1からわかる!マイナンバー(1)

そもそも 何のためにあるの?

2023年06月14日
(聞き手:藤原こと子 堀祐理 平野昌木)

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トラブル続きの「マイナンバー」。
なぜ国はカードを持たせようとするのか、そもそもマイナンバーはなぜ作られたのか。
知っているようで知らないマイナンバーについて1から解説です。

国民の8割がカードを申請

学生

最近いろんなトラブルが起きていることもあって、少し不安だな、と感じている人もいるんじゃないかと思います。

そもそもカードって、持たないといけないんですか?

カードは義務ではありません。持つかどうかはあくまで個人の判断、つまり任意です

竹田
解説委員

解説してくれるのは竹田忠解説委員。2012年から始まった、医療・介護・年金・子育ての充実を目指す「社会保障と税の一体改革」を担当。改革の一環として導入された「マイナンバー制度」について10年の歴史を取材してきたスペシャリスト。

いまカードってどれぐらいの人が持っているんですか?

カードの申請率は今や77%、国民の約8割に上っています。

※総務省 2023年5月28日

ここまで持つ人が増えた背景としては2万円分のポイント・キャンペーンや健康保険証を廃止してマイナ保険証に一本化するといういわば“力技”によるところが大きいと思います。

学生
藤原

なぜ、そうまでしてカードを持たせようとするんでしょう?

そこなんですよね。その大事な点や理由について政府はしっかりと説明できてない。

とにかく「持って下さい」ということでここまできたんですが、それが最近のトラブルに対する国民の不安をさらに増しているように思います。

まだ制度の一番重要な部分が多くの人に理解されていないと感じています。

“マイナンバー”と“カード”は別モノ!

「制度の重要な部分」ってなんですか?

簡単にいうと、マイナンバーとカードは、別モノだということです。

カードはその名前から「マイナンバーを証明するカード」というような意味で捉えている人が多いと思いますが実態としては違います。

最近では特にカードの方が、マイナンバーよりも使いみちが広がってきています。

学生
平野

カードのほうが使いみちが広い?

カードには実はマイナンバーとは別に、もうひとつの番号があるんです。

もうひとつの番号ですか!?

そうです。普通、番号と言えばカードの裏面に記載されているマイナンバーのことですが、もうひとつの番号は同じく裏面のICチップの中に入っています。

この番号は見ることはできません。正式には「公的個人認証」と呼ばれます。

これは何に使われるんですか?

インターネットなどにアクセスして本人を証明するのに使うもので、書面取引の印鑑証明書に代わる電子証明書と、そのシリアル番号が入っています。

マイナンバーが目に見える番号だとしたら、こちらは目に見えない、もうひとつの番号ということになります。

カードを利用する時に使っているのは、多くの場合マイナンバーではなく、もうひとつの番号である電子証明書ということになります。

具体的にどんな場面で電子証明書を使うんでしょうか?

主にオンラインサービスで本人を確認するために使います。

例えば健康保険証との一本化はまさにこれで、病院の窓口の端末からオンラインでアクセスし、その人が今現在、その医療保険の資格があるかどうかを瞬時に確認します。

そして、最近のカードをめぐるトラブルの多くはこのオンラインサービスをめぐって起きているんです。

そもそもどうしてマイナンバーカードに別の番号も入ってるんでしょうか?

そこがポイントなんです。

そもそも「マイナンバー制度」というのは、3つの別々の制度が合体して作られています。

それが、制度の理解を難しくしているんです。

“3つの制度”が合体?

その3つの制度について教えてください。

1つは『社会保障と税の番号制度』

社会保障と税で、共通して使う番号を国民全員に割り当てて税や保険料を公平・公正に負担してもらおうというものです。

人口減少と少子高齢化が進む日本では年齢に関係なく、所得のある人には応分の負担をしてもらう応能負担を進める必要があるためです。

これがつまり、マイナンバーのことですね。

『社会保障と税の番号制度』がマイナンバーの役割なんですね。

2つ目は『国民ID制度』

いつでもどこでも自宅にいながらにして行政サービスの手続きができるようにしようというもので、そのための電子政府にアクセスするIDを国民全員に持ってもらおうというものです。

これがICチップの中の電子証明書ということになります。

これがもうひとつの番号の役割?

そのとおりです。

そして最後の3つ目は『身元証明制度』。国民が誰でも、自分が誰であるかを写真付きで証明できるようにしようというものです。

運転免許証は運転する人、パスポートは海外に行く人のための資格証明書です。つまり日本には国民誰もが顔写真付きで私はこういうものですと証明するものがありませんでした。

マイナンバーカードで初めて誰もが顔写真付きで証明するものが持てたんです。

それぞれで違う役割があるんですね。

そうなんです。特に1つ目と2つ目は、政府の中でも全く別の役所がそれぞれ別々に検討していた制度です。

実は政府は以前、マイナンバーカードのいわば“前身”である住民基本台帳カード(住基カード)というものを発行していましたが、全然取得率があがらす、新規発行も停止となりました。

その二の舞にならないよう、いろんな機能を詰め込んだのがマイナンバーカードというわけです。

マイナンバーは永久欠番

マイナンバーというのは、カードの裏面に個人番号という名称で書かれている12桁の数字です。

赤ちゃんからお年寄りまで、外国人も含めて日本に住民票がある全ての人にその人だけの番号が割り当てられます。

結婚などで名前が変わっても、番号は一生変わりません。

12桁のマイナンバーの最後の数字はチェックデジットと呼ばれる検査用の数字になっていて、理論上は約999億の組み合わせが可能です。

なので一度使われた番号はその人が亡くなった後も使われることはありません。文字通り、唯一無二。いわば永久欠番というわけです。

ただカードが盗まれたりして番号が悪用されるおそれがある場合は、市区町村に申し出れば変更が可能です。

なぜそういう番号を国民全員に割り当てたんでしょうか?

そこは重要なポイントですね。国民が公平・公正な行政サービスを受けるためには番号が必要、というのが政府の説明です。

それは、どういうことでしょう?

マイナンバーの最大の狙いは国民の所得を正しく把握して、税や保険料を公平・公正に負担してもらおうというものです。

それってマイナンバーで国に収入を知られてしまうってことですか?

もともと収入は国に把握されています。給料をもらう人は所得税が天引きされてますし。

問題は“名寄せ”が正確にできているかどうかです。

“名寄せ”ってなんですか?

所得税はその人の所得が高いほど、高い税率がかかります。累進税率といいます。

そのためには、副業や単発の契約の報酬などを含めその人が得た所得をすべて一つに合わせる必要があります。

これが“名寄せ”です。

そのために国税庁には、“法定調書”と言って誰が誰に賃金や利子や契約金などのお金を払ったかという書類が毎年、3億数千万枚も集まります。

そんなに多く!?

そうなんです。この膨大な数の書類から名前や住所をもとに“名寄せ”するのは大変です。

例えば東京の会社員が九州に行って、全く別の会社で一定期間高額の副業をした場合、支払い調書は本業の会社とは全く別の場所の全く別の会社から出ていて、これを“名寄せ”するのには様々な困難があります。

名前に使われている漢字が同じ種類でも複数あり、なかなか同一人物と特定することが難しい場合もあります。

例えば渡辺の「辺」や斎藤の「斎」という漢字はとても多く何種類もあります。

さらに偽名を使っていれば“名寄せ”は困難です。

しかし、そこにマイナンバーが記載されていれば、一発で特定できるわけです。

このように所得隠し、課税逃れを防ぐためにも、賃金や報酬を支払う場合は必ずマイナンバーを届け出てもらい法定調書にその番号を記載することになったわけです。

カードのICチップに入っている“もうひとつの番号”

マイナンバーとは別の、カードにあるもうひとつの番号は具体的にどう使われているんですか?

これはまず、オンラインで様々な行政手続きができる自分専用のサイト、マイナポータルへのログインに使われます。

また、利用範囲は民間分野にも広がっていて、オンラインでの証券口座開設や携帯電話のレンタル契約での本人確認などにも利用されています。

マイナンバーよりも、こちらの機能によってカードの利用範囲が広がっています。

なぜマイナンバーよりも、カードの別の番号の機能の方が使われるんでしょうか?

まさにそれが最初にも触れた、マイナンバーとカードは別モノ!という意味でもあります。

マイナンバーの利用範囲は、法律によって社会保障、税、災害対策の3分野に厳しく限定しています。

一方でマイナンバーを使わないICチップの番号にはそうした厳しい制限はありません。

なので、政府はこちらの機能を民間に積極的に開放し、利用拡大を進めているわけです。

マイナンバーに至るまで

なぜマイナンバーには厳しい制限があるんですか?

実は番号制度の検討には長い歴史があって国民には番号で管理されることに対する強い抵抗感があります。

検討の始まりは1968年、当時の佐藤政権下で構想された「各省庁統一個人コード」です。

行政サービスごとにばらばらだった国民に関する番号を統一しようというものでした。

これに対しては政府が国民を監視する「国民総背番号制」につながるとして強い批判があがり、構想はとん挫しました。

50年以上も前から?

その後1980年ごろに大きな騒ぎとなったのが「グリーンカード」問題です。

当時、300万円以下の預貯金は非課税となる優遇制度がありましたが、お金のある人が資産を300万円以下に分散して仮名口座を作り、税金逃れをすることが問題となっていました。

これを防ぐために300万円以下の貯金をする人は番号のついた「グリーンカード」の利用を義務付けるという法律ができたのですが、これも国民総背番号制につながるとして反対運動が起きて法律が廃止される事態に発展しました。

でもマイナンバー制度は導入されたわけですね?

その大きなきっかけは2007年ごろの「消えた年金問題」です。

厚生年金と国民年金では番号がバラバラな上に継続的な管理もできておらず、結果、何千万件もの年金記録が誰のものかわからなくなってしまうという大問題が発生しました。

国民の権利を守るためには、社会保障や税についての情報を共通の番号で管理することが重要だという認識が広まって、マイナンバーへとつながっていったんです。

“窓口対応を強化したい”

多くの人がカードを持つようになるとメリットがあるんですか?

カードの利用が増えて、行政サービスのデジタル化、つまりオンライン化が進めば、行政の仕事のあり方も変わってきます。

これまでは窓口での対応に人やお金を割く必要がありましたが、オンラインで手続きをできる人が多くなれば、窓口対応をする人を減らすことができます。

その結果、本当にやるべき仕事に人を割けるようになります。

対面ならではのところに注力するということですか?

そうです。事務手続きではなく、本当に困っている人をサポートする。

例えば生活保護の相談を受けるとか、保育所への対応とか教育など、AIやリモートでは対応できない仕事に役所の限られた人材を割くことができるようになるんです。

確かに取り組まなければいけない重要な課題って、たくさんありますよね。

そうなんです。

ちなみにマイナンバーカードには有効期限があって…。

10年で更新しないといけません。(18歳未満は5年)

え?そうなんですか?

顔が変わるので更新が必要なんですよ。

確かに。

ただ、注意しなきゃいけないのが、実はもうひとつ期限があるんです。カードの有効期限の下に書いてあります。

電子証明書の有効期限!?

こっちは5年なんです。ICチップで電子政府にアクセスするには5年ごとの更新が必要になっています。

電子証明書は暗号のカタマリです。しかし量子コンピューターの登場のように暗号の解読技術・能力の発展は日進月歩です。

10年間そのままというのはリスクがあるということで5年になっているんです。

ここまで「マイナンバー」と「マイナンバーカード」がどういうものなのか、その違いや狙いを聞きました。ただマイナンバーカードで、最近トラブルが相次いでいるのはなぜなんでしょう?次回はマイナンバーのセキュリティーとトラブル問題について考えます。

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