目が見えなくても やりたいって思えば何でもできる

高田千明

パラ陸上

公園が練習場所だった。新型コロナウイルスの緊急事態宣言のあと、高田千明は、人けのない公園の隅で走り込んだ。そんな日々が2か月に及んだ。
高田は18歳の時に、病気で視力を完全に失った全盲のジャンパー。2019年の世界選手権で4位、日本記録を更新する4m69cmを跳んで東京パラリンピックの代表に内定した。 しかし、東京パラリンピックは1年の延期に。2020年8月、2回目の開幕1年前を迎えた高田の表情はさえなかった。

「正直、あげてきた気持ちがプツンと切れたというか。パラリンピックをやるのかやらないのか、今後、練習はできるのか、できないのかという不安がいっぱいの中で気持ちの持って行き場がない」

目が見えない高田が、特に不安に感じているのが、接触による感染リスクだ。日常生活はもとより、練習でも道具を準備するときは、両手で触って探さなければならない。

フィールドでもコーチが隣で走って誘導したり、肩に触って助走の方向を指示したりするなど、直接、人やものと触れることはどうしても避けられないのだ。

「目で見えない分、においを嗅いだり手で物を確認したりして、生活している。練習でも必ず腕につかまって走るので、2m以上、離れなさいっていうのは不可能に近い」

それでも高田は東京パラリンピックを諦めていない。なぜなのか。炎天下で何度もジャンプの練習を続ける高田に聞いた。

「新型コロナウイルスという目で見えない、においもしない、怖いものがあったとしても、目標がなくなっているわけではない」

目標とは、東京パラリンピックで5mを超える大ジャンプをみせ金メダルを獲得すること。そして、その姿を少しでも多くの人に見てもらうことで、感じてもらいたいことがある。

「目が見えなくても全速力で走って、跳べる。やりたいって思えば何でもできる。諦めずに何でもやり続けることが大事だと伝えたい」

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