新NISAで投資立国へ 「積立王子」中野晴啓さんに聞く

いま注目される分野のリーダーに日本経済再生のヒントを聞く「2024 ニッポンの勝ち筋」。1回目は「投資立国」をテーマに、ことしスタートする「新NISA」の制度設計に関わった、投資信託協会の前副会長の中野晴啓さんにインタビューします。

新NISAは投資で得られた利益を一定の限度内で非課税とする制度です。注目は、非課税で保有できる期間が無期限になり、非課税で保有できる限度額も1800万円と大幅に緩和されたことです。

新しい制度を通じて、日本がいま投資立国を目指す意義は何か?神子田章博キャスターが聞きました。

「長期」「積立」「分散」の理念 普及を

中野さんは2023年、クレジットカード会社の傘下にある資産運用会社の会長を退任したあと、新たな資産運用会社「なかのアセットマネジメント」を立ち上げました。

中野晴啓さん
新会社のオフィス。「飾りっけゼロ。準備にみんなでまい進」

中野晴啓さん
とにかく一刻も早く新しい運用を皆さんに提供して、一緒に旅をしたい。『長期投資の旅』という言い方を僕はしている

中野さんは新NISAの基本的な理念である「長期」「積立」「分散」投資を広めてきた第一人者です。

かつて個人の投資と言えば、相場が値動きしたらすぐに売買する短期投資が主流でした。その背景には、手数料収入をねらった金融機関の販売手法がありました。

それが、日本に投資文化が根付かない原因だと感じた中野さん。定期的にコツコツと投資し長期保有することがリスクを抑えた資産形成につながるとアピールし続け、「積立王子」の愛称で親しまれてきました。

長く投資を続ければ、ちゃんと将来に向けての経済的自立は果たせるんだという確信的なものがあったので、小さくても、自分たち自身がまず真っ先にその萌芽をつくっていかなきゃという思いで尽力してきた

「私たちの預貯金が日本再生のカギに」

いま中野さんは、日々の公演活動を通じて個人投資家に「私たちの預貯金が日本再生のカギを握る」というメッセージを呼びかけています。

日本証券新聞社主催の講演会で話す中野さん

2023年12月12日に東京で行われた日本証券新聞社主催の講演では「日本は(家計資産の)55%が現預金で、とりわけ1000兆円が預貯金。(預貯金の)たったの1%でも、新たな富、すなわちリターンを生むお金に換えられれば。僕らのお金が僕らの意思で富を生むようになるだけで、日本のマクロ経済を変えられる」と話しました。

個人の方々が自分のお金を経済活動の中に働きに出して、そして経済活動の成長を糧として、そのお金が育って自分に戻ってくる。この個人ひとりひとりの集積が、うねりになる、ムーブメントになることが、今回のNISA制度の普及にたいへん重要な意義がある

投資で日本企業を応援する流れを

神子田キャスター
―懸念しているのは、新NISAでは外国企業が入っている株式投信を買う人もいることです。日本で還流させるために日本の企業はどうしたらいいでしょうか?

今回ちょっと(動くお金の)スケールが違いますから。一定の部分が日本の産業界に回って、日本の産業界をチアアップ(応援)するお金にならないといけないと思う

日本企業への投資を呼び込むため、中野さんが新会社の事業の中核に据えようとしているのが、有望な日本企業を選別して投資するファンドの設立です。

本当にまじめに、長い時間をかけて、いい会社を(投資先として)選んでいって、『もっといい会社になりましょう』『もっといい仕事をしましょう』と

―資産運用会社が企業を見る目が厳しくなれば、企業もそれに応えようと頑張らなければいけないんですね

全くおっしゃるとおりです。お互いの緊張感というものが、よりよい資本市場をつくっていくし、生活者の方々全員の共通意思として日本の企業をしっかりと応援していく。そしてもっと強くしていく。そういった流れを投資信託の中で表現していく。これが僕自身のこれからの社会的使命だと思っている

「みんなが行動する“元年”に」

2024年はどのような年になるのか。中野さんに展望を書いてもらいました。

「ニューパラダイム元年」。その意味するところは…

デフレ文化がすっかり定着してしまった日本社会において、言ってみれば“しみったれ文化”から脱却するための、みんなの行動スタートの最初の年。『みんなNISAで長期投資やってますよ』という社会が実現するとすれば、参加した人みんな一様に5年10年たつと、お金がそれなりに育ってくると実感できるはず

(消費が増えて)産業競争力が強くなれば、経済も少しずつまた元気になって、結果われわれの賃金、所得も増えてくる。両方で所得が増えてくる実感が湧けば、アメリカ人に負けない楽観国民に日本社会が変わっていける

かつて預金が集まる銀行には、どの企業が成長するのかを見極める“目利き”がいて、預金で集めたお金を成長企業に流していく大きな役割がありました。これからは個人から投資されたお金が、市場のメカニズムを通じて成長力のある企業に流れていく。それによって日本経済全体が成長する。新NISAがひとりひとりの資産形成だけでなく、日本経済の成長にもつながっていく。そう中野さんは期待を示していました。

ただし、投資には元本割れのリスクもあることを忘れてはいけません。長期・分散を心にとめておくことが大事だということです。
【2024年1月5日放送】
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