1つ勝った。それがよかった

大野雄大

野球

2022年5月6日、バンテリンドーム ナゴヤは、異様な空気に満たされていた。その中心にいたのは、中日のエース 大野雄大。ランナーを1人も出さないパーフェクトピッチングを続けていた。

迎えた9回。ライトを守る岡林勇希がフェンス際の大飛球をジャンピングキャッチ。このファインプレーも手伝って27人を完璧に抑えた。
しかし、無情にも味方の援護がない。
試合は10回に入り、大野は30人目のバッターにヒットを打たれ大記録がするりと逃げた。

それでも、大野は集中を切らさなかった。両手を高く上げ、チームメートに落ち着くようにジェスッチャーで意思表示。
そして、31人目のバッターをきっちりと抑えた。

その裏、打線がようやくつながり、中日はサヨナラ勝ち。
誰もが、あと1イニング早く出ていればと悔やんだのは言うまでもない。
しかし、大野はチームの勝利に満面の笑顔でこたえた。

昨シーズンは7勝11敗と3年ぶりに負け越した大野。これまで幾度となく打線の援護がなく勝ち星がつかないこともあった。
苦しんださなかでも、大野は決して感情をあらわにすることなく淡々と取材に応えていた。

「勝ちがつかないとしんどいですけど、ほんまに自分に勝ちがつかなくてもチームが勝てばいいと思ってます」

この日、大野は大記録を逃しても、涼しい顔でそのあとを抑えた。
そしてこう言った。

「完全試合というよりは1点もやらないというのを継続した。1つ勝った。それがよかった」

エースはいつもチームの勝利を第1に考える。改めてそう思わされた完全試合を逃した夜だった。

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