卓球以外でも強くなった

伊藤美誠

卓球

伊藤美誠にとって、8か月ぶりの国際大会は、初めての経験の連続だった。
2020年10月中旬、大会が始まる3週間も前に到着した中国・上海の空港では、新型コロナウイルスの感染対策として防護服を着た関係者に囲まれ、隔離専用のホテルに移動。そこから2週間に及ぶ隔離生活が始まった。
5日目までは部屋から一歩も出られず、20歳の誕生日も1人、部屋で過ごした。隔離生活6日目に待っていたのは、長時間のバス移動。上海から、大会が開かれた威海までは、およそ1000キロ。隔離期間中の伊藤は、外部との接触を避けるため、飛行機の利用を認められなかった。
バスの中では狭いトイレを使用しなければならず、ひじやひざを何回もぶつけた。朝6時の出発から13時間以上かかって、ようやく到着。さらに移動したあとも3日間は再び、誰とも接触できず、ひとりの時間。そんな日々が続いても伊藤は前向きだった。

「普段ゆっくりできる時間がないので、本当にゆっくりできた。段々と慣れてきて、工夫をすればいい隔離期間になるんじゃないかと思って過ごしていた」

練習の許可が出たのは、隔離生活10日目。それでも、ほかの選手と接触しないよう、大会側から練習時間を細かく指定された。ふだんなら納得のいくまで練習を続ける伊藤。だが、それも許されなかった。
調整に時間がかかり、練習のスケジュールが決まるのは前日の夜。直前で変更になることもしばしばだった。それでも久しぶりの練習を通じ、自分の中にある卓球への思いに改めて気がついたという。

「卓球ってやっぱり人と人がいないとできない競技なので、人と打ち合えるっていうのがすごく楽しくて。卓球が久しぶりにこんなに楽しいんだって思った」

ただ、この後もPCR検査に苦しんだ。隔離期間中は1日おき、隔離が明けても3日に1回、試合当日にも行われた。特に鼻での検査がつらかったという。

「(検査器具を)鼻に刺されるのが本当に痛かった。粘膜をやられて鼻水が出るなどきつかった」
これまでとは全く違った環境で迎えた8か月ぶりの国際大会。それでも伊藤は動じない強さを見せた。

世界トップクラスの選手が出場した2つの大会で、いずれも準決勝進出。コロナ禍での開催が想定される2021年の東京オリンピックへ、確かな手応えを得た。

「試合だけではなく、どんなことがあっても対応できる選手になりたいと思っていた。今回はそれができたし、本当に卓球以外でも強くなったと思う」

どんな時にも前向きな姿勢を失わない20歳。日本のエースは、またひとつ、強さを身につけた。

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