していて、柱などの主要部分に木材を使っています。
木を使ったビルだと、火事の時に大丈夫かなと少し不安になるのですが…。
そうですよね。例えばビルだと、建築基準法上、立地や用途により、柱自体が1~3時間、火に耐える必要があります。
そこで、石膏ボードという水分の塊のようなボードと木を組み合わせて、外側が燃えたとしても、建物を支える中心部分まで燃え広がらない柱を開発しています。
そうすると、木造のビルはどんどん広がっていきそうですか?
残念ですが、木造ビルはまだ事例が少なく、ここでもコストが高いという課題があります。
とはいえ、国内外で木造ビルの建設が進む背景は、やはり「脱炭素」なんです。
木造だと建築時のCO2排出量が減らせます。さきほどのメルボルンのビルだと、鉄筋コンクリート造の場合に比べて、40%ほど削減できるんです。
鉄やコンクリートの製造時にCO2が排出されますが、木だと排出を抑えることができます。また、鉄に比べて軽く、建設現場でのエネルギー消費も少なくできます。
それに加えてメリットとなるのが「炭素固定」です。
炭素固定とは何ですか?
木材のいいところは、CO2を吸収して取り込んだ炭素を、伐採したあとも中にため込んだままなんです。それを「炭素固定」というんです。
メルボルンのプロジェクトでは、約3100立方メートルの木材を使用し、約2300トンの炭素を固定すると試算しています。
コストはかかりますが、世界全体で「脱炭素」への需要が高まっているのが現状です。
木造ビルの実績や開発がさらに進んでいくことが大切そうですね。
そこで弊社が掲げているのが「W350計画」です。創立350年の2041年に向けて、地上70階建てのビルを木造で作れるような技術開発を目指していこうというものです。
このビル1棟で住宅8000棟分の木材を使う予定です。国内で1年間に建てられる住宅の数に匹敵する木材の使用量です。
あくまで建てられる技術の確立を目指すものですが、こうした目標をもって、世界で木造の商業施設やオフィスビルなどの開発を加速していきたいと考えています。
3つ目のテーマが「広がる木の可能性」ですね。
みなさん、木の空間って何となく心地よくないですか?
弊社が産業技術総合研究所と共同で行った実験では、木の空間とそうでない空間で、なるべく平静を保つように説明してから、快・不快の画像を見てもらった時の脳波を解析しました。
すると、木の空間の方が感情をコントロールできることが分かったんです。木の見た目や香りの効果で自律神経が安定したためではないかと考えています。
へぇー!
こうした科学的なデータが蓄積すると、木の可能性はさらに広まりそうですよね。
そして、これまで考えつかなかったところでも木を使う実験を進めています。
それが「宇宙」なんです。
宇宙ですか?
「人工衛星」に木が使えないかという研究を京都大学と進めています。
まだ初期段階ですが、去年、宇宙ステーションで、宇宙空間に木を10か月置いて、温度変化や紫外線などによって、品質が劣化するか調べました。
その結果、木は割れることなく、ほとんど劣化も見られなかったんです。
次は木を使って作った小さな木造人工衛星を2024年以降に飛ばそうという計画を進めています。
木の人工衛星について詳しくはおはBizの特集「世界初!“木造”人工衛星に挑戦」をご覧ください。
人工衛星に木を使うメリットはあるんですか?
木は電磁波を通しやすいので、アンテナなどを人工衛星の内部に収納できます。シンプルな構造にできるので、故障のリスクを減らせるんです。
ほかにも、宇宙空間では人工衛星の破片などの「宇宙ゴミ」による環境汚染が課題となっています。木材は大気圏に突入する時に燃え尽きるので、環境に優しい利点もあるんです。
将来的には宇宙ステーション内部での木材利用の可能性など夢が膨らみます。
最後に、就活生へのメッセージをお願いできますか。
学生さんとよく話をしますが、20代後半、30代、40代、50代のいわゆる、“大人”と話す機会を多く持つことはすごく大事だと思います。
「コミュニケーション能力があると思っています」とよく聞くのですが、学生の中だけのコミュニケーションであることが多いんです。会社には様々な年代の人が働いていて、そこで物怖じせずに意見を言うことが求められます。
意外と“大人”に意見を伝えるのって難しいんですよね。そのための準備として、会話をしておくことをオススメしています。
例えばアルバイトとか、大学の教授とか、ボランティアでも、“大人”と話す機会を多く持つことで、就活に限らず、会社に入った後もすごく活躍できるようになると思っています。
意識してみたいと思います!ありがとうございました!
撮影:正木魅優 編集:岡谷宏基
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