2022年8月16日
世界の食 ペルー 気候変動 中南米

行ってきましたアンデスの“じゃがいも祭り”意外な危機とは?

カレーに肉じゃが、ポテトサラダにポテトチップス。

わたしたちの日々の食卓に欠かせない食材・じゃがいも。世界での消費量は米や小麦に次いで3番目に多く、10億人以上が日々食しているとされています。

そのじゃがいもの原産地は、インカ帝国が栄えた南米のアンデス山脈周辺。
しかし、今、現地では、ある異変が起きています。

ちょうど「じゃがいも祭り」なる催しが開かれると聞いて行ってきました。

(サンパウロ支局長・木村隆介)

アンデス山脈にあるピサック村(ペルー)

標高は富士山の頂上を上回る約4000メートル。高山病対策の薬を飲んでいましたが、酸素が薄いため、すぐに息が切れてはなかなか回復せず、深呼吸を繰り返しながらの取材です。

15世紀から16世紀にかけて栄えたインカ帝国があったこの地では、先住民族の人たちが、独自の食文化を守って暮らしています。

「じゃがいも祭り」で踊りを披露する人々

この日、行われていたのは、じゃがいもの収穫を祝う年に1度の「じゃがいも祭り」。アンデスに伝わる色鮮やかな「ポンチョ」を着た村人たちが踊りを披露し、大地の恵みに感謝していました。

じゃがいもは、インカ帝国を侵略したスペイン人がヨーロッパに持ち帰り、その後、世界へと普及していったと言われています。祭りでは、調理した焼きイモ、ならぬ「焼きじゃがいも」が振る舞われました。

「焼きじゃがいも」はさつまいものような風味でほんのりとした甘みがある

アンデス一帯で栽培されているじゃがいもの色や形はさまざまで、種類はなんと4000種以上にのぼるということです。

色とりどりのアンデスのじゃがいも

なぜそんなに種類が多いのか。その理由は、単一の品種だけを育てた場合、病害で全滅するおそれがあるからです。このため同じ耕作地で多様な品種を育てることで、収穫を安定させ、飢餓から身を守ってきたのです。

じゃがいも保存施設 リノ・ママニ代表
「わたしたちの子どもたちのために、多様な品種を育てています。将来の世代が飢えに苦しむことがないように、残していかなければなりません。じゃがいもは私たちの主食であり、命綱です」

アツアツの「焼きじゃがいも」を食べながら、地元の人たちと話していると、ある農家の男性が困ったことが起きていると教えてくれました。

この村で長年にわたってじゃがいもを栽培しているナザリオ・キスペさん。自宅近くの畑で年々、じゃがいもに害虫の被害が目立つようになっていると言うのです。

じゃがいもの害虫

じゃがいもは害虫が少ない寒冷地で生育しますが、標高3800メートルのこの畑でも20年ほど前から害虫による被害が発生するようになり、被害は年々、増えていると言います。

ナザリオさんが原因とみているのが、地球温暖化による気温の上昇です。被害を避けるため、ナザリオさんは、より標高の高い場所でのじゃがいもの栽培を始めていました。

向かったのは、400メートル上がった、標高4200メートルの地点にある畑。自宅から徒歩で2時間半の険しい道のりを歩かなければなりません。

高度を上げたことで害虫などの被害は減りましたが、今度は別の問題が出ていると言います。山頂に近いため、寒さで畑に霜が降りたり、ひょうが降ったりして被害が出るのです。

ナザリオ・キスペさん

ナザリオ・キスペさん
「温暖化の影響でじゃがいもの栽培はどんどん高い土地へと追われています。ここよりも高い山頂付近には岩場が広がっているので、畑はつくれません。将来がとても不安です」

伝統のじゃがいもを守るため、現地ではさまざまな対策が検討されています。

そのひとつが、研究機関と連携した品種改良。厳しい環境下でも栽培ができるじゃがいもを生み出そうとしているのです。

さらに高度100メートルごとに小さな畑をつくり、その土地に適したじゃがいもの品種を探す調査も行われています。

先住民族の支援団体 代表 アレハンドロ・アルグメドさん

アレハンドロ・アルグメドさん
「例えば高地には寒さに強い品種、比較的低い土地には害虫に強い品種が必要です。科学だけでなく伝統的な手法も用いて、じゃがいもの品種改良に取り組んでいます」

アンデスのじゃがいもは、そのカラフルな色と独特の食感が人気を呼び、南北アメリカやヨーロッパ向けに輸出され、日本にも一部、家庭用などに調理済みのものが輸出されています。先住民の人たちの貴重な栄養源であるだけでなく、貴重な収入源でもあります。

しかし、その栽培は、ナザリオさんのような小さな農家が担い、危機に直面していて、現地の専門家は、このままのペースで温暖化が進めば、40年後にはアンデスでじゃがいも栽培ができなくなるおそれがあると警鐘を鳴らしています。

世界の食卓に広く恩恵をもたらしたじゃがいも。その原産地を守るために何ができるのか。私たちの気候変動への向き合い方も問われているように思いました。

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