2023年7月6日
パラグアイ 台湾 中国 中国・台湾 中南米

中国より台湾?南米唯一の親台湾のパラグアイ いったいなぜ?

中国か台湾か。

世界ではここ数年、台湾と断交し、中国と外交関係を樹立する国が相次いでいます。

そうした中、南米大陸で唯一、台湾と外交関係を持っているのがパラグアイです。

なぜパラグアイは中国ではなく台湾?そもそもパラグアイってどんな国?現地で取材しました。

(サンパウロ支局長 木村隆介)

パラグアイってどこにある?

日本から見て地球の裏側に位置する南米のパラグアイ。

南米の大国・ブラジルとアルゼンチンに挟まれた内陸国で、面積は日本の1.1倍ほど、人口はおよそ750万です。

パラグアイの首都アスンシオン

そもそもパラグアイってどんな国?

輸出の大半を農産物が占める農業国で、特に牛肉と大豆の輸出が盛んです。

大豆は世界3位、牛肉は10位の輸出量(2022年)を誇ります。(アメリカ農務省調べ)

パラグアイが日本と国交を樹立したのは1919年。

1936年に初めて日系移民が到着して以降、多くの日本人が移住し、現在は約1万人の日系人が住んでいます。

特にパラグアイの主力の輸出品である大豆は、日系人が初めて持ち込み、生産を軌道に乗せたと言われています。

中国・台湾との関係は?

パラグアイは台湾と外交関係を結んでいる世界13か国のうちの1つで、今から66年前の1957年に外交関係が結ばれました。

「南北アメリカで最も反共産主義的」といわれた右派の独裁政権が、台湾との関係を強化。1989年の民主化後も、ほぼ一貫して台湾と関係が近い右派政党が政権を維持してきました。

ただ、中南米でもこのところ、台湾と外交関係を断絶し中国と国交を結ぶ国が相次いでいます。

2016年に台湾で蔡英文政権が発足して以来、台湾と断交した国は9つ。このうち、5か国は中南米に位置しています。南米大陸では、パラグアイだけがいまなお台湾との関係を維持しているのです。

台湾との関係 背景には手厚い支援?

パラグアイの首都アスンシオンには、1986年に台湾との友好関係を記念して台湾の初代総統をつとめた蒋介石の銅像が建てられました。

銅像がある通りは「蒋介石通り」と名づけられています。

台湾の初代総統 蒋介石の銅像(アスンシオン)

また、貧困層の人たちへの支援として、台湾は日本円で200億円あまりを拠出。

2004年からパラグアイ国内におよそ8500戸の住宅を整備してきました。

台湾の支援で整備された住宅

さらに、台湾の支援で最新の設備を備えた病院や大学も設立されています。

現在、台湾からの奨学金で台湾の大学で学んでいるパラグアイの留学生は400人近く。

台湾はパラグアイに対し、インフラの整備や農業の技術支援、台湾の大学への留学生の受け入れなど、さまざまな支援を行っているのです。

アスンシオン国立大学獣医学部 クリスティナ・インベルニシ教授

インベルニシ教授
「台湾には4回の留学経験があります。台湾はパラグアイで課題となっていたブタの伝染病のワクチン導入に大きな助けとなりました。
台湾の人たちは、生産現場や大学、政府機関でも指導してくれました。台湾との協力関係は語り尽くせないほどです」

中国との国交樹立を望む声も

一方で、台湾と断交し、中国と国交を樹立すべきだという声もあります。中南米でも貿易や投資など経済面で中国の存在感が高まっていることが背景にあります。

パラグアイの輸出の大半を占める牛肉や大豆などの農産物の生産組合は「巨大市場・中国への輸出ができず、ほかの南米の国々に比べて不利な状況に置かれている」と不満を募らせています。

畜産業を営む ペドロ・スコリージョさん

スコリージョさん
「ブラジルやアルゼンチン、ウルグアイでは、中国向けの輸出がおよそ6割を占めています。中国への輸出ができれば、パラグアイの牛肉の生産を2倍に増やせるでしょう。
台湾は多くの利益をもたらしてきましたが、市場が小さいのです。中国の人口とは比較になりません」

パラグアイは中国から電子機器や機械などを輸入し、パラグアイにとって中国は世界最大の輸入相手国です。

一方、パラグアイの農産物は中国にまったく輸出できておらず、現地の専門家は中国との外交関係がないことが影響していると指摘しています。

パラグアイの経済研究所 フェルナンド・マシ所長

マシ所長
「遅かれ早かれパラグアイは中国との関係を確立すべきです。中国とパラグアイの間には貿易面で著しい不均衡があります。中国への外交関係の転換は、パラグアイの生産を多様化し、農産物以外の自国の産業を育てることにもつながるでしょう」

大統領選挙でも台湾か中国かが争点に?

ことし4月に行われた大統領選挙でも、台湾との外交関係を維持するかどうかが争点のひとつになりました。

右派の与党候補で元財務相のサンティアゴ・ペニャ氏が台湾との関係維持を主張したのに対して、中道の野党連合の候補は農産物の輸出拡大のために台湾との外交関係を見直し、新たに中国と国交を結ぶ可能性を示唆したのです。

開票の結果、台湾との関係維持を主張した与党候補のペニャ氏が42%の票を獲得。野党連合の候補に15ポイントの大差をつけて勝利しました。

勝利後に演説するサンティアゴ・ペニャ氏

パラグアイと台湾の関係は変わらない?

ペニャ氏の勝利で台湾との外交関係は当面、継続される見通しとなりました。

学生時代、台湾の奨学金で現地での起業家向けの研修に参加した経験もあるぺニャ氏は次のように話しています。

ペニャ氏
「私はこれからも台湾との友好関係を維持したい。ただ、中国と台湾の外交的な対立はお互いで解決するよう願う。大国に挟まれた地域としてわれわれは台湾から多くのことを学んでいる」

そのぺニャ氏、台湾だけでなく日本とも縁があります。実はアメリカの大学院で経済学を学んだ際、奨学金を支給したのは、日本だったのです。

金銭面での支援が必要だったところに日本が手を差し伸べたということで、ペニャ氏は地元メディアに「日本からの奨学金が決まったときは、喜びでどれだけ泣いたか分からない」とも語っています。

パラグアイの新しい大統領に選ばれたペニャ氏。

外交面では、民主主義などの価値観を共有するアメリカ、イスラエル、そして台湾との伝統的な友好関係を重視し、関係強化をはかっていくとしています。

中南米の台湾“断交ドミノ”はどうなる?

中南米では、ことし8月には台湾と外交関係をもつ国の中で最も経済規模の大きいグアテマラで、大統領選挙の決選投票が行われます。

この決選投票に進んだ候補の1人が中国との経済協力を重視する考えを示していて、選挙の結果次第では、台湾との関係に変化が生じる可能性もあります。

かつては「アメリカの裏庭」と呼ばれるほどアメリカの影響力が強かった中南米諸国ですが、今ではブラジルなど多くの国にとって中国が最大の貿易相手国です。資源や農産物の輸出が中心のこれらの国にとっては、中国の巨大市場が魅力的に映っているのは間違いありません。

巨額の支援や投資をてこに切り崩しを進める中国と台湾のせめぎ合いは当面、続くことになりそうです。

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