やっぱり負けるのはすごく嫌

上地結衣

車いすテニス

試合終了から1時間たっても、こぼれ落ちる涙は止まらない。むしろ、時間がたてばたつほど涙は大粒になっていくようだった。

「プレーはやりきった。でも、やっぱり負けるのはすごく嫌」

パラリンピックの車いすテニス女子シングルスで日本選手として初めての決勝進出。そして、前回大会の銅メダルを上回る銀メダル。しかし、そのいずれも上地結衣の心に芽生えた悔しさを和らげるものではなかった

東京パラリンピックの決勝は上地にとってリオデジャネイロ大会からの5年間の集大成となる試合だった。決勝の対戦相手はオランダのディーデ・デ フロート。ここ3年、世界ランキング1位に君臨し続ける24歳の女王は、四大大会をはじめ数々の試合で強烈なバックハンドと深く伸びるストロークを武器に上地の前に立ちはだかってきた。
彼女に勝つためにはどうすればいいのか。上地が導き出した答えは得意としてきた粘り強く守備的なプレースタイルだけに頼らず、みずから積極的に仕掛ける攻撃的なプレーを取り入れることだ。

その成果は東京の決勝の舞台で試された。
試合はパワーあふれるデ フロートのプレーに押される展開。第1セットを先取され、迎えた第2セットの第10ゲーム、ゲームカウントは4-5。あとがない場面で上地は自分を信じてラケットを振り抜いた。
マッチポイントを4回握られたが、持ち前の粘りでしのいだ。そして、このゲームの最後のポイント。磨いてきた力強いフォアハンドのショットが相手コートに突き刺ささった。プレーの幅を広げてきた成果をコートで表現した瞬間だった。

試合を終えたあと、上地は自分を破り、金メダルを手にしたライバルを笑顔でたたえた。その表情は全力を尽くしたという達成感がにじんでいるように見えた。しかし、心の内は違った。涙を流しながら上地は話した。

「表彰式の後、デ フロート選手に『いいプレーだった』と言われたとき、私は『ありがとう』という気持ちより悔しいと思いました」

負けず嫌いの心の火が大きくなった。

「このままでは終わりたくない」

涙の銀メダルが上地をさらなる高みへと突き動かす原動力になる。

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