10年間、よくここまでやったなと思う

寺本明日香

体操

体操の寺本明日香、25歳。2021年5月、東京オリンピックの代表選考を兼ねたNHK杯で5位に終わり、代表メンバーに選ばれなかった。
NHK杯前の1か月、もともと痛めていた右の足首が再び痛み始め、練習のできない日々が続いた。

「オリンピックに出たいという気持ちはあるけれど、勝負の世界だし、そんな甘ったるいものではない。今の自分の体操で戦えるかと言われるとそうではない」

寺本はロンドン、リオデジャネイロと2大会連続でオリンピックに出場。リオデジャネイロ大会ではキャプテンとして日本の団体4位入賞に貢献するなど、およそ10年の間、日本女子を引っ張ってきた。
2020年2月には、左足のアキレスけんを断裂する大けがを負ったが、リハビリを経て競技の場に復帰。3大会連続のオリンピック出場を目指してきたが、直前に再び右足を痛めた。
それでも寺本は選考会へ気持ちを切り替えた。

「NHK杯では寺本明日香の体操をファンや観客のみなさんに届けたいと思っていた。この舞台に立てている幸せを身にしみながら演技していた。代表選考会と言うより、この雰囲気を楽しんでやっていた」

ミスもあり、代表内定はならなかったが、跳馬では練習を重ねてきた高難度の「チュソビチナ」を決めて、高得点をマークした。

「めっちゃすっきりしている。失敗はあったけれど、すごく楽しかった」

「楽しかった」「満足だった」ということばが笑顔とともに続いた会見。最後に、これまでを振り返り、自分自身に何と声をかけたいか、問われた。
寺本は少し息を吐き、手で顔を覆った。

「すみません、いろいろ思い出してしまって。本当に10年間、よくここまでやったなと思う。10年間トップでいたから、いろんな思いがあったし、いろんなこともあった。ここまで引っ張って来られてよかったな、幸せだったなと思う。本当に楽しかった」

涙はしばらく続いた。

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