集中力を持ち続けてレースや練習に向き合うのはすごくきついが、そのぐらいの覚悟が必要

田中希実

陸上

東京オリンピックの陸上女子1500mで、日本選手初となる8位入賞を果たした田中希実。さらなる高みを目指す2022年シーズンは、ストイックに自分自身と向き合っている。

2022年4月のシーズン開幕から田中は毎週、大会や記録会に出場。専門外の400mから10000mまでさまざまな距離で実戦を重ねる独特の調整で自身の走りに磨きをかけてきた。
しかし、納得できる結果がなかなか得られない。日本選手でトップになっても、外国選手に競り負けてしまう。

5月、アメリカに遠征して出場した国際大会では、オリンピックで結果を残した1500mで、完走した選手の中で最下位の15位。
海外のトップ選手たちの勝負にこだわる気迫に圧倒された。

「気持ちがぶつかり合う瞬間というのを目の当たりにして、そこにすごく恐怖を感じた。自分は世界で戦おうとしているのに、この人たちに勝てないと思った。国内のレースでも、そういう展開になったら、勝ちきれる自信がないと思ってしまった」

追い求める答えが見つからないまま迎えた6月の日本選手権。
周囲の期待とは裏腹に、田中の心は揺れ動いていた。

「感触が全然よくなかったので、ホテルの部屋の中でも迷惑にならない程度に枕に顔をうずめて叫んだり、甘いものと思って朝からパンケーキを食べてみたりとか、いらいらを鎮めるには、どうしたら発散できるかを全部行動にしていた」

日本選手権で、田中が選択したのが、4日間で800m、1500m、そして5000mの
3種目、5つのレースに出場するという異例の挑戦だった。

最終日は800m決勝のおよそ1時間後に5000m決勝が組まれていた。
その5000m決勝で、田中は本領を発揮した。最後の1周手前から、世界を見据えて強化してきたラストスパートをかけて、同世代のライバル、廣中璃梨佳を引き離して優勝した。

最終的に、田中は1500mと5000mの2種目で優勝し、7月にアメリカで開かれる世界選手権の代表内定を勝ち取るとともに、大会の最優秀選手に選ばれた。
日本選手権で、自身に課した過酷な課題をしっかりとやり遂げた。

「今回は自信がない自分をどうしたらなだめられるか、という部分で最後までこだわることができた。マイナスなことが次から次に出てくる、すごくしんどい4日間だったが、そこから逃げないということができたので、今回、自分に勝てた。自分が何がしたいのかということと全部向き合ってブレずに過ごせた4日間だった」

手応えをつかんだ田中は、日本選手権の後も、自身のスタイルを貫いて、世界選手権に向けた調整を進めている。
北海道で行われた大会では、1000mを日本新記録で優勝し、およそ1時間後の1500mのレースでは、ペースメーカーを務めて、みずからを追い込んでいた。

再び世界に挑むうえで、より確かな自信を得るため、自身の進むべき道をストイックに突き進んでいる。

「自分に負荷をかけることで、火事場のばか力が出る。集中力を持ち続けてレースや練習にずっと向き合うのはすごくキツいことだけど、そのぐらいの覚悟が必要な域にきていると思う。海外にも日本の代表として、いままで以上にチャレンジャーでもあるが、どっしり構えて世界で戦える選手になっていきたい」

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