史上最高のスケーターと一緒に滑ることができたのは光栄なこと

ネイサン・チェン

フィギュアスケート

北京オリンピックのフィギュアスケート男子シングルで金メダルを獲得したアメリカのネイサン・チェン。
大勢のメディアに囲まれたメダリスト会見で22歳の新王者が発した言葉は、偉大なライバルへの敬意にあふれていた。

チェンにとってオリンピックは苦い記憶のある舞台だ。

「2018年のショートプログラムを振り返ると感慨深い。ミスから学び成長する機会を与えてくれてうれしく思っている」

4年前のピョンチャンオリンピック、当時18歳のチェンは有力な金メダル候補の1人だったが前半のショートプログラムでジャンプ転倒などミスが相次ぎ17位に沈む。後半のフリーで猛追したが、5位に終わった。

スポットライトを浴びたのは羽生結弦だった。
この種目66年ぶりの2連覇を果たした。
チェンは悔しさをばねに、スケーターとして絶対的な強さを確立していく。最大の武器である5種類の4回転ジャンプは精度をさらに高めた。
子供の頃に習っていたバレエに裏打ちされる表現力やスケーティング技術も磨き上げた。
世界最高得点を次々と更新し、ピョンチャンオリンピックの直後から世界選手権3連覇と圧倒的な成績を残してきた。

「13歳くらいの少年の時から見てきた彼は、長年、自分をとても刺激してくれた」

積み重ねてきた努力の背景には、5歳上の先駆者である羽生の存在もあった。
チェンが多彩な4回転ジャンプを驚異的な確率で成功させていく一方で、羽生はチェンが唯一取り入れていない前人未到の4回転半ジャンプ=クワッドアクセルの成功に心血を注いできた。
互いがそれぞれの形でフィギュアスケートの競技レベルを引き上げてきた。

チェンは両親の祖国で迎えた2回目のオリンピックで躍動した。
ショートプログラムで羽生の世界最高得点を更新し、フリーでも4種類の4回転ジャンプを5回跳ぶ高難度の構成を演じきって金メダルを手にした。
一方の羽生は4位。
フリーでクワッドアクセルに果敢に挑み、転倒したもののISU=国際スケート連盟の公認大会で初めてクワッドアクセルとして認定された。

「彼はこの競技の壁を打ち破って前に進めてきた。史上最高のスケーターと一緒に滑ることができたのは光栄なこと。僕たちは永遠に彼に感謝し続ける」

チェンの言葉には、勝敗を超え挑戦の尊さを体現した羽生への賛辞だけではなく、ともに高みを追求してきたみずからの道のりへの自負もにじんでいた。
チェンが金メダルを獲得したこの4日後、羽生もまた会見に臨んだ。

羽生は「質問がある人は挙手を」という司会の呼びかけをさえぎるようにみずから手を挙げて切り出した。

「金メダルを取ったネイサン・チェン選手はすばらしい演技だった。やっぱりオリンピックの金メダルって本当にすごいこと。そのためにたくさんネイサン選手も努力したと思う。彼には4年前の悔しさがありそれを克服したのはすばらしいことだ」

頂点に立つ喜びと難しさを知る羽生がチェンに送ったメッセージだった。

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