去年4月の成人年齢の引き下げに合わせて、20歳未満の「少年」が事件を起こした場合などの処分や手続きを定めた少年法も改正されました。
なぜ改正する必要があったの。
司法担当の解説委員を務めた山形晶デスクに学生リポーターが聞きました。
2023年5月29日司法 社会
去年4月の成人年齢の引き下げに合わせて、20歳未満の「少年」が事件を起こした場合などの処分や手続きを定めた少年法も改正されました。
なぜ改正する必要があったの。
司法担当の解説委員を務めた山形晶デスクに学生リポーターが聞きました。
なぜ、少年法は改正されたんですか?
そもそも少年法というのは、理想と現実の中で常に揺れ動いている法律なんですね。だからこれまで何回も改正されています。
教えてくれるのは山形晶デスク。
司法取材のスペシャリスト。社会部記者時代には裁判員制度が始まり、制度をめぐる課題を取材した。司法・事件事故などを専門とする解説委員を務めた。
当時、何かきっかけがあったんですか。
1990年代の終わりに、重大な凶悪事件が相次いだんです。
当時14歳の中学生が複数の小学生を殺害する事件や、子どもが大人を殺害する事件もありました。
生まれる前なのであまりイメージがつかないです…。
それが被害者遺族を中心に「やっぱり甘いんじゃないか」という指摘、声につながり、そのあと法律が何回か改正されました。
徐々に変わってきているんですね。
では今回の改正について、なぜ変える必要があったのか、どういった声があがっていったんですか?
今回は変える必要があったから変えたのかというと、実はそうでもありません。
もちろん変えてほしいという声はずっとありました。
はい。
でも、今回大きかったのは、「変える必要がある」という声ではありません。「選挙権年齢」と「成人年齢」の引き下げが直接のきっかけでした。
だから、制度に問題があって変える必要があったというよりは、ほかの制度との兼ね合いで「変える必要がある」という声があがった、ということです。
なるほど。
わかりやすいです。
選挙権年齢とか成人年齢の引き下げのきっかけは、2007年にできた国民投票法という法律、これがすべての発端です。
どんな法律ですか?
憲法改正の手続きを定めた法律です。
投票できる年齢について、『憲法』という大きなテーマなんだから「幅広い年代で」とか、「世界はみんな18歳だから同じにすべき」という意見がありました。
それで、18歳になったんだけども…
ここが18歳になると、「うん?待てよ、じゃあ選挙権年齢はどうなるの?」と。「民法どうなんだ?」という話になって。
国民投票法ができたときに、“少なくとも選挙権年齢と成人年齢については考えましょう”という話になったんです。
はい。
その後2015年に選挙権年齢引き下げについて法律が改正されました。
その選挙権年齢が改正されたときに、少年法を含めて考えるべきでしょうと。国会でそういう議論になったわけです。
その段階から話は出てたんですね。
同じ日本の法律の中で大人と子どもの線引きは統一されている方が良いという考え方で、法制審議会という法律の改正を議論する場で議論が始まりました。
ただ背景には、犯罪被害者遺族の「少年が特別扱いというのは納得できない」という思いはずっとあったんですね。
具体的にどんな意見があがっていたんですか?
「守られすぎている」という声です。少年審判は非公開なんですね。
今は重大事件の遺族は少年審判を傍聴できるようになったのですが、昔は傍聴することができませんでした。
あと名前も報道されないので。
え、じゃあ誰が事件を起こしたのかもわからないということですか?
はい。
少年法はそのくらい少年に手厚い法律なんですよ。
この手厚さが、犯罪被害者遺族からすれば「あまりにも手厚すぎるんじゃないですか」ということになる。
なるほど。
少年法って、狭間にあるというか。
少年は守られるべきだという考え方もある一方で、そんなに手厚くする必要があるのかという考え方もあるんです。
確かに難しいですね。
揺れ動いてるのが少年法。
ただ今回は、「やっぱり法律の線引きは統一した方が良いんじゃないのか」という点で議論になった。
議論は、被害者遺族の方が望むような方向に進んだんですか?
それが、必ずしもそうではなく、まあちょっと、折衷案のような形になったんですよ。
折衷案?
『少年は守られるべきだ』という考え方と、『特別扱いすべきではない』という考え方の、間に立つような案になったというか。
法制審議会の議論の中でも、ほんとに意見が真っ二つに分かれちゃったんです。
どう分かれたんですか?
対象年齢を下げるべきか、下げるべきでないか、ここからもう全く違っていて。
民法の成人年齢の引き下げというのも当時議論が進んでいたのですが、民法の成人年齢が引き下がると民法上は親の親権、親が子どもを守り育てる権利義務の親権というものから外れるわけですね。
はい。
民法上は自立した大人なのに、それに対して刑事手続き上は少年…
国がそこまで守るのかという意見があったんです。
なるほど。
議論には犯罪被害者のご遺族も関わっていて、ご遺族はやっぱり大人と同じ扱いにすべきだと。
大人と同じ扱いだと、名前も出るし、犯罪を思いとどまる抑止、犯罪の防止にもつながるということをおっしゃっていました。
これが一緒に民法とあわせて引き下げる派の意見?
そうです。
その一方で、引き下げるべきじゃないという側の意見は、そもそも変える必要はないでしょうと。少年事件は減る傾向にあって、少年法による立ち直りの支援は有効に機能していると。
上手く機能しているものを変えてしまうと、立ち直りに支障がでるんじゃないか、十分に保護できなかったり、今までだったら立ち直れていたような子どもが立ち直れなくなるんじゃないかと。
むしろそれで再犯が増える。再び罪を犯してしまうケースが増えるんじゃないかという意見でした。
問題なく上手くいっていたものをわざわざ変える必要があるのかないのかというところで意見が割れたということですか。
はい。「重大事件」に関しては、「逆送」という制度があるので、全く甘やかしているわけでもない、という見方もありまして。
それで2つに分かれたんです。
だから観点が違うわけですね。ちょっと議論がかみ合わないわけですね。なかなか議論が進まない状況がしばらく続いた。
逆送致(逆送)とは
家庭裁判所が検察から送致された少年を調査した結果、少年法に基づく「保護処分」ではなく「刑事処分が相当」として検察に送致すること。「逆送」されると大人と同じように刑事裁判が開かれ、有罪なら刑罰を科される。
そのなかでどう決着したんですか?
それはですね、なんていうかもう、ほんとに折衷案にならざるをえなかったというか。
この議論が平行線になってきたところで、じゃあ一案として、対象年齢を引き下げない、ただ、引き下げはしないんだけど18歳と19歳に関しては特別な手続きにのせるというのもいいのではないかという、そういう考え方がでてきたわけですね。
特別措置みたいな?
法制審議会の中でも、今の枠組み自体は大きく変えないで、ただ18歳と19歳は逆送を増やしましょうという考え方が出てきたんです。
では逆送を増やすというところが今回の変更点?
逆送の対象を大きくするというのが変更ですか?
大きな変更点ですね。それと並行して与党がこの問題について協議したんです。
与党の中で、今の制度の改正案に近い考え方がでてきて、対象年齢は変えないんだけども18歳と19歳は、20歳以上の大人とも違う17歳以下の少年とも違う位置づけにしましょうと。
それが特定少年ですか?
そうです、特定少年という言葉になりました。言ってみれば大人と子どもの中間みたいな感じですね。
18歳と19歳に関しては少年なんだけど特定少年ということで17歳以下とは違う扱いにしましょうということになりました。これが折衷案です。
民法では大人扱いになっているのに、そういったところでは大人と子どもの中間というのが、なんかしっくりこない気もちょっとするんですけど…。
うーん、全くかみ合わない2つの意見がある中で、こういうところでおさめるしかなかったのだと思います。
少年法の中に、『18歳と19歳は入っている』という認識であってますか。
そうです、少年法の中にはいるんだけども、ちょっと別扱いなんです。
別というところに大人のニュアンスが入ってる。
この特定少年という概念は、少年法でしか出てこないですか?ほかの法律ではこういう考え方はない?
少年法だけですね。
そうなんですね。18歳と19歳は、民法で大人扱いされた年齢だからってことですよね。
そうですね、そこを踏まえてですね。やっぱり、民法では自立した大人として扱われる年齢なのに、少年法の手続きでは手厚く保護されるのは理屈に合わないという意見もあって。
そこを特定少年という形で違う位置づけにすることによってクリアして、一方で少年法は機能してるわけだからその枠組みから外すべきではないという考え方に落ち着きました。
※2022年4月に施行となった改正少年法では、法律の適用年齢は20歳未満のままで様々なルールが変更となりました。
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