日本代表として負けはあってはならない

清水希容

空手

技の正確さやスピードなどを競う空手の「形」。 世界選手権2連覇、全日本選手権を7連覇し東京オリンピックで金メダル獲得が期待されている日本のエースは、強い責任感で長年に渡って第一線を走り続けてきた。 稽古に取り組む姿勢も別格で、今のその地位を保ち続けている。1日に長いときには12時間、技の強弱や重心の位置など細かな点を修正し、1か月に1回のペースで世界各地で開かれる大会に臨んでいた。

しかし、最近は結果を残せず2019年9月に東京で行われた国際大会で優勝したあとは、ライバル、スペインの選手に決勝で敗れ、2位にとどまる大会が続いた。 さらに2020年1月の国際大会では、2年ぶりに決勝進出を逃した。

「悔しいだけでなく、果たして今の自分のままでいいのかなという気持ちがある。オリンピックまで時間は少ないが、自分と向き合いたい」

こうした中での新型コロナウイルスの世界的な感染拡大。東京オリンピックが2021年に延期され、国際大会も中止が相次ぐ想定外の事態が続いていた。 それでも清水にとっては、試合のできない時こそが、空手とじっくり向き合う時間となっていた。

「これまでは試合に追われて、試合に合わせるせっぱ詰まった稽古になってしまっていた。大会がないので、ただ稽古だけに打ち込めて落ち着いて取り組むことができている。自分の競技生活の中で初めてと言ってもいいくらい貴重な時間だ」

感染防止のために外出を控えていた自粛期間中は自宅で稽古。大会で演武する「形」の稽古はほとんどせず突きや蹴りなど基本動作に修練し、オンラインでコーチの指導を受けながらみずからを見つめ直した。 空手が初めて実施される東京オリンピックは、清水にも空手界にとっても特別な大会だ。 空手発祥の地の選手としてプライドと覚悟がある。

「日本の代表として負けはあってはならない。 本番までの時間がつらくはないかと言われれば、その気持ちはゼロとは言えない。ただ、9割以上と言っていいくらい自分が成長できることのほうがうれしい。国際大会の中止が続き、ぶっつけ本番になる可能性もあるが、確実に着実に力をつけて、最高の演武をしてオリンピックで金メダルを取りたい」

思いがけずに得ることが出来た貴重な時間を活用してのいっそうの地道な努力は、誰にも譲れない オリンピックの金メダルに近づくための確かな一歩になっている。

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