無敗でゴールするのが理想だ

井上尚弥

ボクシング

2012年のプロデビュー以来、負け無し。
井上尚弥はライトフライ級、スーパーフライ級、バンタム級の3階級で世界チャンピオンとなった。

2022年6月、バンタム級2団体統一王者としてWBC=世界ボクシング評議会のチャンピオン、フィリピンのノニト・ドネアとの王座統一戦に臨んだ。
試合前の井上は自信にあふれていた。

「圧倒して一方的に勝つ。今回はそれがテーマです。通過点の相手でしかないと思っているので。ここを山場の試合にしたくない」

強気とも思えた言葉は、かつての試合の反省と自分のボクシングのさらなるステップを見据えてのものだった。

2019年11月、井上とドネアは団体の枠を超えて階級で最も強い選手を決める大会、「ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ」の決勝で対戦。
井上は判定勝ちを収めたが、「ミスがあった」と悔いの残る試合となった。警戒していたはずのドネア得意の左フックを顔面に受けて深手を負ったからだ。

同じミスを犯さないため、ドネアと同じフィリピンのスパーリングパートナーを呼び、フィリピン選手独特のパンチのリズムや角度に体を慣らした。元世界チャンピオンの八重樫東のトレーニングで下半身を中心とした肉体改造にも取り組んだ。

そして迎えたドネア戦。
開始直後にドネアの左フックが、井上の顔面を捉えた。

前回の苦しんだ試合が頭をよぎった。

「2年7か月前を思い返させるような瞬間だった。目が覚めるというか、しっかりしないとダメだと」

ここからの井上に隙はなかった。
「打ったパンチ1つひとつを記憶している」と振り返るほど落ち着き、第1ラウンド終了直前、強烈な右ストレートでドネアからダウンを奪った。
第2ラウンド、攻勢をかけた井上はドネアをロープ際に追い込み、最後は自身も得意とする左フックでマットに沈めた。
日本選手で初めての3団体統一チャンピオンとなった。

「ドネアとの再戦でこうして最高の結果を残せた。最高の日になった」

試合のあと、アメリカの権威あるボクシング専門誌、「ザ・リング」はすべての階級を通じて最も強い選手を選ぶランキング、「パウンド・フォー・パウンド」を更新、井上を1位に選んだ。日本選手としては初めての快挙だった。

5階級を制したドネアすら通過点とした井上。
バンタム級の4団体王座統一というさらなる高みに向け、力強く宣言する。

「ドネア戦で、あれだけのパフォーマンスをしたから、期待されるのは重々承知のうえで、あれぐらいの試合をしなければいけない。バンタム級でやり残した試合は1つというところまで来た。あと1つをしっかり取りたい」
「プロボクサーとしての最終地点は35歳と考えている。それまで無敗でゴールするのが理想だ」

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