目指せ!時事問題マスター

1からわかる!サイバーセキュリティー(2)人為的ミスが狙われる!?

2023年04月20日
(聞き手:梶原龍 徳山夏音 西條千春)

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「極秘プロジェクトでお金が必要だから至急振り込んでほしい」上司の名前でこうした連絡が来たらどうしますか?
ビジネスメールの詐欺、メールの誤送信に仕掛けられたわな、狙われたリモートワーク。私たちの身近で起きるサイバー攻撃の手口について1からわかりやすく解説します。

“誤送信”も狙われている!

学生
徳山

企業から個人情報が流出したというニュースをよく耳にします。

公表しない企業もあるので、ニュースになっていないものを含めると頻繁に起きています。

三輪
解説委員

流出の一番の原因ってなんだと思いますか?

サイバー攻撃ですか?

メールの誤送信です。つまり宛先間違いですね。

教えてくれるのは、三輪誠司解説委員。ITやサイバーセキュリティーが専門。警察取材に奔走した若手記者時代に、ハイテク犯罪への関心を高める。文系出身ながら独学でプログラミングのスキルも習得。

個人情報がどう流出したかについての、ある集計があります。

宛先間違いにもいろいろありますが、メールアドレスを手で入力したらひと文字違った、という事例が多いです。

その他漏えいの内訳は「プログラム/システム設計・作業ミス(システムのバグを含む)」「不正アクセス・不正ログイン」「口頭での漏えい」「関係者事務処理・作業ミス等」「ウイルス感染」

例えば2022年に発覚した国立大学のケースでは、ある教員が仕事で使っているメールを個人用のメールに転送していました。

本人は自分のGmailのアドレスに転送していたと思い込んでいたのですが、打ち間違えて「L」の小文字の「l」を入れず「gmai.com」と入力して送っていたんです。

その過ちに気付くまでの10か月間、教員は5000件のメールを誤送信してしまい、約2100人の個人情報を流出させてしまったんです。

学生
梶原

なかなか気づけなさそうです。

そもそも、宛先が存在しなければメールは自動で返送されますが、今回の「gmai.com」という宛先は実在していました。

そのため、間違いに気づくのが遅れたんですね。

「gmai.com」ってあるんですね?

その点が重要で、これはおそらく、何者かが、Gmailに似た名前のサーバーをわざと設置して、誤送信メールを集めていた可能性があるとみられています。

調べてみたら、聞きなれない中米の国で登録されたサーバーでした。

このサーバーは、誰かが間違えるだろうということを予測して、誤って送られたメールを受け取るわなのようなものです。

届いたメールを盗み見していたおそれがありますし、情報を悪用しているかもしれません。

学生
西條

ミスを見越してわざと設定しているんですか!?

このような紛らわしいものを「ドッペルゲンガー・ドメイン」と言います。自分自身の幻覚という意味です。

ひと手間加えてセキュリティーを高める

誤送信も狙われているんですね。どうすれば防げますか?

アドレス帳の管理が極めて重要です。

メールアドレスは極力手入力しない。どうしても必要な場合は、いったん空メールを送って、届いたかどうか確認する。

その確認ができてから重要なデータなどは送る、ですね。

アナログといえばアナログですね。

「1」(イチ)と「l」(エル)、「0」(ゼロ)と「O」(オー)とか、これは誰でも間違えるんです。

面倒ですが、ひと手間かけることでセキュリティーを保てると思います。

PPAPには注意

メールの添付ファイルにパスワードをつけて、パスワードを別のメールで自動送信する方法を使っています。

それは「PPAP」(ピーピーエーピー)という方法ですね。

その対策は最近はあまり効果的でないとされています。

えっそうなんですか!なぜですか?

まず、そもそも誤送信対策にはならないという指摘があります。

宛先を間違えた場合、パスワードも間違えた相手に知られてしまうため、中身を見られてしまうからです。

PPAPによるメールの誤送信で、個人情報が漏えいしたケースは最近も明らかになっています。

2023年1月に、国の研究機関の職員が、ファイルを暗号化してメールに添付して送信したあと、別のメールでパスワードを送信しました。

しかし、どちらのメールも宛先が間違っていたことが発覚し、個人情報が漏えいしたと発表しています。

このほか最近流行した「エモテット」というコンピューターウイルスがあるのですが、パスワード付きのファイルが添付されたメールで感染を広げる特徴がありました。

紛らわしいので、官公庁や企業で、PPAPをやめるところが相次いでいます。

メールの誤送信を防ぐ方法についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。

あと、流出の原因として、「紛失」も、よくあります。

自治体の職員が個人情報の入ったUSBを無くしたというニュースを見ました。

イメージ

酔っ払って、会社のパソコンが入ったカバンをなくしてしまったというケースは結構頻繁に起きているようです。

まずは重要な情報を持ち出さないということだと思うんですけど、持ち出すならパスワードをちゃんとかけて暗号化しておくこと。

もし、万が一、紛失して誰か手に渡っても、実害がないように対策を考えておくということは大事だと思いますね。

メールのオレオレ詐欺に気をつけて

あと、皆さんも社会人になったら気をつけたほうがいいのが「BEC」です。

ベック、ですか?

はい。英語のBusiness E-mail Compromiseの頭文字でビジネスメール詐欺といいます。

会社のアカウントを乗っ取ったり、関係者になりすましてメールを送ったりして、お金や情報を騙し取るんです。

例えば社長や上司になりすまして、経理担当者にメールが届くんです。

「極秘プロジェクトで至急、金を動かしたいからここの口座に振り込んで」と。

「極秘だから絶対誰にも言うな」と。手口としてはオレオレ詐欺と似ていて、人間を狙っているんですね。

もし上司の名前で「この情報送って」とメールが来たら、送ってしまいそうです。

そうですよね。メールというのは送信者の偽装が簡単で、メールソフトの設定を変えるだけで別の会社の実在する人になりすますこともできるんです。

リモートワークで攻撃増?

また、コロナ禍以降はこうした情報流出の危険性がいっそう増しているんです。

リモートワークが関係していますか?

そのとおりです。リモートで仕事するためには自宅などからインターネットで社内のシステムに接続しますが、それにはVPNという通信内容を別の誰かに見られないようにする方法がほぼ必須なんですね。

ただ最近、何者かがVPNに不正にアクセスし、企業内のネットワークに入り込むという被害が相次いでいます。

なぜ、不正アクセスできるんですか?

企業が、セキュリティが弱い、古いバージョンのVPN装置を利用していることが原因になることが多いです。

しかも、VPN装置が古いバージョンかどうかは、調べればある程度わかってしまう。

え!わかるんですか?

わかるんですよ。で、古いバージョンだと、どんなところが弱いか、公表されていることが多いんですね。

ネット上の不正なアクセスって、本来は一般の人が入れない、会社の従業員入り口から侵入されるイメージです。

古いバージョンだと、ドアのカギを開ける方法がすでに知られていたり、ダイヤル錠の番号が流出しちゃったのに近い状態ですね。

侵入されるとどうなってしまうんですか?

大阪に本社があるゲームソフトの大手企業が2020年に被害を受けたサイバー攻撃では、VPN装置が狙われ、社員など約1万5000人の個人情報が流出しました。

さらにランサムウエアの被害を受けました。

ランサムウエアってなんですか?

ランサム=身代金の要求と、ソフトウエアを組み合わせた造語です。

パソコンにウイルスを送りつけて感染させ、中のデータを勝手に暗号化し、利用できなくします。

元に戻したければ、金を支払えと脅迫するのです。「振込先はここで、暗号資産で振り込め!」みたいなメッセージが出てきます。

暗号資産が使われるのは、犯罪組織側の身元を特定できなくするためなんです。

払えば元に戻るんですか?

戻してくれたという話もありますが、何もしてくれなかったという報告もあり、金を払っても元に戻る保証はありません。

企業の多くはこうしたことに備えて、日常的にバックアップを取り、お金を払わなくても復旧できるという対策も進みました。

しかし、犯罪組織はそれを見越して、最近はいわば二重の脅迫をしてくるようにもなりました。

二重の脅迫?どういう意味ですか?

「もし金を払わない場合、あらかじめ奪っておいたデータをネットで公開する」というのです。実際に、世界中の企業の情報が、ネット上にさらされています。

つまりデータは元に戻せたとしても、情報が流出すると困るので、日本円に換算すると数億円から数十億円という高額な身代金を払わざるをえないケースもあります。

さらに、取引先の企業にわざわざ連絡して、あの企業からあなたたちの情報が漏れますよと伝えることで、身代金の支払わせようとするケースもありました。

とても悪質で手が込んでいます。

ランサムウエアの被害と対策についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。

手口を知って!

対策はあるんですか?

対策というのは、実は、個人がふだんからやる対策と結構共通していて、IDやパスワードの管理、そしてソフトウエアのアップデートがものすごく大事なんです。

それを徹底することで、かなりは防げるはずです。

ただ、組織をそうした攻撃から守ってくれているのは「情報システム部門」の人たちですが、私の取材実感では、人材が日本は圧倒的に不足しています。

ほかの業務と兼任で専従者を置いていないケースもあります。人的な投資が足りていないのが現状ですね。

サイバー攻撃ってなくなることはないんですか?

残念ながら減る可能性は少ないと言えます。

今後も手を替え品を替えいろんな攻撃方法が出てくることは間違いないです。

なので、いま流行している手口はこうだから気を付けてくださいね、という注意喚起を社内で共有しておくことが重要なんです。

誰でも偽メールに騙されてしまうおそれはあります。だから、もしこんなメールが送られてきたら確認し合おうね、と事前に作戦を練っておくことが大切ですね。

流行を常に追うことが重要なんですね

そうです。よくない風潮として、サイバー攻撃による被害を公表しない企業も多いんですよ。

セキュリティーが絡む話はそもそも秘匿性が高いと思われがちで、公表や他社との情報交換も、しづらいのは理解できます。

ただ、本来は、こういった手口の横行を公表して、社会全体で意識を高めることが必要なんです。

1からわかるサイバーセキュリティー。次回は、数が増えて対応しきれなくなっているWEBサービスについて。どんなパスワードが安全? 偽メール、偽サイトにひっかからないためには? 身近なギモンに答えます。

撮影:芹川美侑 編集:林久美子

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