2021年10月08日
(聞き手:堤啓太 徳山夏音)
1か月にわたる厳しい試験の突破を条件に、無料でプログラミングを学ぶことができる「42Tokyo」というスクールがあります。責任者を務めるのは25歳の長谷川文二郎さん。大学中退後、職を転々として今の仕事にたどりつきました。「レールを外れた」人生で見えたのは・・・。
学生
堤
長谷川さんのこれまでの人生、波乱万丈だったとお聞きしています。今までの経歴を教えてください。
大学は医学部志望だったんですけど落ちてしまったんです。
42Tokyo
長谷川さん
それでやむをえず工学部に入って、社会に出てお金を稼いでから医学部に入ろうと。
でも4年間も辛抱できないと思ってすぐ辞めてしまいました。
そうなんですね。
42Tokyo 長谷川文二郎 事務局長
フランス発、世界27か国で展開するプログラミングスクール「42」。日本版の責任者を務め、試験やカリキュラムの管理などを行う。在校生は427人(2021年6月現在)。大手IT企業への就職を決めて卒業する人も。
海外で寿司職人になるととても高い給料をもらえると聞いて、それを目指すことにしたんです。
でも、寿司職人って本当に大変で、体調が悪くなって辞めました。
それで植木屋さんをやったんですけど、これも正社員になれず挫折しました。
はい・・・
その後は、シェアハウスで半年間ぐらいゲームをやって、お遍路に行ったりして・・・
明確なビジョンがあったわけではない?
あ、まったくないです。
とにかくお金をつくって、やれることの幅を増やそうと。
多分、学生ってとりあえず大学生活が楽しくて、就職してっていうのがあると思うんですが。
どんどんいろんなところに飛び込めるマインドがうらやましいというか。
学生
徳山
レールから外れる勇気って持っていないので。
そうかー。
でも、本当に生きてるだけですばらしいことです、最高ですよ。
全部失ってもみんな敵じゃないんです。
何で突然お遍路に行こうと思ったんですか。
クラウドファンディングをやりたいと思って。
僕が完全ゆとり教育世代だったので、「ゆとりが悟れば楽しいかな」みたいな言葉遊びで、お遍路かなと。
おぉ!
「お遍路を回りたいです。理由は分かりませんけど、それを見つけにいきたいです」っていうクラウドファンディングで、お金が集まってですね。
期間にしたら2か月くらい、けっこう優雅な。
優雅だったんですか!?過酷なのかと思ってました。
いや、過酷ですよ、体はめっちゃ疲れる。
けど、周りの同級生とかは大学で単位に追われてるわけじゃないですか。
そんな中、四国をただ歩くなんて、楽しくて楽しくてしかたなかったです。
ある種の「焦り」みたいなものはなかったんですか。
全然なかったです。早々にレールから外れちゃってたので。
でも、途中で銀行口座が0円になっちゃったんですよ、ほんとに全財産がなくなった。
集めたお金も全部使い切っちゃったってことですか。
そうなんです。
フェイスブックで銀行口座をさらしてお金もらったり、ヒッチハイクでほかのお遍路回ってる人の車に乗せてもらったりとかして、なんとか回ったんです。
それで、お遍路は終えたんですね。
無一文で東京に帰ってきたんですけど、そんな折「DMMアカデミー」っていうDMMの亀山会長の私塾みたいな所に応募して入ることになりました。
どうして入ろうと思ったんですか?
同期の人とビジネスを一緒にやったり、学んだりできるのかなって勝手に考えていました。
でも、実際に行ったら初日に会長から「何も用意してない」って言われて。
名刺とビルに入るセキュリティカードを貰って、これで「やりたいことやれば」って。
僕はやりたいことがなく、ただ同期がほしかっただけなんですが・・・
はい。
なので、イスとか運びましたね、とりあえず。
広報の人たちがいろんなイベントを開いていたので、そのイスを運んで知り合いをとりあえず増やしていくっていう。
なるほど。
僕以外の同期は目的がいっぱいあったので、50以上ある事業部にインターンみたいな形でみんな出ていったんですよ。
僕だけずっとイス運びをしてたら、ある日会長がアカデミーの出身者と連絡を取れる担当をつくると。
僕はずっと暇してるんで、「じゃあお前やれ」って言われて。
そこからなし崩し的に責任者みたいになって、採用も運用もやれってなりました。
えっ、とりあえずやってみたってことですか?
だって、やるしかないかなと思って。
でも、自分の実力不足もあってうまくいかないというか、スケールしていかなくて…。
結局、たたむことになるんですけど、すごく勉強させてもらいました。
そうなんですね。
それで、自分をもっとうまく活かせられないかなって気持ちが芽生えてきて。
われわれがアカデミーでうまくできなかったのは、やっぱりカリキュラムがなかったからなんですよ。
教育って再現性だと思っていて、どんな人が来てもある程度ここまで持ち上げられるということが大事で。
その課題感が「42」だとカリキュラムもあるし、世界何か国でもやってるから再現性もあるよねという話になって。
なるほど。
そんな時に会長の亀山がフランスに行くっていう情報を聞いて、絶対これは「42」の視察だと。
でも「行かせてください」って言っても、事業をうまくいかせた人間でもないし、無理かなって思ってたんです。
それをスタートアップをやってる友達に話したら「亀山さんと『偶然』フランスで会えばいいんじゃない?」って言ってくれて、確かに!と思って。
えっ。
でも、さすがに怖かったから、出発数日前に声を震わせながら亀山さんに「そういえば僕もフランス行くんです、同じ便ですね」みたいな。
そしたら「やりやがったな」みたいな感じだったんですけど、視察にもついていけて、「42」分かるやつっていう立ち位置で、立ち上げメンバーに入れてもらえました。
すごい・・・
視察した時に本当に感動して「42に入学したい」ってなって。
DMMの業務委託って形で現地調査の仕事をもらいつつ、試験を受けたら何とか受かって、フランスの42に入学しました。
思っていたとおりでしたか?
めっちゃ楽しかったです。すごいなと思うのが包容力。
だって僕がつたない中学レベルぐらいの英語でしゃべっても、みんな邪険にせず、一生懸命話しかけてくれる。
コードがああだとかこうだとか言いながら。それってすごいなと思って。
しんどくなかったですか?
いや、しんどいっすよね。
でもしんどいのが楽しい時ってあるんですよね。
42に午前11時から深夜3時ぐらいまでいて、その後、日本の仕事をやってという過密スケジュールだったんですけど、ずっと楽しかったですね。
いつ行ってもコードについて話せる友達がいるし、帰ろうと思っても「まだ帰らないでコーヒー飲もうよ」みたいな感じで。
今はもう(フランス語を)話せるようになったんですか?
全く話せないです。
意外とできるんですよ、しゃべれなくても。
さまざまな経験をされた長谷川さんにとって、仕事とは何か教えてください。
「やれること」ですね。
自分が今まで歩んできたものでいうと、やれることを増やしていくのが、仕事が充実していくことだなと思っています。
ちなみに、そもそも就活は考えなかったんですか。
そうなんですよね。
でも、やりたかったんですよ。
新卒ってすごいですよね、だって大学に4年間通わないとできないし、素晴らしいことだと思いますよ。
でも、就活になって第三者から評価されるってなった時に、自分を差別化できてないって焦りを感じるんです。
全く同じです。
それは理想を高くしちゃってるからかな。
幸せのハードルをもっと下げてみるっていうのも手段ですよ。
差別化するのも否定はしないんですけど、理想を下げてみるっていうのも使えるかなと思います。
はい。
そこまで理想を高くしないで、自分に合ったものを選択するっていうのも重要なのかなって思っています。
何回も言うけど、生きてるだけですごいことだから。
意識してないと思いますけど、ごはんってめっちゃおいしいんですよ。
えっ、はい。
ちゃんと「いただきます」してひと口ひと口味わうと、就活とか気にして味わっていなかったことに気付きます。
で、就活に失敗しても、そのごはんをちゃんと味わうと、めっちゃおいしいんですよ。
それで幸せだったら勝ちじゃないですか。
ちょっと、お坊さんのお話みたいです。
(頭も)坊主だしね(笑)
後編ではプログラミングを学ぶことがなぜ大事なのか、詳しく聞きます。
編集:加藤陽平 撮影:小野口愛梨
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