このままじゃ終われない。もっともっと上を目指す

松元克央

競泳

東京オリンピック、大会3日目の7月25日に行われた男子200m自由形予選。レース直後のインタビューで、カメラが止まると彼は「期待に応えられず、すみませんでした」と律儀に頭を下げた。
そして、こうつぶやいた。

「神様はいないのかな」

競泳の日本男子自由形のエース、松元克央が世界を意識したのは2017年のことだ。日本選手権で好成績を残し初めて日本代表入りを果たすと1本の電話をかけた。
相手は鈴木陽二コーチ。1988年のソウル大会で鈴木大地さんを金メダルに導くなど多くのトップスイマーを育ててきた名伯楽だ。

「先生のクラスでやりたいです」

自分自身がさらに成長するためには質・量ともに厳しい練習で知られる鈴木コーチの指導が必要だと訴えた。鈴木コーチは同じスイミングクラブの別のコーチのもとで結果を出していた松元に「今のままでいいじゃないか」と答えた。
しかし、松元は納得しなかった。

「世界を目指したい」

その覚悟が揺らぐことはなかった。
練習は想像以上に厳しく「こんなのできるわけがない」と思った。
それでも「先輩たちはこれをやってきた。僕ができていないだけだ」と言い聞かせて必死に食らいついた。「もう2度と経験したくない」というほどの日々が松元を強くする。

2021年4月の代表選考会、2019年の世界選手権の優勝タイムより速い日本新記録でオリンピックの切符を勝ち取った。

自信を深めて迎えた初めてのオリンピック。松元はメダルを手にすることができなかった。決勝のレースに進むこともできなかった。
自分らしい泳ぎを見せることさえできなかった。

「自分の中での“頑張る”という言葉がまだまだ甘かった」

悔やんでも悔やみきれない思いをかみしめた。
これまでの努力が結果に結びつかなかったまな弟子に鈴木コーチは「人生の浮き沈みは誰しもが経験する。すべて糧にしてほしい」とエールを送った。
恩師のことばは、松元を突き動かす。

「このままじゃ終われない。もっともっと上を目指す」

いつか水泳の神様がほほえむその日まで。

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