解決 疑問に答える“事件のミカタ1からわかる少年法改正(4) 改正の影響は

2023年6月23日司法 社会

去年4月、改正少年法が施行されました。

実は、裁判員にも影響するってどういうこと?

司法のスペシャリスト、山形デスクに学生リポーターが聞きました。

学生
小野口

今回の少年法改正、社会的にはどういう影響があるのかなというのは気になっていて…

まあ時間が経ってみないと、どういう影響があるかはわかりません。
データではなかなか示しづらいですね。

山形
デスク

そうですよね。

5年過ぎたらもう1回見直しましょうと、法律で決めてあるんです。
どういうふうに、少年法の改正の影響が出てくるのかは注意してみていかないといけない。

教えてくれるのは山形晶デスク
司法取材のスペシャリスト。社会部記者時代には裁判員制度が始まり、制度をめぐる課題を取材した。司法・事件事故などを専門とする解説委員を務めた。

学生
本間

少年法の改正にあわせて今回、裁判員の対象年齢も18歳に引き下げられたと聞きました。
なぜ引き下げられたのか、自分も関わるかもしれないので背景を知りたいです。

少年法との絡みもあるし、広く言えば選挙権年齢、成人年齢も関係します。
一番関わるのは選挙権年齢なんだけど。

どういうことですか?

そもそも裁判員に選ばれる対象は、裁判員法で衆議院選挙の有権者ということになっています。
選挙権年齢は2015年の法改正で18歳に引き下げられているんですが、そのときはまだ少年法の改正議論がどう進んでいくかわからなかった。

それが裁判員とどう関係があるんですか?

裁く側と裁かれる側の年齢のバランスが問題なんです。

裁判員を18歳としたときに、少年法の対象が20歳未満のままだとしたら、裁く方は18歳で裁けるのに、裁かれる方は20歳未満…。

あー、ちょっと不自然ですね。

暫定的な措置として、とりあえず裁判員法は20歳以上のままにしておくことになったんです。

その後、少年法の経過を見守っていたところ、結局少年法の方で18歳・19歳を特定少年に定義づけたということで、大人に近い扱いになったんです。

それを受けて、じゃあ裁判員ももともと法律で書いてあった衆議院選挙の有権者に戻しましょう、暫定措置は解除ということで、18歳になったんです。

だけど、これが“しれっと”行われた。

しれっと?

国会でもほとんど議論された形跡がないし、裁判所とか法務省に言わせると「もともとそういうことになってたんですよ」となるんですが、ただ周知されていなかった。

初めて知りました。

国会で「ほんとに裁判員の年齢も下げていいの?」という議論があってもよかったかもしれないですよね。

あるいは下げたあとで、「こういうふうに変わりますから」と裁判所や法務省がもっとPRしてもよかったかもしれない。

実際はそういうのがなくて、裁判員制度について情報発信している市民グループの人たちが気づいたんです。

それがきっかけだったんですね

「これは、いつの間に決まってたんですか」と。
その人たちが声を上げてなかったら、まだあんまり知られてなかったかもしれない。

そんなことあるんですね。いつの間にか知らない間に18歳の子に通知が届くという…

少年法を改正するとき同時に、暫定措置を解除する法律改正が行われていたということですね。

裁判員の意義

私の母親が数年前、裁判員になったんですが、見ていて精神的にきつそうだったんです。
それを自分より年下の18歳・19歳の子たちがやるとしたら負担じゃないかという疑問があります。

負担であることは間違いない。
ではなんでこんなことを引き受けないといけないかというと、これは私、思うところがあるんです。

どんなことですか?

刑事裁判というのはすごく重いものというか、国が個人を罰するわけですよ、強制的に自由を奪う。
命すら奪う、あるいは罰金という形で財産を奪う。

国が強制的に個人に対してそういうことをするわけだからその手続きというのは限りなく厳正でなければならないし、オープンであってほしい。

そうですか。

今まではそれを刑事裁判官、プロに任せていたんだけど、ホントにプロ任せでいいんですかと。

ダメなんですか?

やっぱりそこに市民が入っていって、「なんでこれはこういう解釈なんですか」「どうしてこういう証拠からこういうことが言えるんですか」という点をチェックする、外部の目が入るというのが、私は決定的に大事だと思っています。

我々が参加する意義、私はそこにあると思っています。

なるほど。

3人の裁判官の常識に任せるよりは裁判員が入った9人の常識の方が、それは信頼性が高いでしょうと。

私はそれが市民が参加する意義だと思うんです。

18歳19歳の方がいきなり裁判員になってびっくりすることもあると思うんですけど、実際に選ばれる確率というのはどれくらいなんですか。低いんですか、高いんですか。

裁判所の資料を見てみたら2020年のデータで言うと、全国で裁判員とか補充裁判員に選ばれたという人が7000人くらいで、有権者の数に照らすと0.01%くらいと言われていて…

18歳と19歳は、有権者の中のおそらく2%くらいなんですよ。

意外と低いですね。

だから0.01%の2%だからちょっと計算できないけど…そうとう低いですよね。

やり直しができる社会

最後にひとつ、皆さんに伝えたいことがあります。
取材をしてると、事件を起こした少年の立ち直りに関わっている人は目を輝かせながらやっているんですね。

それが本当に印象的だから、たぶん少年法は甘いと批判もあるけども、私自身は立ち直る可能性は基本的には信じてみたいと思っています。

今まで自分が目にした範囲の中では、こんな世界があるんだというくらいね、こんなに情熱的に仕事をしてる人たちがいるんだって驚いたくらい。

ちょっと見てみたいですね。

ただ一方で、被害者遺族がなんで少年だけ特別扱いなんだという思いを持っていらっしゃる。これもすごく重いことです。

そこからも目をそらしてはいけないし、本当にこの問題、難しいなと思うのですが。

難しいですね。

だから、皆さんへのひとつのメッセ―ジとしては、今回のこれを機に、少年法というのはどう運用されているのか、少しでも興味を持ってもらえれば良いかなと思っています。

興味?

少年院とかは見学できるんですよ。
学校単位で見学できますし、ホームページに色々出ていたり、動画も載っていたりするので、少年法が実際にどういう形で動いてるのかというのを知った上で、考えていってもらいたいなと思います。

あと、少年法の目的は立ち直りということがあったんだけど、今、なんとなく世の中、やり直しがきかないような感じがあるでしょ。

ありますね。

1度失敗したらもう立ち直れない。だから皆、正解を探しに行くみたいなところがあって。

それはすごく息苦しいことだと思います。やっぱりね、失敗しても立ち直るチャンスがあるっていうのはすごく大事なことだと思うんですよ。

それが甘いという部分もあるんだけど。人の命を奪うようなことがあったら、それに応じた罪を受けるっていうのは当然なんだけど。

そうじゃなくて、ちょっとした失敗、もしもそういう環境にいなければ、そんなことにならなかったはずなのに…という子どもたちを救うという、立ち直りを支えるというチャンスがあるのは大事なのかなと思います。

なるほど。

それはやっぱり少年法の趣旨だし。
重大なことをやったんであれば、それは当然報いは受けるけども、ただ中には色んなケースがあって、単純に罰で良いのかというケースもあるかもしれないから。
そういうケースはやり直すチャンスを確保するという趣旨が大事だと思うので。

やっぱり我々も少年法というものを知って、できるだけあたたかい社会というか、限界はあるけど、できるだけやり直しのきく社会を作っていくというのがすごく大きく言えば大事なんだろうなと思います。

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